第四十二話 恋する乙女の瞳の中に魔王がいます 占い師の姉はスロットに目がない
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は占い師に連れられて城下町のカジノにやってきた。俺はギャンブルにはあまり興味がないのだが、ここには何度か足を運んだことがある。ここの楽し気な雰囲気が少し気に入っているからだ。今日もカジノは賑わっていた。
「姉は最近スロットにハマってますわ。きっとスロット台に今日も噛り付いている筈ですわ」
スロット台は、確かフロアの奥の方だった筈だ。俺がそちらの方向を見ると、スロット台の椅子に座って遊んでいる人の姿が数人見えた。
「あ、やっぱりここにいましたわ」
俺はそう言う占い師に手を引かれ、スロット台の近くまでたどり着いた。
「よーし、こいこいこいこいこい・・・きたー! と思ったらそこでハズレるとか酷いけんね。あー、もう一回やるけんね!」
スロットに熱中して一人で喚いている女がいる。占い師がその女の席の後ろに付いたことから、この女が姉の踊り子なのだろう。踊り子はスロット以外は全く見えていないようで、後ろに妹が立っているのも露知らずといった様子だった。占い師はそんな姉の姿を見て苦笑いを浮かべながら、バシバシッと姉の肩を後ろから叩いた。
「ちょ、邪魔せんでよ。今、いいとこやけんね」
「姉さん、やっぱりここにいましたわね」
踊り子は肩を叩かれても無視してスロットを睨んでいたが、占い師に呼びかけられて、ビクッと体を震わせると、ようやくスロットから上半身を離してこっちに振り向いた。なるほど、双子の姉というだけあって、顔は占い師にそっくりだ。ただし、雰囲気は真逆だな。顔立ちは妹と同じく整っていて美人なのだが、何か間の抜けたような印象だし、褐色の美しい脚線を露出させたきわどい服装で椅子に座って足をぷらんぷらんさせている。
「・・・あは、うららん、どうしたんね?」
「どうしたじゃありませんわ。姉さん、いい加減、ギャンブルは辞めて欲しいですわ」
「えー!? あたいからギャンブルを取ったらなんも残らんね。・・・ん? ところでそっちの色男は誰なんね?」
「あ、そうですわ。姉さん、聞いて驚かないでくださいね。このお方こそが私たちが探し求めていた真の勇者様なのですわ!」
「へ? 真の勇者様? ・・・えっと、勇者様にはこの前会ったやんね。王様も認めとったし、もうこの国でも結構な有名人やけんね。間違いないやんね」
「あんなのは勇者様なんかじゃありませんわ。私は心の目であの偽勇者を見ましたが、あれは人間の皮を被ったケダモノですわ。真の勇者様はここにいるこのお方に間違いありませんわ」
「ん? そうなんね。・・・うららんがそう言うならそうかもしれんね。あたいもあの勇者様はあんま好きにはなれんかったけんね。じゃ、今日からはこのお兄さんに養ってもらえるんかね」
「そうですわね。こんな良いパトロン、いえ、真の勇者様は他にいませんわ」
「お前ら・・・、俺はお前らを養っていく気なんてないからな。ギャンブル狂の女を改心させる為にここに来ただけだ」
「ギャンブル狂の女をかいしんさせる? へー、お兄さん、あんたも大変やんね。じゃ、がんばって、あたいはもう少しこのスロット台に用があるけんね」
踊り子はそう言うと、またくるっとスロット台に向き直って打ち始めた。
「お ・ ま ・ え ・ の ・ こ ・ と ・ だ!! この駄目姉が!」
「わっ、いたいたいたっ、やめ、痛いけんやめてくれんね!」
俺は後ろから踊り子の頭を両手で掴んで、無理やりこっちに顔を向けさせた。
「お前、妹が占いで稼いだ金を全部カジノに突っ込んでるそうじゃないか? ちょっとは妹に悪いとは思わないのか?」
俺は踊り子に詰め寄るが、当の踊り子の方は、ぽけーっとした顔で俺を眺めている。こいつ、話聞いてるのか?
「おい、聞けば借金までしているそうじゃないか。お前は妹を借金の形に売り飛ばす気なのか?」
俺が続けて問い詰めると、踊り子はようやく自分が責められていることを理解したのか、驚いたように瞬きをした。




