第八話 魔王城の中に勇者がいます 転ばぬ先の骨
次に現れたのはスケルトンだった。彼にも見覚えがあるな。
「スケルトンよ。久しぶりだな。元気にしていたか?」
「魔王様。ワタクシは種族柄、その問いには困惑ですホネ」
「あー、すまん。つい、こちらの風習で挨拶してしまった。改めて、スケルトン、今宵も病んでるな」
「クフフッ、魔王様も超絶病んでらっしゃるホネ」
「お、おい! スケルトン! 病んでるとは、いくらなんでも魔王様に失礼ではないですか!?」
「あ、いや、いいんだ、サキュバスよ。彼らアンデッド族にとっては、「病んでる」ってのが、今の最上級の褒め言葉らしい」
「クフフッ。サキュバス様も別な意味で病んでらっしゃる。かの病は深山に住むドルイドの秘薬でも治らないとかなんとやらホネ」
「ん? んんー??」
サキュバスが、俺とスケルトンの言葉を受けて、困惑しているようだ。彼女は優秀なのだが、どうも情緒不安定なところがある。己の得意分野が、精神操作のくせして、当の本人がこのありさまなのはどうだろう? 困ったもんだ。
「なあ、スケルトンよ。ここに呼ばれた理由に、心当たりはあるか?」
「さあ? ワタクシには、心当たりはありませんホネ」
俺とスケルトンが向かい合って、どうしたもんかと苦笑を交わして和んでいると、ようやく平常運転にもどったのか、サキュバスが割り込んできた。
「スケルトン、お前の部屋から、夜ごと人間の奏でる音楽というのに似た音が聞こえるという噂がありますよ? どういうことか説明しなさい!」
「ひえっ! そ、それはその・・・ホネー。あー、えっと、この音ホネかねー?」
スケルトンはそう言うと、自分の肋骨をコンコンカンカンと叩いて見せた。
俺は、スケルトンの無骨な骸骨の体から響く、妙に軽快な音色を聞いて、つい、笑みを漏らした。
「ふっ、随分といい音が鳴るじゃないか? お前は、自分の体を叩いてたってことか? では、何故そんなことをしていたんだ?」
「人間どもとの戦いに備えて、こうやって骨の強度を確認していたホネ。ワタクシも魔王軍では古参になりますんで、あちこちガタがきてまして、それで、体の手入れには気が抜けないですホネ」
「なるほどな。音で骨の強度を確認か。それがお前たちのやり方なのか?」
「クフフッ、そうですホネ。ワタクシども、骨系アンデッド族には、古来より伝わる体の手入れ法ですホネ」
「そうか、なあ、スケルトンよ。どうもこの城の中に人間の勇者が忍び込んでいるという噂があるのだが、それについては、どう思う?」
「は!? 勇者がですか? ホネー・・・、無理ではないですか? 今の魔王城は、現魔王様によって、とても規律が保たれておりますから、隙は少ないかと思いますホネ」
「そうか、ありがとう。スケルトン、また俺に知恵を貸してくれ」
「はい。いや、いえそんな。もったいないお言葉ですホネ」
スケルトンは去っていった。彼とはまた話したい、なんだろう、肩の力抜いて話せるのだ。あ、彼の肩に肉がないからかもしれない。
「なあ、サキュバスよ」
「はい、魔王様」
「本当に、この城の中に、勇者が忍び込んでいるのだろうか? 俺にはどうもそんな風には感じないのだが」
「いえ、私も確かなことはわかりません。ですが、城内に怪しい動きがあるのは事実ですし、それを調べることには問題はないでしょう?」
「まあ、そうだろうな。では、次を呼んでくれよ」
次に現れたのは、美しいエルフの女だった。