第四十話 恋する乙女の瞳の中に魔王がいます 占い師は話を聞かない
「それにしても、この町は相変わらずの賑やかさだな」
俺は今、人間のとある国の城下町にきている。もちろん、本来の魔王の姿ではなく、人間の姿に化けてだ。
「今日も色々面白いものが見れたな。さて、サキュバスたちへの土産も買ったことだし、そろそろ魔王城に帰るとするか」
俺がこうして人間の姿で人間の暮らしを見て回るのは、俺の趣味といってもいいだろう。実をいうと、俺は人間どもを特別憎んではいない、可能であれば融和の道を模索したいと考えているほどだ。しかし、遥か昔から続く、魔族と人間との争いによる不和の因縁は簡単には解けることはないだろう。俺としても立場上人間と交流しているところを部下に見られるわけにはいかない。だから、俺は一人でここに来ているわけだ。
「い、痛いですわ。やめてください!」
「うるせえっ! おい、人にぶつかっておいて、黙って通り過ぎようとしたお前が悪いんだろ!」
「そ、そんな!? ぶつかってきたのはそっちですわ! この汚い手を放しなさい!」
男と若い女が言い争いをしていた。男は女の肩口を掴んで凄んでいるようだ。あの女・・・、さっき俺が土産を買った店に客としていた女だな。
「なんだその言い様じゃ、まるで俺が当り屋みたいじゃねえか? 人を悪人みたいに言いやがって、覚悟できてんだろうなあ!」
「きゃっ、誰か、誰か助けてー!」
「このアマ、黙りやがれ!」
「おい、大の男が女に暴力とは感心せんな」
俺は見かねて、女に向かって振り上げている男の腕を掴んで、それを制した。
「なんだあっ? にいちゃん、横から口挟んでくるんじゃねえよ! ・・・ひいっ!」
俺は少しばかりの殺気を込めて、男を睨んだ。この程度の男など、これだけで十分だろう。
「ひっ、ひいいいいっ! お、覚えてろよー!」
男は俺の一睨みで、腰を抜かしたかのように後ろに倒れこみ、慌てて立ち上がるとそう言いながら逃げていった。
「ふん、絵に描いたような三下っぷりだな」
「あの」
声を掛けられ振り返ると、さっきの女が顔を上気させ、うるうると目を潤ませながら俺を見ていた。女は異国風のゆったりとしたローブから褐色の肌を覗かせていた。顔だちもこの辺りの生まれではなさそうだったが、美しく整っていた。
「あの、助かりましたわ。よろしければ、お名前を」
「ふっ、名乗るほどの者でもない。女、ここは賑やかな町だけにああいう輩も多い、あまり油断するな。じゃあな」
「あ、待ってください」
俺は立ち去ろうとすると、女に袖を掴まれた。
「何だ? まだ何か用か?」
「あの、出来れば何かお礼をさせて頂きたいのですが・・・。そうですわ。私にあなた様を占わせてもらえませんか?」
「占い?」
「はい、申し遅れました。私は占いを生業にしています。占い師ですわ。あちらの占い小屋で町の皆さんの運勢を占っておりますの。ささ、どうぞこちらへ」
「え? あ、ちょっと・・・」
占い師と名乗った女は俺の腕を半ば強引に引っ張って、町の大通りの脇にひっそりと建っている占い小屋まで連れていくと俺を椅子に座らせ、自身は小屋の中に入って机越しに俺と向かい合って座った。机の上には拳大の水晶球が置かれていた。
「さてと、それではあなた様の運勢を・・・」
「おい、女、悪いが俺は占いとやらをあまり信じていなくてな」
俺は女の言葉を遮ってそう伝えた。俺は占いを完全に否定しているわけではない。占いは太古から存在する。それが現在まで息づいているということは、実績があるということだろう。もしかしたら、優秀な占い師であれば未来さえ見えるのかもしれない。しかし、だからといって俺は占いには頼りたいと思わない。自分の運命は自分の力で切り開く。それが俺の信条だから。
「はい、構いませんわ。人には人それぞれの考え方があるものですわ。私どもの仕事は人を見ること、そのへんは重々承知してますわ。では、改めて、あなた様の運勢を・・・」
女はにっこり微笑んでそう答えると、水晶玉に向かって両手をかざし、何やらぶつぶつ言いながら俯いて目を閉じた。それから、しばらくの沈黙の後、突然女は顔を上げカッと目を見開くと水晶玉を見つめながら語りだした。
「あなた様の周りにはいくつかの光が見えます。まだ小さな光ですが、やがて導かれ次第に大きな光となり・・・、え!? も、もしや、あなた様こそが真の勇者様!!」
「は!? 待て、女、それはおかしい!」
「私は、私達は長い間あなた様を探していましたわ。魔王をも倒せる強大な力を秘めたあなた様を!」
「おい女! 話を聞け!」
「私と姉の踊り子は、あなた様と共に魔王の力に対抗すべく、運命付けられた存在。さあ、参りましょう。双子の姉の踊り子は今日もカジノで負けてる筈ですわ」
そう言い終わるや否や占い師はまた俺の腕を掴んで、強引に引っ張り歩き出した。




