第四話 このパーティーの中に魔王がいます 賢者の悩み
「残り二人とは、勇者さんと賢者さんのことですか? しかし、魔王打倒を掲げて立ち上がった勇者さんが魔王だったなんて考えられませんし、賢者さんにしましても、まだあんなに幼くていらっしゃるのですから」
「勇者っちも賢者っちもうちのパーティーの一員に変わりないんだから、可能性あるんじゃないのーお? 神様はパーティーの中に魔王がいるって言ったんでしょーお?」
「それは、そうなのですが・・・」
「うにゅ? なにか揉め事なのです?」
二階へ続く階段の方から問いかけがあった。見ると賢者が階段を降りてくるところだった。賢者はきれいな純白のローブに身を包んだ小さな女の子だ。彼女は心配そうな顔でこちらを見ている。
「あ、賢者さんっ。あの、勇者さんのお加減の方は? まだお休みなのですか?」
「勇者ちゃんは、今日の戦闘での消耗がたいへんだったので、まだお部屋でおねんねなのです」
「そうですか。今日は勇者さんにかなりの無理をさせてしまいましたから、大事がなければ良いのですが・・・」
「おいっ、賢者よおっ。いいところに来たな。おめえ、近頃一人っきりで部屋に籠って、いったい何やってんだよおっ?」
武闘家が賢者に噛みつく。小さな女の子にも容赦ないらしい。まあ、賢者は見た目こそ幼いなりだが、その知識と魔法の力は大人顔負けなわけで、とりわけ子ども扱いする必要もないのだが。しかし、頑強な男が少女に絡むというのは、絵面は悪いな。その賢者だが、確かに最近は宿で一人になりたがる。何かの儀式のために一人にしてくれとのことであったが。
「うにゅ、それは、・・・そのです。・・・しゃべりたくないのです」
「おっ、そうかっ。じゃあ、おめえが魔「いやいやいや、ちょっと待てちょっと待て」
俺は武闘家のおそらく超短絡的発言を無理やり押し込めて割り込んだ。
「あのな、賢者。実は、かくかくしかじかで・・・」
俺は賢者にこの場でのこれまでのいきさつを説明した。賢者ははじめ驚いた様子で話を聞いていたが、やがて何か考え込むような仕草を見せ、「なるほど。神の啓示なのですか・・・」と呟いた。そして、一人で部屋に籠る理由を話したがらなかった賢者だが、さすがに自分が魔王だと疑われるのは御免だと思ったのか、観念したようだった。
「うにゅー、わかったのです。訳を話すのです。・・・実は、異星人と交信していたのです」
おーっと、本日二発目のぶっとび発言が飛び出したぞ。異星人!? 異星人というと、この間の空飛ぶ円盤の奴だろうか? 勇者が殺しちまったわけだが。
「異星人ってゆーとおー、この前、勇者っちが殺っちゃったモンスター?」
「そうなのです。あれが異星人なのです。実は、この星の近くに大勢の仲間が待機しているようなのですが、殺された仲間の恨みを晴らそうと、勇者ちゃんを狙っているなのです」
「大勢で勇者を狙ってるっつっても、あんな弱っちいの、勇者の敵じゃないだろっ? 魔力もなさそうだったぞっ?」
「身体的には確かに脆弱なのですが、彼らはカガクという特殊な力を持っているのです。侮れないなのです」
「なんだよカガクって、そんないかがわしい力がなんだってんだよおっ! 賢者よおっ、そんなのおめえの化け物じみた魔力でどうにでもなるだろうがよおっ?」
「うにゅー・・・、あのですね。私の魔力も万能ではないなのです。魔力とカガクとは別次元の力なのです。だから、私も、苦慮してるなのです」
「賢者っちの力をもってしてーも、異星人どもは脅威だってーの?」
「はい、脅威なのです。だから、私は、彼らと交信を続けていたなのです。彼らの敵意は、勇者ちゃんのみならず、この星の人類すべてにもという勢いだったのです。なんとか彼らを説得して、治めましたなのですが。まったく、骨を折りましたなのです」
この少女は、人知れず異星人と交渉していたらしい。もしかしたら、この少女のおかげで、この星は救われたのかもしれない。
!!!
俺は視線を感じて顔を上げる。すると、僧侶が慌てて顔を逸らすのが見えた。あれ? なんだ、あの視線は僧侶だったのかな? 前に悪寒を感じたのは、俺が人の注目に慣れていないだけか。それにしても、僧侶も俺のことが気になるんだろうか? これって、相思相愛ってこと? ・・・いやいや、落ち着け俺。お前はクールなナイスガイだろ?
そんな俺の悶々とした思考を無視して、皆の会話は進んでいく。
「なあ、賢者よおっ! 結局、おめえが困ってるその元凶が勇者ってことだろおっ? だいたいあいつは普段から素行が悪過ぎんだよおっ」
武闘家の言う通り、俺たちのパーティーリーダーである勇者は、俺から見ても素晴らしく素行が悪い。神の信託によって救世者として勇者に選ばれた彼は、その境遇と神から与えられた能力によって調子に乗っちゃってるように俺には見えた。