第三話 このパーティーの中に魔王がいます 疑いの戦士
「そ、そうだな。こういうのは言い出しっぺが一番怪しいって相場が決まってやがんだっ。僧侶が魔王なんじゃないのかっ?」
おいおい、「言い出しっぺ」って、神の啓示だぞ?
「私は、神のお言葉を伝えただけです。私自身の考えを述べているわけではありませんので」
澄ました顔で答える僧侶。
この雰囲気の中でのその僧侶の態度を見て、魔術師の何かに火が付いたらしい。
「だはあーっ!? ・・・ずうーっと前から思ってたんだけどーお。僧侶っちってば、ちょっと感情薄すぎってゆーか、いつも優等生ですって顔しちゃってさーあ? たまーにイライラくんのよねーえ。そっかー、でも、僧侶っちが魔王なら納得ねーえ。人間らしい感情なんて持ち合わせてないってことかもねーえ?」
あれ? 俺はこの二人の女は仲がいいもんだと思ってたんだけど、ちょっと考えを改めねばならんのか?いつも二人は笑顔で楽しそうに会話してる印象しかなかったんだが、なんか見たくないもの見たな。あ、武闘家の顔も引きつってるな。
「私は、僧侶としての自分の態度が、神に恥じるような行いをすることがないように心がけているだけです」
「だからーあ、それがイラつくって言ってんのよーおっ! 僧侶っちは、自分がないのかってーの?」
「自分は自分です。それはあります。しかし、尊敬する偉大な方のためには、その自分を無いものとして尽くすべきだと思っています」
「はあ!? なあーにそれ? やっぱ、僧侶っちは自分なんてないんじゃーん? その偉大な神様とやらのいいなりってことねーえ! あーっ、なんだかほんとにムシャクシャしてきたわーあ!!」
魔術師のイラつき具合がかなり悪化してきた。これは見るに堪えない。
「おい、それぐらいでやめておけ。僧侶を責めてもしょうがないだろ? こいつは信徒として馬鹿真面目なだけだ。これまでの付き合いでわかるだろ? 今回も、こんな波乱が起こることを予見した上で、馬鹿真面目なこいつは神の啓示とやらを話したわけだ」
堪らず俺は、僧侶を擁護した。そりゃそうだろ? どう考えても、冷静なのは僧侶の方だ。しかし、それが魔術師と武闘家の疑りの矛先を変えることになった。
「そういえばよおっ、戦士の近頃の様子も怪しいなっ」
「え!? おっ、俺か?」
なんだろうか? 考えてみても身に覚えはないのだが、ここまでの流れからすると、とんでもない言いがかりをつけられそうな予感がする。
「戦士よおっ、おめえがクールであんまりしゃべんねえのは、これまでの付き合いでわかってるつもりだっ。だから、そこは別に問題ねえんだがなあっ」
まあ、俺は武闘家の言う通り、わりと寡黙な男なのだろうと思う。しかし、クールってのは違っているような気もする。俺はただ、日常のいろんなことにいちいち反応するのが面倒なだけだ。
「だがなあっ、戦士よおっ? おめえ、最近、やたら金策に走ってるそうじゃねえかっ? 今までの堅実なおめえのイメージとは離れるよなあっ!?」
あっ・・・、そこかあ・・・。それには思い当たる。確かに俺は最近まで金策に走っていた。
「戦士よおっ。おめえ、何かよからんことでも考えてたんじゃないのかよおっ?」
「ちょ、ちょっとまてよ。少し金を集めてた位でその疑われようはないだろう? あれだよ。ほしい装備品があったんで、それを買うために金を集めてただけだ」
俺は道具袋から買ったばかりの盾を取り出して、皆に見せた。
「この盾を買ったんだ。魔盾という貴重なものだ」
「魔盾? あからさまに怪しいわねーえ? 見た目もいかにも禍々しいし」
まあ、この流れからすると、そう思われるよなあ・・・。見た目も確かに呪いでもかかってそうな盾だし。
「強力な魔力が込められた盾なんだ。見た目はあれだが、真っ当な品だ。かなりの戦力アップになるはずだぞ」
武闘家と魔術師が、訝しげな眼で俺の顔と盾とを交互に見ている。
「なあ、お前ら、魔盾を持ってるから俺が魔王だろうなんて言い出すのは勘弁してくれよ」
「「うっ・・・」」
二人が軽く呻いた。どうやら図星だったらしい。まったく、こいつらは・・・。
「おいっ、どうしてまた、そんな高価そうな盾を買おうなんて思ったんだよおっ?」
「ああ、まあ、あれだ。最近、パーティーの防御力に不安を感じるようになったんでな。強力な盾があれば、後衛も安心だろうと思ってな」
俺が強力な盾を新調しようと思い至ったのは、僧侶への魔物の攻撃を庇った時に見せた彼女の表情が忘れられなかったからだ。その眼差しはなんとも頼もしいといった上目遣いだった。僧侶にもっと頼られたいって動機もあったなんてのは秘密だ。
「ふんっ、どうせ戦士っちのことだから、僧侶っちを守ってかっこいいとこ見せたいとか思ってんでしょーお? まーったく、戦士っちはいつも僧侶っちに甘いのよーお。ふんっ」
魔術師にはお見通しだったらしい。・・・恥ずかしい。そういえば、このパーティーに参加する以前も、僧侶と雰囲気が似た女とつるんでいたような気がするなあ。やはり、誰しもタイプの似た異性には、興味がいくもんかな。
それにしても、どうも武闘家と魔術師の様子がおかしい。いつもよりも冷静さを欠いているように見受ける。まあ、僧侶の発言が発端なのだろうが、こんなにもお互いを疑いあうなんて・・・。まさか、二人のどちらかが本当に魔王なのか? だから、こんなにも様子がおかしく感じられるのだろうか? ・・・いやいや、俺の頭もどうかしてきたのだろうか? 今回の神の啓示とやらは、さすがに何かの間違いだろう。
「んあー、俺はなっ。戦士のことは本当はあまり疑っていなかったんだ。近頃の金集め以外には、おめえは目立って怪しい行動もないしな。・・・と、それよりもだっ。まだここにいない残り二人が魔王だという可能性もあるだろおっ?」
武闘家がパーティーの残り二人について言及しはじめた。俺たちがこの宿の二階に借りた部屋に、まだ残っている者たちがいる。