第二話 このパーティーの中に魔王がいます 痴話喧嘩
「はぁっ!? おいっ、おめえ、こんなの信じるのかよっ?」
武闘家が魔術師を睨みつける。おいおい、なんだか雲行きが怪しくなってきたな。
「だってーえ、僧侶っちが神様から聞いたって話ってばー、今まで百発百中で当たってんじゃなーい? だったらー、魔王は誰なのってはなしーい。あ、わかったー。魔王はアンタだ! 武闘家っち! なぁーんちって、きゃははははっ」
「おっ、おめえっ。ふざけてんじゃねーよっ。あっ、・・・あー、そうだな。実はおめえが魔王なんじゃないのか魔術師よおっ」
「はあ!? なに言ってくれちゃってんのよーお! こんなに可愛い女の子が魔王なわけないじゃなーい。きゃははっ」
「あー・・・それだ。俺は知ってるぞ。おめえの秘密をっ」
「はっ、はあ? ・・・な、なんのことよ?」
「おめえ、俺より年下だって言ってたよなあっ。確か今年で21歳でよかったか?」
「そ、そうよ。なんか文句あんのーお?」
「俺、パーティー斡旋所でたまたまお前の登録票を目にしたことがあんだけど、おめえ、ほんとは今年で29歳だろっ? 29歳でその若作りは絶対おかしいっ。だから、おめえが魔王なんだろっ。魔王の魔力で若さをたもってんだろっ? そうに違いないぜっ!」
「う、嘘よっ。武闘家っち。アンタ、いい加減なこと言ってんじゃないわよっ。か、かりにそれが本当のことだったとしても、この美貌は絶えざる努力の賜物だってーのよっ」
あー、魔術師って、俺より7つも年上だったのかー。まあ、なんとなく年下ってのは嘘くさいなとは思っていたが、予想をはるかに上回ってるとさすがに引くなー。しかし、武闘家も魔術師を責めてるようで、「お前、歳のわりにはめちゃめちゃ可愛いな」って褒めてるようにもとれるんだが。・・・やっぱりあの男は脳筋だな。
「ふ、ふふん。あたしも武闘家っちの秘密を知ってるよーお。これを聞いたら、皆、あんたが魔王なのかもしれないって思うような、ひ・み・つー」
「なっ、なんだとおっ」
どうやら魔術師の反撃が始まるらしい。
「武闘家っち、アンタ、最近、夜中にこっそり宿を抜け出して、いったいなにをやってんのーかしらねーえ?」
「うぐっ・・・そ、それは」
「町の衛兵の話でわーあ、アンタ、薄闇の渓谷に出かけてるってゆーじゃないのよお。あんな気味悪いところに、それも夜中に何しにいってんのーお?」
魔術師の言う薄闇の渓谷とは、昼間でも薄暗い渓谷で、魔物の巣くう場所だ。過去には、その奥地に魔族の集落があったという。
「あの渓谷は、このあたりでは、一番魔族と繋がりの深い場所よねーえ? さーあ、観念して正体を現したらどうなのよーお。武闘家っち?」
「いっ、いや、待て! ご、誤解だっ! ・・・ちっ、あー、しょーがねえな。言うよ。ちいっと探してるもんがあってよおっ」
「はあ!? 夜中に探し物なんてえ、おかしーじゃないのよーお?」
「月霊花を探してたんだっ。あの花は夜にしか咲かない珍しい花だ。その花が薄闇の渓谷に咲いてるという噂を聞きつけてな。それで、ここんとこ夜の渓谷に通ってたんだよっ」
月霊花とは、希少価値の高い花で、いろいろな用途に使われるらしい。俺は専門外なので、そのへんはよく知らないし、そんな貴重な花を見たこともない。そういえば、誰かさんが、その花が欲しいとか言ってなかったか?
「月霊花なんて、なんで筋肉馬鹿のアンタに必要だってーのよお? ・・・ん!? あー・・・、えーっとお、・・・も、もしかして?」
「あー、・・・ああ、そうだよっ。お前が欲しいって言ってたろおっ? その月霊花をよおっ? あ、違うぞっ! 別にお前のためとかじゃなくってだなあっ!! 近頃、夜にどうも寝つけなくて、寝る前に軽く体を動かしたかったんだよおっ! だから、そのついでってわけでだなあっ! えっと、そ、それで、こ、これが月霊花だっ。昨晩やっと見つけた。お、お前にやるよ」
「へ!? ・・・あ、ありがと。武闘家っち」
なんだよ。こいつら仲いいじゃないか。ははん、さっきの武闘家の魔術師へのつっかかりも不器用な男の歪んだ愛情表現とでもいうところなんだろうか。まったく、勝手にやってろって気分だ。
「と、ところで、僧侶っちはどうなのよ。アンタだって、疑いの対象なんだからーね?」
魔術師が極まりが悪そうな顔をして、僧侶に疑いの矛先を逸らした。