第二十一話 ワレイマダモッケイタリエズ 天国と地獄の狭間で
「はあっ? 魔術師、おめえと勝負だとおっ!?」
「そうよ。今、戦士っちに勝った武闘家っちにアタシが勝ったら、アタシが最強だー・・・なーんつって、ぶふっ、きゃはははっ」
魔術師と試合か・・・、いろんな意味でやりにきーぜ。まず、女だってこともあるんだけどな。しかし、魔術師は常に自身に身体強化魔法をかけていやがる。その状態のあいつの攻撃力や防御力それに俊敏性は、そこそこ鍛えた男くらいなら、それを遥かに上回る。
「まあ、いいけどよおっ。大怪我して泣きべそかいてもしらねえぜっ」
速攻で連続攻撃して、めんどくせえ魔法を使えねえままに終わらせちまうか。近接戦闘に持ち込めば、さすがに俺のもんだぜっ。
「じゃーあ、いかせてもらうわよーお。我がマナを火竜の息吹に変えよ、ファイアボール!」
魔術師の構えた杖から、火の玉が三つ飛んできた。俺はその三つの球をひょいひょいと躱す。通常の魔物が放つファイアボールと比べると、別格の炎の圧力を感じたが、当たらなければとうということもない。俺は火の玉を躱すと、前傾姿勢で両足を踏ん張り、そこから飛ぶように前に走り出し魔術師との距離を一気につめた。
「きゃははっ。そぉーれえっ」
その俺を待ち構えていたかのようなタイミングで、魔術師が両手で握り大きく振りかぶった杖を叩きつけてきた。俺は頭上に両手を交差して手甲で受け止めようと身構える。が、その刹那に俺の直感が危険を訴えた。俺は直感に従い、魔術師の杖が振り下ろされる直前にギリギリでバックステップ。
ドドーン!!
俺が直前に居た場所に轟音と共に土煙が上がった。そこを見れば、地面が抉られて大きな穴が空いていやがる。
「おめえっ、杖にも衝撃強化の魔法をかけてやがんのかっ? すげえな、トロールのぶん回すこん棒よりも凶悪な破壊力だぜっ」
「はあ? あの醜いトロールとかと比較すんのやめてくれるーう? マジ怒っちゃうわよーお!」
土煙の向こうから魔術師の声が聞こえた、だが姿は見えねえ。と、思った瞬間、土煙を突き抜けて魔術師が駆け出してきた。そして、さっきの強烈な一撃を再び俺に叩き込もうと杖を振り上げている。
「へんっ、そんな大振りが何度も通用するわけねーんだよっ」
俺は咄嗟に体を反転させて、魔術師の杖を躱すと、そのまま体の回転の力を利用して魔術師に攻撃を放つ。
「くらいやがれっ、破邪拳聖把!!」
俺の掌が魔術師の横腹に触れた。これで終わりだ。多少痛え思いをすることになんだろうが、僧侶にすぐに回復魔法をかけてもらえりゃ大事はねえだろう。
ボン!!
俺が攻撃を決めたと同時に、魔術師の体が小さな爆発音とともに消えた、その跡には小さな煙。
「きゃははははっ、ひっかかったわねーえ、武闘家っち。そっちは幻影! これで、終わりだっちゅーの!」
幻影が消えると同時に、魔術師が後ろから羽交い絞めのように絡みつき、杖を俺のあごの下に引っ掛け、俺の首を絞めてきやがった。
してやられたっ。だがなあ、魔術師、俺は近接戦闘のプロフェッショナルだ。安易に組み付いたのは失敗だったなあっ。こんな羽交い絞めなど、すぐに外せる。
!!!
な、なんだ、この背中に伝わる柔らかく気持ちいい感触は? こ、これは、まさかあれか? あれの感触なのか? いや、それ以外に考えられん!!
いやいや、考えるな。考えるんじゃねえ! ・・・感じろ。そ、そうだ、感じるんだ! 己の全神経を背中に集中させ感じろ! その柔らかさ、その温もり、その弾力を! その先に、その先に何か新しい世界が見える気がする!
い、いや、背中だけじゃ足りねえ。五感だ、五感を使って感じるんだっ。彼女から漂う甘い匂いをその鼻で感じ、首元で囁く吐息のような魔法の詠唱をその耳で感じ、俺の下肢に絡みつく白い太ももをその目に焼き付け、俺の首に巻き付く華奢な腕をぺろっと舐めてその味を・・・あ、いや、さすがにそれはやめよう。間違いなく変態の誹りを受けるぜ。
「きゃははっ、どーよ武闘家っち、参ったかー? 参っただろー? きゃはっ」
うっ、魔術師が俺の首を更に強く締めあげてくる。だが、まだ余裕で耐えられるぜっ。なぜなら、俺の背中に天国があるからっ。
「きゃはっ、武闘家っち、ギブー? ギブアップしないのーお? きゃははっ」
もう少し、もう少しだけ、このままで。そうすれば、まだ俺の知らない世界への光明が見える気がするぜっ。
「武闘家っち、おぬしも大したことないのーお? きゃはははっ」
魔術師は俺の首に杖を押し付け、グイグイと締め上げる。その度に、俺の背中にはあれの感触がむにゅむにゅと伝わってくる。俺はその感触に身も心も委ねるが、段々と息苦しさに限界を感じてきた。
くつ、もう十分堪能、いや、もとい、耐えきったぜっ。だが、さすがにそろそろ抜けないとやばいか。俺はそう思い、腕に力を込めて魔術師の杖を掴むとそれを押し返そうとした。
!?
どうしたってんだ? 腕に、体に力が入んねえっ!
「きゃはっ! 無駄よ、無駄無駄ーあ! もうアンタはアタシの魔法の虜よーお!」
魔法? はっ! そういえば、さっき耳元で魔法の詠唱が聞こえてやがった。これは、弱体化魔法かっ?
俺は力の入んねえ体をなんとか動かして抜け出そうと足掻くが、やっぱり力が入んなくてどうにもならねえ。それどころか、俺がもがく度に背中からはあれがむにゅんむにゅんと攻め立ててきやがる。
く、苦しいぜ。でも、き、気持いい・・・。
「あのっ、戦士さん、あれ止めないとマズいんじゃないですか? 武闘家さんの顔、紫色になってますよっ」
「うわ・・・、おいっ、魔術師もうやめろっ! 勝負あった、お前の勝ちだっ」
慌てた様子の僧侶と戦士の声が聞こえた。
「えー? もう終わりーい? つまーんなーい」
魔術師はまだやり足りないとでも言いたげにそう答えて、俺をやっと解放しやがった。
「くっ・・・、お、俺、いまだ・・・、木鶏・・・足り・・・えず・・・うぐっ」
俺は最後にそう言い残し、意識を失ったらしい。この言葉がやがて俺の脳筋伝説とともに後の世の武術界に広く知られることとなる。
五章はこれで終わりです。次章からは、また別の話になります。
ブクマ・感想・評価等、頂けるとありがたいです。励みになりますので、よろしくお願いします。




