第五話 このパーティーの中に魔王がいます 勇者の蛮行
「うにゅー、言われてみると、確かに勇者ちゃんには、いつも困らせられてばかりなのです」
「あー、いつのことだったか、勇者が武器屋の前で突然男を切り殺したことがあったよなあっ?」
「あ、はい。ありましたなのです」
「あったわねーえ。切り殺しちゃってえ、その男が武器屋で買ったばかりだった魔法の剣を、勇者っちが今も持ってるわあ。あれは強烈な事件だったわーねえ。勇者パーティーの評判があれでガタ落ちってーかんじー?」
「だったよなあっ。あの後、勇者になんであんなことしたのかって聞いたんだがよおっ。そしたら、あいつ、「自慢げに魔法の剣を見せびらかしてるのが、なんかムカついたから、殺しちゃった」 とか、しれっとした顔で言いやがるんだ。なあ、無茶苦茶だろっ?」
「あの殺された男、「念願のマジックソードを手に入れたぞー!」って、街頭で声高に自慢してたじゃなーい? それで、勇者っちに目を付けられてんだから、しょーがないんだけどーお。まあ、お気の毒だったわーね」
「だよなあっ。しかし、街中でいきなり人殺ししちまって、でも、勇者だからって理由で許されちまうんだぜっ?」
「あー、そおそーお。勇者っちってばさーあ。こないだ、「勇者専用魔法の解錠の魔法をついに覚えたんだぜっ」て、やたら嬉しそうに自慢してきたのよねーえ」
「うにゅ、魔法で施錠された強固な鍵をも解錠できるという便利魔法なのですね」
「らしいわねーえ。で、その自慢話を聞いた日の晩にーい、お城の宝物庫が荒らされたらしいのよーお」
「あいつか、城の宝物庫荒らしも勇者のやろーの仕業ってことか! あのやろーっ、どうりで最近妙に羽振りがよかったわけだなっ」
「うにゅ、私も勇者ちゃんのことで、とても気になっていることがあるのです。勇者ちゃんは、他人の家のタンスを堂々と物色し、気に入った物を見つけると、それを黙って持って行ってしまうなのです」
「おいっ、それは普通に泥棒だろっ!?」
「そうなのです。私もそれを発見した時には咎めたのですが、勇者ちゃんが言うには、これは救世者たる勇者ちゃんの特権なのだと言うことなのです。それと、不思議なことに、その家の住民がいる目前で、勇者ちゃんがタンスの中を物色してても、住民はそのことにまるでは気づいてない様子なのです」
「勇者っちって、そんなこともしてたーの? うーん、人の認識を歪めるような能力も勇者っちにはあるってーのかしらあ? ・・・あー、でもでもぉ、そんな能力って、神に選ばれた救世者に、ほんとにふさわしいのーお?」
勇者の蛮行には、皆、思うところがあったらしい。良かった。俺だけが良識人なのかと疑ってしまうとこだった。
「むっ、勇者が・・・、勇者が魔王なのかっ!?」
武闘家の発言に、皆が弾かれたように顔を上げた。
「きゃははっ、きっとそうなのよーお。そうに違いないわーあ」
「そうなのです。勇者ちゃんが、実は魔王だったのです。そうなのです。そうなのです」
皆は勇者が魔王だと結論付けたらしい。そんな中で、僧侶だけは、無言で事態を見守っているようだ。やっぱり僧侶はこのパーティーの最後の良心という砦だな。
いや、しかし、勇者が魔王であるわけがない。俺は皆の考えを改めるために声をあげる。
「おいおい、ちょっと待てよ。勇者ってのは魔王を倒すために宿命付けられた存在だろ? 絶大な力を持つ魔王と対峙しても、その宿命によって魔王に引導を渡せる存在のはずだ。だから、普段の素行が悪かろうが、我慢して俺たちは勇者とこうしてパーティーを継続しているんだ。その勇者が魔王のはずがないじゃないか?」
「ねーえ、戦士っち。こう考えるのはどーよお? 勇者っちのあの驚異の戦闘力は実は魔王の力のそれでえ、真の勇者っちは他にいるってーのわあ? あたしもあの勇者っちの普段の蛮行を見てっとーお、コイツほんとに救世者かよっ?って、いっつも思ってたのーよねえー」
む、なるほど、魔術師の言うにも一理ある。俺たちの勇者が真の勇者ではなく、真の勇者は他にいる。そして、それならば、ここにいる偽物の勇者が魔王であるという可能性。魔王は勇者以外には倒されることができないほどの強大な魔力を持つという。その能力をもってすれば、たくさんの人々を欺いて、勇者を偽証することもできるのかもしれない。
しかし、どうもおかしい。皆、なぜか普段と比べると落ち着きがないように見える。
「もはや間違いないだろっ? 勇者が魔王だ!! あいつをぶっ殺せば、世界は救われるってこったな!」
武闘家が言った。
ぶっ殺すって、本気か? 冗談だよな?
「間違いないわねえ。勇者っちを殺っちゃえば、それでばんばんざーいってえかんじーい? きゃはっ
」
魔術師が言った。
お前もか? 二人して何て物騒なことを言ってるんだ。
「間違いないなのです。勇者ちゃんを殺せば、私も日々の煩わしさから解放されるのです。勇者ちゃんは今はまだ、体が回復していないのです。チャンスなのです」
賢者が言った。
チャンスだとか煽るなよ。
「間違いないですか。そうですね。勇者さんを殺せば、世界に平和が訪れるのでしょう」
僧侶が言った。
え!? 嘘だろ? 僧侶は俺の味方だと思っていたが、そうか、残念ながら、俺の都合のいい勘違いだったということか。