第四十三話 恋する乙女の瞳の中に魔王がいます 占い師はあきらめない
「へ? うららんは副業でがっぽり稼いでるから、借金なんかないやんね」
「ちょっ、姉さん! 失礼いたしますわ、真の勇者様。ちょっと姉と二人だけで話をさせてください。おほほほほーっ」
占い師はにっこり笑顔でそう言うと、すごい勢いで踊り子をフロアの隅っこに引っ張っていった。
「あ、おーい」
んー? なんか判らんが、他人に聞かれたくない姉妹同士の話があるのだろう。終わるまで待つとするか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なんね? 急にどうしたんね?」
「姉さん、私、あの真の勇者様のことを、何とかモノにしたいのですわ。だから、口裏を合わせて欲しいのですわ」
「また、ナントカ学会に勧誘するんね? いつも言ってるやん、嘘は良くないけんね」
「違うのですわ。私はあのお方のことを愛してしまったのですわ。それは、いづれはあの方の幸せのためにも幸福のタロット研究学会には入会して頂きますけど」
「やっぱり勧誘するんやんね。あのお兄さんも気の毒やんね」
「あのお方の幸せのためです。それにあのお方は世界を動かせるほどの大物、私の占いに間違いはありませんわ」
「うららんの占いは信じるけん、それはそうなんやろうね。まあ、あたいもあのお兄さんは好きなタイプやんね」
「姉さん、それと、あのお方はお金もたくさん持っていそうですわよ。店で買い物しているところを見ていたのですが、とても紳士な態度で羽振りも良かったですわ。学会にも貢献して頂けそうですけど、姉さんのギャンブルの掛け金も増えるかもしれませんわね」
「ほー・・・」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お待たせしましたわ。おほほほほっ」
「お兄さん、待たせたやんね。にゃはははっ」
姉妹は割とすぐに俺の元へ戻ってきた。 なんだか二人とも、取って付けたように笑顔を浮かべているのが気になるが・・・。
「お前ら、姉妹水入らずの話はもういいのか?」
「いえ、たいした話ではありませんでしたので。ねえ、姉さん」
「え? あ、うん、そうやんね。うららん」
そういえば、二人して俺から離れる直前に、踊り子が気になることを言っていたような。
「なあ、踊り子がさっき、占い師は副業で稼いでいるとか言ってなかったか?」
「あ、えーっとお・・・、あたい、そんなこと言ったかんね?」
「おほほほほっ、きっと聞き間違いですわ。姉はそんなこと言っておりませんでしたわ。た、確か姉は、「へ? うららんは服装ががっかりだから、もっとオシャレなんかどうやんね」 と、言った筈ですわ」
「ええ!? いくら何でも強引やん・・・、あ、そ、そうやんね。あたいはそう言ったやんね。・・・たぶん」
「そうだった・・・か?」
俺の聞き間違いだったのか? うん、そうだよな。占い師は身売りしようかと考える程困っていたのだから、副業で稼いでるなんてことはないか。
「そんなことより、真の勇者様。こうして姉とも合流できたことですし、ここは親睦を深めるためにも、三人で酒場にでも参りましょう」
「わお! うららん、それはいい考えやんね」
「はあ!? 話が違うだろ! すべて終わったら俺を解放しろと言った筈だぞ!」
「まあまあ、そうおっしゃらずに、悪いようにはいたしませんわ。二人の将来のこともじっくり話し合わなければなりませんし。私はあなた様に身も心も捧げ、一生をもって誠心誠意尽くしますわ」
占い師が笑顔で俺ににじり寄ってくる。どうして、もう俺と将来を誓いあった仲みたいな感じになってるんだ? この女、思い込みが強いにもほどがある。しかも、投げかけてくる言葉が重すぎる。
俺が占い師の笑顔に狂気を感じ、慄きながら彼女から後ずさっていると、横から腕を掴まれた。
「お兄さん、酒場にれっつごーやんね! なんせ奢ってもらって飲むお酒は格別やけんね。にょほほ」
踊り子が俺の片腕に絡みついて、上機嫌な様子でにたにた笑っている。俺が奢ることになってるらしい。ああ、姉は酒好きだって話だったな。酒とギャンブルか、最悪だな。あ、なんだったかな? 男が身を崩す定番といったら、酒とギャンブルと・・・。
女!
そう女だ。この女たちにこれ以上関わっていては、碌なことになりそうにない。
もう逃げよう。絶対逃げよう。うん、そうしよう。
俺が踊り子の手を振り払って、二人から逃げようと踵を返すと、ドンっと誰かにぶつかった。しまった。焦っていて後方を気にする余裕がなかった。
最近、ちょっと忙しくて連載が滞っております。今日の休みを利用して、なんとか今の章を終わりまで書き上げました。しかし、次章には色々と仕掛けを入れるつもりなので、お話を最後まで書き終えるまで、次章の開幕話を投稿できそうにないです。ですので、小出しに投稿していきます。




