第一話 このパーティーの中に魔王がいます 僧侶の告白
初作品、初投稿です。よろしくお願いします。
「このパーティーの中に魔王がいます」
俺は、僧侶がまたおかしなことを言い出したなと思った。
ここは二階建ての宿屋の一階のロビーだ。そこの円卓を俺を含めた4人のパーティーメンバーで囲んでいる。僧侶の唐突なその一言を受け、その他の面々は一様にぽかんと口を開けて言葉を失っていたが、やがて一人が口火を切った。
「いったい何を言い出しはじめんだっ!? そんな馬鹿なことがあるかよっ! おい、戦士もそう思うだろ?」
武闘家が俺に同意を求めてきた。戦士とは俺のことだ。武闘家は俺より少し年上の屈強な男だ。少々短気なところがあるが、根はいいやつだと俺は思う。
「ああ、さすがに俺も僧侶の正気を疑うな」
僧侶はいかにも真面目そうな女といった風貌で、実際、真面目なやつだ。こんなふざけたことを言って、笑いをとろうなどと考えるようなタイプじゃない。ということは、この発言も真面目に言っているのだろうか?
「どうしちゃったのーお? 僧侶っちい? この中に魔王がいるー? ぶふっ、・・・きゃははははっ。マジうけるんですけどーお? 僧侶っちもーお、ちょっとは面白いこと言えるようになったじゃなーい?」
魔術師が、もう我慢できないといった感じで笑いだした。この女は、僧侶とは正反対のタイプだ。見た目はいい女で黙っていれば美人なのだが、口を開くとなんというか品位がないといった感じだ。まあ、男から見れば逆に隙があってそそるともいえなくはない。
「私はいたって真面目です。今朝、神からの啓示があったのです。このパーティーの中に魔王がいると」
僧侶は神妙な面持ちだ。どうやら本気で言っているらしい。
「神の啓示だとおっ!? 本当なのかっ?」
「ふーん、神様がそう言ったっていうのーお? それは困っちゃたねーえ・・・。戦士っちはどう思うー?」
「僧侶の態度からして、本当のことなんだろうな。神の啓示となると、無視できないと思うが」
俺はそう答えて思案した。僧侶はこれまでも突拍子もないことを言い出しては俺たちを驚かせてきたが、その度にこれは神の啓示であると付け加えた。この間なんかは、「異星人が空からやってきます」なんてことを言い出して、さすがに俺もそんなのありえないだろうと考えていたが、その晩に空飛ぶ円盤が夜空から降りてきて、中から見たこともないモンスターが現れた。そいつは何かを訴えかけようとしている素振りを見せたが、見た目が気持ち悪いからって理由で、勇者がさくっと殺してしまった。そいつが本当に異星人だったのか、それともただの珍しいモンスターだったのかは、今となってはわからないが、まあ、僧侶の神の啓示は当たるってことだ。
!!!
俺が考えに耽っていると、不意に悪寒を感じた。誰かに見つめられているという気がして、周りを見渡すが、パーティーメンバーの他には怪しい者の影は無く、武闘家と魔術師はふたり向き合っているし、僧侶に至っては、今は黙とうでもするように目を瞑っている。
気のせいか・・・?
俺が何とも言えない気分で戸惑っていると、そんな俺の気配には全く気付かない様子で、他の三人が話し出した。
「魔王がいるって、いつからなんだよっ?」
「僧侶っちは、神様から今朝聞いたって言わなかったーあ? だったらーあ、ここ最近のうちに魔王が誰かと入れ替わったってことじゃあないのーお?」
「そこまではわかりません。私はただ、魔王がいると告げられただけですので。しかし、今朝授かった啓示だからといって、ここ最近のことだとは限らないとは思います」
「ん? どういうことだよおっ? 俺たちは、始まりの町のパーティー斡旋所で知り合って、もうかれこれ1年以上いっしょに旅してんだぜっ? その仲間の一人が最初っから魔王だったっていうのかあっ? ふっざけんなよおっ!!」
武闘家の怒号がロビーに響いた。その後、しばらくの間、沈黙がその場を支配する。
「・・・でえー、誰が魔王なのかしらねーえ?」
魔術師が不敵な笑みを浮かべて沈黙を破った。