1−3
気付けば三時間以上沙里と二人で、時には西門さんを交えながら話をしていた。
何があったって訳じゃない、でも私を柔らかな空気がつつんだ。
今夜は気持ちが穏やかで、優しい気持ちになっているのがわかる。
帰りのバスに揺られ、窓の外を見る。
光が後ろへ流れていく。
バスの座席の適度な揺れと、充足感とほろ酔い感が手伝って、眠気が増幅されていく。
少し呆けていたせいで、コートのポケットの携帯が着信を主張するのに気付くのが遅れた。
桃色に光る外部ウィンドウは孝之からメール。
まぶしい恋の色。
孝之…、どうしたんだろ。
いつもはドタキャンしてもメールなんて打って来ないのに。
なんだろう、なにかあったのかな…。
メール、見たくないな。
いつもと違う孝之の行動。
それだけで不安になる。自分がゆらぐ。
まだ見てもいない内容に不安になるなんて馬鹿げてる。
こんなんじゃダメだってわかってるけど…。
「柏原孝之 件名:ごめん 今日は急にゴメンな。代わりってわけじゃないけど、明日ドライブにでもいかないか?」
他愛のないメールだった。
他の誰かの目で見たらそうなのかもしれない。
でも、私には、私にとっては、このメールだけで取り戻せるモノは、信じられないくらいに大きい。
あぁ、愛されてる。
なにを心配していたんだろう。
大丈夫。
私は大丈夫。