第十二話 俺、魔王なんだけど、気が付いたら勇者と体が入れ替わっていた件 説教してくる女
この話で出てくる僧侶と戦士は、一章とは別人で本物です。
「勇者さん、勇者さんっ。もう、ちゃんと聞いているんですか?」
気が付くと、俺の前にあるテーブルの向かいに見知らぬ女が座っていて、俺に話しかけてきていた。
「勇者さん、突然白目を剥いて、変顔して誤魔化そうとしたって無駄ですよ」
ん? 勇者? この女、この旅の僧侶っぽい身なりの女は、何を血迷ったことを言っているのだろう? 俺を誰だと思っているのだ。
「おい、女よ。俺は魔王だ。人間共が恐れ慄く最凶にして、最強の魔族。誇り高き魔族の頂点だぞ」
「はあ・・・。勇者さん、またそんなふざけた冗談を言って、私をからかう気ですか? よりにもよって、俺は魔王だなんて、いい加減にしてくださいよ。女神の顔も三度までですからねっ」
いや、冗談などではなくてだな。この女の方こそ、俺をからかっているとしか思えん。
・・・ん!?
ふと、俺は自分の体に異変を感じた。何だ? 何気なく俯くと、自分の両腕が見えた。それは、いつも見ている魔族の体とは明らかに違って見えた。まるで、人間の体のようだった。え!? なんだ!? え? どういうこと!?
「なななっ!? どういうことだ? この体は人間のものではないかっ!?」
俺は驚いて、つい大声を上げてしまった。仕方ないだろう? 俺はついさっきまで魔王城の自分の玉座に座ってくつろいでいたのだ。それが、一瞬眩暈がしたあと、気が付いたら体が人間になっていて、しかもそれが勇者の体らしいのだ。
「ふう・・・・・・なあ、言ったよ、な?」
俺が取り乱してると、僧侶が声をかけてきた。
「あ? なんだ女?」
「てめー勇者!! さっきこの女神の顔は三度までって言ったよなあっ!? いい加減ブチキレるぞっ、こらあっ! てめー、寝てる間に耳元で即死魔法囁かれてーのか!!」
「ひっ!? え、あ、えっと、・・・ご、ごめんなさいっ」
こ、こえー。なんかすげえ怒られた。こいつ、さっきまでとはまるで別人じゃないか。
「・・・ふう、わかってくれればいいですよ」
俺がビビッて即謝りすると、僧侶は般若の形相から一変して、にっこりと微笑んだ。
この女は、怒らせない方が良さそうだ。うん、そうしよう。
「さて、話を戻しましょう。勇者さん、あなたはもっと勇者としての自覚をしっかり持ってもらわないといけません。私もこうして毎日のように説教をしたくはないのですよ」
「勇者としての自覚、か?」
なんだか状況がよくわからんが、しばらく話を合わせて様子を見ることにしよう。
「そうですよ。私たちのパーティーリーダーであるあなたには、正しい道を歩んでもらわないと、パーティーの皆が困るんですからね」
「ほう、そうだな。女、お前の言うことはもっともだ。仲間に迷惑をかけるような行動は慎むべきだな」
「そうです。慎むべきです。・・・て、え!? 勇者さん、今日はやけに物分かりがいいですね」
「俺は当たり前のことを言っているだけだぞ?」
「そ、そうですか。そうですね」
僧侶は少し困惑したような表情を浮かべている。無難な返事をしたつもりだったが、何か間違ったか?
「とにかくですね。勇者として恥じるような行動はしないでくださいね。例えば、幼い子供に本気でガン飛ばしたり、老人の杖を隠して面白がったり、女性のスカートを魔法で捲ってみたりなんかはしないでください」
「はははっ、そんな馬鹿で子供じみた行動を俺がするわけがなかろう」
「は? あなたがしょっちゅうやってることでしょーが!」
ええー!? ・・・勇者、何やってんだ。
「あと、変幻の小槌は私がしばらく預からせていただきます。あなたが持ってたら碌なことをしないんですから、あれを使って女風呂に忍び込むなんて、まったくとんだ恥さらしですよ」
勇者、変幻の小槌でそんなことしてたのか?
「なんだ僧侶、今日も勇者に説教なのか?」
「あ、戦士さん、おはようございます。まあ、これは私の日課のようなものになってますので」
戦士と呼ばれる男が俺たちの会話に加わってきた。
「勇者も相変わらずだな、また何かやらかしたのか?」
「まあ、いつもと同じようなことですよ。まったく懲りないんですよ、この人」
「そうか、大事にさえならなければ、俺はあんまり口出しする気はないが。・・・だがな、勇者、あんまり僧侶に迷惑かけるなよ」
戦士は俺に近寄ると、そう言ってちょっと凄んできた。
「あ、ああ、わかったよ」
俺はその凄みに少し焦って、とりあえずそう答えておいた。このパーティーって、勇者がリーダーの筈だよな? サキュバスの報告では、その筈なんだが、なんか勇者の立場って低くないか?
「僧侶、俺は市場に出かけてくるよ」
「あ、待ってください、戦士さん。私もそろそろ出かけようと思っていたところです。じゃあ、勇者さん、今日も問題を起こさないようにお願いしますよ」
僧侶は俺にそう言って念を押すと、慌てて席を立ち戦士を追いかけて出て行った。
ふう、やっと一人になれたな。一息つくと俺は改めて周りを見渡す。どうやらここは、どこぞの町の宿屋のようだ。俺はそのロビーに置かれた円卓の席に座っている。
「さて、どうしたものか」
どうにかして、配下の魔族と連絡を取る方法を考えねば、それから、この体をもとに戻す方法も。あ、まずはこの場から逃げ出すのが先決か。俺がそう考え、席を立とうとしたその時、俺は屈強な男に声をかけられた。