雨粒、数えて
雨は好きですか?
「雨って、好きになれないなぁ」
隣から聞こえる声に苦笑がこぼれる。
せっかくのデートなのに…なんで雨が降るのよ…と頬を膨らませ、ぶつぶつと呟くキミ。
今日のデートは雨が降ったので、僕の部屋でおうちデートに変更。
キミは出掛けるのを楽しみにしてたから、余計に悔しいのかな。
自分の前だけで聞かせてくれる素直な表情に、胸の奥が暖かくなっていくのがわかった。
「そう?僕は好きだけどな」
そう返すと、理解できないとばかりに顔をしかめられた。
あ、眉間にシワが寄ったその表情も可愛い…。
どんな表情だろうと、可愛いと思ってしまうんだけどさ。
表情豊かなキミは、僕の目を惹き付けて離さないよ。
「どうして?髪はまとまらないし、足下はぐちゃぐちゃになっちゃうし。それに傘がぶつかりそうになっちゃうじゃない。好きになれそうな要素がひとつもないよ。それに……」
心の中で、とりとめのないことを思っていると、キミは雨が好きになれない理由を挙げていく。
段々と尖っていく唇が可愛いと思うあたり、僕はキミのすべてが好きでたまらないんだろう。
「…ねぇ、聞いてるの?」
返事もせず黙ったままキミの顔を見つめている僕に、キミは苛立ちを含んだ視線で僕の目を見る。
「ごめん、キミの顔ばかり見てたから…」
「もう!ちゃんと聞いてよ!」
ここで嘘をつけば彼女の機嫌は真っ逆さま。これまでの経験で学んでいる僕は怒られるのを覚悟で正直に伝える。
嘘も、誤魔化しも嫌いなキミ。
だからこそ、僕はキミが好きなんだ。
あぁ、怒ってる顔も可愛い。
だけど、笑ってる顔が一番可愛いかな。
キミには笑顔が似合うよ。冗談でもお世辞でもない、僕の本当の気持ち。
だから……笑ってよ。
「僕が雨を好きな理由はね、こうやって……キミをすぐ側に感じられるからだよ」
僕がキミの傘をそっと取り上げると、不思議そうな顔をしてこちらを見上げるキミ。
そんなキミの腰に腕をまわし、そっと引き寄せ僕の傘の中へ。
所謂、相合い傘状態の出来上がり。
「これなら、街中でもキミを抱きしめていられるから。だから僕は雨が好きなんだ」
………前言撤回。
そうやって、顔を真っ赤にして照れてるキミが一番可愛い。
あ、とか、う、とか言葉にならない声を出して口をぱくぱくしてるキミはなんて可愛いんだろう。
キスしたい…。
だけど、我慢我慢…。キミに嫌われるようなことはしたくないから、今はじっと我慢。
その代わり…部屋に着いたら覚悟してね。
「……少しだけなら、雨が好きになれる気がする」
…部屋まで、我慢できるかな…。
雨粒数えて、頑張って我慢するからさ。
帰ったら一杯キスさせてね、愛しいキミ。
お読み下さり、ありがとうございました。