第十六話 インフルエンザになっちゃった 病床の武闘家
「あー、くそおっ、こんなの俺らしくねーよなあっ」
俺は武闘家。筋肉自慢の男だ。だから、もちろん体力には自信がある。そんな俺だが、今日に限っては元気が出ねえ。
今、俺は宿屋の一室でベッドに横たわっている。酷い熱病に侵されちまって、体が思うように動かねえんだ。旅の仲間の賢者が言うには、この熱病はインフルエンザという珍しい病気らしい。パーティーメンバーの誰かが病気になると、いつもは賢者か僧侶がすぐに治癒魔法をかけて治しちまうんだが、この熱病は通常の治癒魔法が効かねえらしいんだ。
「インフルエンザには複数の型が存在するなのです。発症の初期状態だと、何型のインフルエンザかわからないなのです。型に合わせた治癒魔法をかけなければ治らないので、もう少し様子を見るなのです」
賢者は俺の鼻の中に細く尖ったこよりを深く差し込んだり、舌を引っ張ったり、瞼を目ん玉が飛び出るかと思うほど押し広げたりした後、そう言ってこの部屋を出ていきやがった。どうやら俺はなんだかめんどくせー病気にかかっちまったらしい。
「しっかしなあ、寝てるだけっつーのは退屈だよなあっ。まあ、無理して起き上がっても、体がフラついてどーしょーもねえんだがなあっ」
俺がぼやいていると、部屋の扉が開いて、女が入ってきた。魔術師だ。
「武闘家っち、だいじょーぶーう? んー、バカは熱病にかかんないってー、ゆーけどおー。・・・ぶふっ、きゃはははっ。それって迷信ってゆーやつーう?」
魔術師が俺を心配して様子を見に来てくれたみてーだ。なんかちょっと馬鹿にされたような気がするが、頭がクラクラしてんのもあって、よくわかんねえ。気のせいだろうぜ。
「ああ、こんなの初めてだぜっ。体が重くて全くゆーこと効かねーんだっ。賢者が言うには、インフルエンザってえ、珍しい病気ってことなんだが、まあ、専用の治癒魔法で治るらしいから、そんなに心配ねーんじゃねーかなっ?」
「ふーん、なら、だいじょーぶかもねー。病気ってば、いっつもは僧侶っちか賢者っちがぱぱっと治しちゃうけど、今回はそーじゃなかったんでーえ、気になってたのよねー。ぷぷっ、つーか、武闘家っちが昼間からベッドで寝てるとか、マジうけるんですけどーお? きゃははっ」
やっぱり魔術師は俺を気にしてくれてたみてーだ。こっちを見て、笑いかけてる。きっと俺を元気づけようとしてくれてんだ。ありがてーぜ。
「で、症状の方はどうなのよーお。相変わらず、熱は高そうねーえ」
そう言って、魔術師が俺の額に触れた。手が冷たくて気持ちーな。
「ああ、熱は相変わらずだっ。あと、喉が少し痛くなってきたなあっ。ゲホッ」
「あらあら、蜂蜜でも買ってきてあげたら良かったかしらーねーえ?」
「いや、大丈夫だゲホッ、たいした痛さゲホッ、じゃねえからゲホゲホッ」
「ちょっとーお、酷くなってんじゃないの。無理してしゃべんない方がいんじゃなーい?」
「そんなことねえゲホッ、ぜっ、ゲホゲホッ、ゲホゲホゲホッ、ゲ、ゲ・・・コッ、コケーッ!!」
ん? なんか変な咳が出ちまったな。
「ぶ、ぶふっ、何今の? 武闘家っち、ふざけてニワトリの鳴き真似なんかしてんじゃないわよーお」
「ふざけてねえコケッ。変な咳が出ただけだぜコケッ。・・・あれコケッ?」
「うにゅ、なるほどなのです。鳥インフルエンザなのですね」
俺が自分の口調の変化に戸惑っていると、賢者が部屋に入ってきてそう言いやがった。
「賢者っち、どーゆーことよーお。鳥?いんふるえんざって?」
「この病気の病原菌は宿主の体質に合わせて、より力を増すために進化するなのです。武闘家ちゃんの体質にニワトリ型が適合したようなのです」
「へー、そーなんだ。ニワトリねーえ。・・・あーあ、なるほどー。武闘家っちらしーわねーえ、ぶふっ」
「へ? お、俺らしいってどういう意味だコケッ?」
「ぶふっ、アンタが鳥頭だからに決まってんじゃなーい? 三歩歩くと忘れちゃうんだからーあ。きゃはははっ」
な!? 魔術師ひどいぜ。確かに俺はパーティーの脳筋担当だという自負があるし、俺はそれでいいと思っていた。だが、鳥頭と言われるのはさすがに心外ってもんだぜ。
「そ、そんな理由で鳥インフルエンザになったわけないぜコケッ。こんな時にタチの悪い冗談はやめろよコケッ。なあコケッ、賢者も言ってやってくれコケッ。俺が鳥頭だから、ニワトリ型になったわけじゃないってよコケコッコーッ」
「え!? そ、それは・・・えっと・・・なのです・・・」
「な!? おい賢者コケッ、なぜ目をそらすコケッ。そして、なんだその苦笑いはコケッ」
「ぶっ、きゃははははっ、武闘家っちにはニワトリがお似合いよ。あー、マジうけるブヒッ。・・・あれブヒッ?」