第四十四話 恋する乙女の瞳の中に魔王がいます 占い師は懲りない
「す、すまん」
俺が慌ててぶつかった男に謝ると、男がぎょっとした顔で俺を見ていた。あ、この男・・・。
「げっ! さっきのにいちゃん」
「あ、お前は占い師に絡んでいた・・・」
俺がぶつかった相手は、カジノに来る前に占い師にあらぬ因縁をつけていた男だった。
「あ、おっちゃん、うららんと同じナントカ学会の人やんね。こんちわー」
俺が思わぬ男との再会に戸惑っていると、踊り子が男にそう声をかけ、手を振っている。
「えっ? 占い師、・・・この男、お前の知人だったのか?」
「あ、えー・・・、はい、ま、まあそんなところですわ」
俺は驚いて占い師に聞くと、彼女は言葉を濁し気味に答えた。
あれは知人同士の揉め事だったのか? なんだか占い師がものすごく動揺している気がするが・・・。
俺がそんな占い師の様子を不審に感じていると、少しカジノ内が騒がしくなった気がした。
「見つけたぞ! そこの女とそっちの男! 話を聞きたいので、詰所まで同行願おうか!」
――? 衛兵が声を荒らげている。・・・あれ? なんか、こっちを指さしているみたいだが。
「にゃははっ。うららん、ダーリンが呼んでるやんね」
「は!? ・・・ね、姉さん、誤解を招くような言い方はやめてもらいたいですわね」
やはり衛兵の呼びかけは、俺たちに向けられていたらしい。踊り子の言い様だと、衛兵の言う女とは占い師のことで、男はあの占い師の知人ということだろう。
「まったくお前も懲りんな。これで何度目だ?」
「どうしてですの? 私はたくさんの人に幸せになってほしいだけですわ!」
衛兵は、後ろに控えていた数人の衛兵達とともに、占い師とその知人の男を囲むと、彼女らを拘束し、この場から連れていこうとしている。
事情は全く判らんが、少々強引なようにも見えるな。
「ちょっと待ってくれ! 衛兵よ、何故こいつらを連行するんだ? 訳を聞かせてくれないだろうか?」
俺が問いかけると、衛兵は俺を一瞥した後、同情するような表情を向けてきた。
「なんだ? あー、あんた、いかにも人の良さそうな顔立ちだな。ははん、大方、あんたもこの女に騙された口だろう?」
「騙された? ど、どういうことだ?」
「こいつらは詐欺の常習犯なんだ。あ、いや、正しくは詐欺まがいの行為なんだがな。この国の法には触れないぎりぎりのところなんで、結局、毎回釈放になるんだ」
「詐欺なんて、ひどい言いがかりですわ!」
「いいから来るんだ! その男と結託して、たいして価値のない壺を売りつけられたとの被害届が出てるんだ。話は詰所で聞く」
「お、おい、妹が連れていかれるぞ?」
「ああ、いつものことやんね」
俺はどうしたものかと思い、踊り子に声をかけた。ところが、踊り子は慌てる様子もない。それどころか、スロット台の椅子に座りなおして、またスロットを打ちだす始末。その間に占い師の方は、衛兵に連れていかれてしまった。
占い師は衛兵に連れられながらも、どうかお助けをと、俺に懇願するような眼差しを向けてきたが、俺は目を逸らすことにした。正直、衛兵に少し感謝したい気持ちだ。
それにしても・・・。
「お前、ちょっと薄情じゃないか? 妹だろ、事情は知らんが、あそこは妹を庇うべきじゃなかったのか?」
俺は踊り子を非難したが、彼女は相変わらず平然とスロットを打ち続けている。
「うーん・・・、あれは自業自得ってやつやんね。何度捕まっても懲りないんやから、しょうがないやんね」
踊り子はスロットを打ちながら、ため息交じりにこう答えた。
「自業自得? 衛兵は詐欺まがいの行為の常習犯だとか言っていたが、そのことか?」
「まあ、そういうことやんね。なあ、お兄さん。お兄さんはどうやって、うららんと知り合ったんね?」
「どうやってって・・・、占い師があの男と揉めてるところに偶然通りかかって、見かねて仲裁に入ったのがきっかけだが」
「にゃはっ、ふーん、なるほどやんね」
踊り子は俺を一度ちらっと見ると、ニヤリと笑いながら話を続ける。
「それ、たぶん偶然じゃないやんね」




