第三十八話 戦士、パーティーやめるってよ 揺るがぬ決断
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あれ、私はどうしたのでしょうか? ちょっと興奮してしまったのか、直前の記憶が欠落してしまっているようです。まあ、たまにあることですから、問題ないでしょう。
あれ? 魔術師さんがこっちを見てますが、何故あんな涙目を浮かべているんでしょうか? ん? ・・・ああ、思い出しました。魔術師さんが、私に酷いことを言ったのです。 うーん? 私の方こそ泣きたくなるようなことを言われた気がするのですが・・・。
「あ、あの、魔術師さん?」
「ひっ、・・・ご、ごめん、アタシ、ちょっと調子に乗って言い過ぎたわ。・・・うん、ま、まじメンゴ」
? よくわかりませんが、あの豪気な魔術師さんが子羊のように怯えています。・・・あ! 私にひどい罵声を浴びせたことを悔いているのですね。神よ、哀れな魔術師さんをお赦しください。
「よお、二人とも。今日も仲良くやってるな」
私が魔術師さんの為に心の中で神に祈りを捧げていると、ふいに背後から声をかけられました。
この声は!?
私はハッとして振り向くと、そこに穏やかな笑みを浮かべて立っている彼がいました。そう、戦士さんです。
「せ、戦士さん・・・」
「ん? ど、どうした、僧侶。何かつらいことでもあったのか?」
私が彼の名を呼んだその後に言葉を続けられずにいると、そんな私の様子が気になったのか、戦士さんは私のことを気遣うように声をかけてきました。ああ、こんなことではいけません。私の方こそ、長く一人で悩んでいたであろう彼のことを気遣ってあげなければならないのに・・・。私は意を決して、戦士さんに事の真相を聞いてみることにしました。
「戦士さん、あなたに問いただしたいことがあります!」
「え? どうしたんだ僧侶? そんな急に真剣な顔をして。・・・俺に問いただしたいこと? 俺、お前の気に障るようなことしたっけな? あ、いや、してたんなら謝るぞ」
「いえ、私に対してとかではなくてですね。戦士さん本人についてのことです。もちろん、それは、私にとっても大きな影響が・・・、ではなくて、この勇者パーティーにとっても大きな影響があることですので・・・」
「そ、そうか、・・・わかった。どんな質問にも誠実に答えよう」
戦士さんはそう言うと、私の隣の席に座り口元の笑みを消して、私を真面目な顔で見つめました。私は戦士さんを正面に見据え、ふうっと一息吐いて心を落ち着かせると、彼に本題を切り出しました。
「戦士さんがパーティーを辞めると聞きました」
「戦士っち、ほんとにパーティー辞めちゃうつもりなのーお?」
「え、なんでお前らがそのこと知っているんだ?」
「実は、戦士さんと賢者さんが話しているところを、武闘家さんが偶然耳にしたらしくって、それで、武闘家さんから聞いたのです」
「そうか、バレてるなら、もう言うしかないな・・・。そうだ、俺はパーティーを辞める。もう決めたことだ」
ガーン・・・。ついに戦士さん本人の口から聞いてしまいました。直前までは、まだ武闘家さんの聞き間違いかもしれないと思っていましたが、その希望も絶たれてしまい、私は声を失ってしまいました。
「ちょ、アンタ、勝手に決めんじゃないわよっ。そーゆーのはアタシらに相談してからでも遅くないっちゅーのお!」
うなだれる私の横で、魔術師さんが戦士さんを説得してくれてるようです。そうでした。気落ちしている場合ではありません。私も戦士さんをなんとか引き止めなければ。
「戦士さん、あなたが辞めてしまったら、このパーティーはもう成り立ちません。どうかもう一度考え直してもらえませんか?」
「パーティーが成り立たない? おいおい、そんなことはないだろ。誰か他のやつでもいいじゃないか」
「何を言うんですか! 戦士さんのように勇者パーティーの皆を上手くまとめて、引っ張っていける人は他にいません」
「そうよーお、戦士っち。それに、アンタが辞めちゃったら、誰が盾役やるっつーのよ? 残りの前衛二人には全く期待できなんだからねーえ」
「へ? 勇者パーティー? 盾役? お前ら一体何の話を?」
「いや、だから、アンタがパーティー辞めるって話じゃなーい?」
「・・・戦士さん?」




