第十七話 インフルエンザになっちゃった 早く治して
「コケッ?」
「ブヒッ?」
俺と魔術師がお互いに顔を見合わせて呆然としていると、賢者が困った顔を浮かべた。
「あれ? まさか、うつっちゃったなのです? うにゅー、油断したなのです。軽く接触したぐらいではうつらないだろうと考えていたなのですが、甘かったようなのです」
「これってブヒッ、どーゆーことなのよーおブヒッ?」
「間違いないなのです。豚インフルエンザなのです」
「ブヒーッ!?」
「うにゅ、ブタ型なのですか・・・。これは厄介なのです」
「や、厄介って、どー厄介なのよーおブヒッ?」
「うにゅ、ブタ型インフルエンザにかかった者の代表的な症状は、嗅覚が異常に敏感になるなのです」
「はあ? それがそんなに厄介なことなのーおブヒッ? ・・・あ、うげっ、うわ、臭っブヒッ。ちょ、ちょっと武闘家っち、アンタ、ちゃんとお風呂に入って体洗ってんでしょーねーえブヒッ?」
「あー? ちゃんと洗ったぞっコケッ。一か月前にコケッ」
「はーあ!? 一か月前ブヒッ!? アンタねーえ、ばっちいから私の傍に近づかないでくれるーうブヒッ」
「なんだよっコケッ。一か月前でもちゃんと洗ってるぜコケッ。きたねえわけねえだろコケッ!」
「武闘家っち、この鳥頭ブヒッ! ばっちいもんは、ばっちいのよーおブヒッ! いいから近づくなってーのブヒッ。シッシッ、ブヒッ」
「あー、そうなのですよねー。ブタちゃんは、見た目によらず綺麗好きな習性があるなのです」
「ブヒッ!? ちょっと待って、賢者っち! アンタ今、私をブタ扱いしたわよねーえブヒッ!?」
「ブタちゃんは、ブタちゃんなのです。私は間違っていないなのです」
「賢者っち、ア、アンタねーえブヒッ。あんまし舐めた口きくってーとブヒッ、私はチビッコだからってーえ、容赦しないんだからねーえブヒッ」
「くははははっ、魔術師よおっコケッ。おめえにはお似合いじゃねえかコケッ?」
「は、はあ? 突然笑いだして何のこと言ってんのよーおブヒッ?」
「おめえがブタ型だってことがだよおっコケッ。おめえ、最近ブタみてえに太ってんじゃねえかっコケッ? 俺、知ってるぜえっコケッ。おめえ、この町の名物の焼き菓子が気に入って、それを大量に買い込んでたじゃねえかっコケッ」
「うっ、失礼ねーブヒッ、ふ、太ってなんかないわよーおブヒッ」
「嘘つくんじゃねえよっコケッ。おめえ、ここんとこ毎晩寝る前に焼き菓子をばくばく食ってんじゃねえかっコケッ。あーあれだ、よく言うじゃねえかっコケッ? 食ってすぐ寝っとブタになるってよおっコケッ」
「ったく、アンタほんとに馬鹿ねーえブヒッ。それを言うなら牛になるよブヒッ。ちょっと賢者っちからも言ってやってよーおブヒッ。私がブタみたいに太ったから、ブタ型になったわけじゃーないってブヒブヒーッ」
「え!? そ、それは・・・えっと・・・なのです・・・」
「ちょ!? 賢者っちブヒッ、なんで目をそらすのよっブヒッ。そいでもって、何よその苦笑いはブヒッ」
「と、とにかくなのです。何型かわかれば治癒魔法ですぐ治せるので、心配いらないなのです」
「とっとと治しなさいよブヒッ。・・・あれっブヒッ? 武闘家っち、アンタ頭に変な赤いコブができてるわよーおブヒッ」
突然、魔術師が俺の頭を指さして言った。
「へ?・・・コブ?」
俺は自分の頭を手で触ってみる。すると、確かに額の少し上あたりにコブがあるのがわかった。
「うにゅ? これは、小さいですがトサカのように見えるなのです」
「トサカだとおっコケッ!?」
お、俺の体はどうなっちまうんだ? まさか、このまま鳥人間になっちまうのか? あ、いや、きっと大丈夫だっ。賢者は治癒魔法ですぐ治るって言ってたしな。
「ぶふっ、武闘家っちったらブヒッ、中身だけじゃなく見た目も鳥頭になってやーんのおブヒッ。ブヒきゃはははっブヒッ、あーおかしーマジうけるーブヒッ」
「おめえなあ、笑いすぎだろっコケッ。・・・ん? おい、おめえの体もなんか変じゃねえかコケッ? 肌がピンク色になって、ぷよぷよしてきてるぞっコケッ」
「わっ? なによこれっブヒッ!? わ、私の自慢の艶々のお肌がーっブヒッ! ちょ、ちょっと、賢者っち、もう早く治しなさいよーお!」
「わ、わかったなのです。ちょっと待つなのですっ。隣の部屋に置いてある魔導書を急いで持ってくるなのです」
賢者はそう言うと、小走りで部屋を出ていき、そして、すぐに分厚い魔導書を抱えて戻ってきた。
「はあ、はあ、お待たせしましたなのです。すぐに治癒魔法をかけるなのです。ふう、ふう」
賢者は息を切らせたまま魔導書を開く、が、そこから黙って俯いたまま固まりやがった。どうしたってんだ?
「賢者っち、何やってんのよーおブヒッ? 早く魔法をかけなさいよーおブヒッ」
「うにゅ、そ、それがなのです。急いで走ってきたせいか、なんだか頭がクラクラして、魔力を集中できないなのです、、ニャーッ」
「・・・アンタ、今、ニャーッって言ったわよねブヒッ?」
「うにゅ? そんなことないなのですニャーッ。・・・あれニャ? ニャーッ!? こ、これは本当に困ったことになったなのですニャーッ」
「困ったなのですー・・・じゃないわよブヒッ。さっさと魔法をかけなさいっブヒッ!」
「む、無理なのですニャーッ! そんなに言うなら、魔術師ちゃんが魔導書を読めばいいなのですニャーッ!」
「はあ!? 私が回復系の魔導書なんて読めるわけないじゃないのよっブヒッ! アンタすぐ治るっつってたじゃないっブヒッ! さっさと治せクソガキブヒッ!!」
「あーっ、うるさいなのですニャーッ! 私はもー知らないなのですニャーッ! まったく、婚期を逃した年増女は怒りっぽくて嫌いなのですニャーッ!」
「なんですってーブヒヒーッ!!」
二人が言い争っていたが、俺はそれをぼんやり聞いていた。少し前からまた熱が上がってきたみてえで意識が朦朧とし、口を出す気力もなくなっちまっていたからだ。
ああ、ほんとに俺たちはどうなっちまうんだろうか?
そして、俺の意識は遠のいちまった・・・。