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このパーティーの中に魔王がいます  作者: らうんどろびん
第一章 このパーティーの中に魔王がいます
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第六話 このパーティーの中に魔王がいます 魔王の正体

「しかし、私は職業柄、神に選ばれた救世者に反目することはできません。とは言うものの、私は皆さんを止めるつもりもありません。何せ、真の救世のために必要な行動であるのでしょうから」


「ああ、いいさっ。僧侶はこんな仕事には向かねえしなっ。じゃあ、あいつをぶっ殺しにいこうかあっ? ぶっ殺すぜ! ぶっ殺すぜ!」


「殺っちゃおー! 殺っちゃおー!」


「殺すのです! 殺すのです!」


 皆、瞳に仄かに邪な光を宿しているように俺には見えた。殺すだと? 常軌を逸してる。


「お前ら、気は確かか? どうも普通じゃないぞ!? 俺は、勇者を殺すなんて、そんなことはさせない! お前ら、少し落ち着け! 冷静になれよ!!」


「戦士よおっ! おめえ、邪魔するってーのかあっ? そんならおめえは、ここで寝てるんだなあっ!」


 武闘家が、いきなり殴りかかってきた。

 え!? マジか? 俺はそれを防ごうとしたが、どうしたことか、体が思うように動かない。直前に、隣で短い魔法のスペルが聞こえた気がした。そうか、魔術師が簡易の麻痺魔法を唱えたのだろう。


 結局、俺は、たいした抵抗もできないままに、椅子に縛り付けられてしまった。さすがに多勢に無勢だ。僧侶も助けてくれる気はないらしい。


「僧侶よおっ! おめえは戦士を見張ってろ! 俺たちが勇者を殺してくる間なあっ!」


 武闘家と魔術師と賢者が二階への階段を上がっていく。俺はなすすべもなくそれを見ていた。魔術師の麻痺魔法のせいだろう。今は声も大きく出せない。


 どうして、こんな事態になったんだろうか? 昨日までは、このパーティーは多少の問題があっても、なんとかやっていけてたはずだ。勇者は問題児だが、それでも、これまでは匿ってこれた。・・・解らない。俺は助けを求めるように、僧侶を見た。そして、彼女と目が合ったが、彼女の瞳からも、武闘家たちと同じような邪な光が見えた。そうだったな。彼女も、もう俺の味方ではないんだ。


 僧侶が俺をじっと見つめている。そして、その瞳は赤く怪しく光っていた。


「なあ、お前も、あいつらと同じようにおかしくなっちまったのか? 僧侶?」


 その俺の問いかけに、彼女は怪しい微笑みを返し、その手を俺の顔に向けて伸ばしてくる。俺は危険を察し、身構えようとするが、麻痺魔法が残っているのか体が思うように動かない。いや、そんなことはないはずだ。魔術師の唱えた魔法は簡易なもので、すぐに解けた。それなのに、今も体の自由が利かないのはおかしい。僧侶が尚も俺の瞳を見つめ続けている。その僧侶の瞳を俺も見つめる。いや、それは俺の意志ではなく、目がそらせないし、体も動かない。まるで彼女の瞳の魔力に体が溶けてしまったかのようだ。


 一つの答えが頭をよぎり、俺は愕然とした。


「え? そんなっ、まさか? お前が!? 僧侶が魔王だったというのか!?」


 僧侶は笑みを浮かべ、無言のまま俺に手を伸ばして近づいてくる。やがて、彼女の掌が俺の視界を完全に塞ぎ、冷たい感触が両目を覆った。


「う、うぐう・・・」


 そして、俺は意識を失った。





 ・・・ん?


 俺はひとときぼんやりした視界を眺めていたが、あわてて目の焦点を合わせようと努力する。やがて視界がはっきりとしてくると、目の前に俺に優しげに微笑みかける女がいた。その女はさっきまで俺が僧侶と認識していた女だった。しかし、もうその認識は間違いだったとわかった。僧侶とは偽りの姿だったのだ。


「お加減はいかがですか?」


「ああ、悪くない」


「そうですか。・・・おかえりなさいませ。魔王様」


「うむ、世話をかけたなサキュバス」


 俺は記憶を取り戻した。


 俺の正体は魔王。勇者パーティーの戦士とは偽りの姿であった。全ては勇者を亡き者とするための策略のため。そして、僧侶の格好に化けていたこの女は、俺の最も信頼おける側近のサキュバスだ。


「ご自身の記憶を封印してまでされた甲斐がありましたね。少々時間がかかりましたが」


「ふっ、サキュバスよ。我ら長命な魔族にとっては、さしたる時間ではない。ちょっとした余興であったと思えば良かろう。ところで、奴らの様子はどうだ?」


「はい、魔王様。魔王様の膨大な魔力を糧にして、私の精神操作魔法を長期間にわたり勇者パーティー内に流し続けたので、もう奴らに私の精神支配から逃れる術はありません」


「そうか、うまくいったようだな。それにしても、お前に魔力を送るために俺が近くにいる必要があったから、だから二人で勇者パーティーに潜り込んだわけだが、なかなかに面白い経験だったな」


「魔王様が、ご自身の強大な魔力から溢れる威圧感を隠すために、記憶まで封じられると聞いた時には驚きました」


「サキュバスよ。お前なら必ずうまくやるだろうと信じていたからな。魔王としての力と記憶をなくしても、傍にお前がいれば心配などなかろう?」


「ありがたきお言葉です。・・・そういえば、戦士の時の魔王様も素敵でしたよ。 「僧侶! 俺の後ろから離れるなよ! お前は俺が必ず守る!」 って、言われた時にはキュンときました」


「あ、・・・あー、そんなことも言ってたな」


「うふふっ、戦士さん。これからも偉大な戦士様の従順なる信徒である私を守ってください」


「こら、サキュバス。調子に乗るなよ」


 俺は照れ隠しにサキュバスの言動をたしなめると、彼女は悪戯っ子のような微笑みを返した。


「さて、それでは魔王様。勇者の無様な死に顔でも見にいきませんか?」


「うむ、よかろう」


一章はこれで終わりです。次章からは、また別の話になります。

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