プロローグ
その左手が、私の右手に触れる。
右手は強張ってその手から離れようとするも、手の力は強く、逃れられない。
右手を圧迫する温もりは、理性や孤独感を角砂糖のように溶かしていく。
あぁ…。もぅ、いいや。
酒気を帯びた空気はさらに角砂糖の溶解を速め、甘い匂いを誘い込む。
ユルユルと私をつつみ、溶けてなじむ。その空気が「こんなのどうってことない。誰だってやってるよ。」と甘く導く。
頬に添えられた右手は、私の体温の上昇を察しているのだろう。
男の微笑が眼に映る。男の声が空気に交じる。それは私にだけ響く声。その声は近くもなく、遠くからというわけでもなく響き、私に残る疑心を、柔らかい羊水のように浸していく。
孝之の顔がぼやけて浮かぶ。左手のリングが熱くなる。抵抗する。
間違ってる?私は間違ってるの?孝之が悪いんだよね?淋しいんだよ。本当は孝之といたい。一緒にいたい。独りにしないで。置いてかないで。
目の前の男に孝之を重ねる。
大丈夫、孝之はまだ私を愛してくれてる。
目を閉じると、男の唇が重なる。温かく柔らかな感触に安堵し、笑みがこぼれる。
大丈夫、孝之は私を愛してくれてる。
初めて書いた小説(と言えるかわかりませんが)です。楽しんでいただければ幸いです。拙い文章ではございますが、何卒ご指導のほどよろしく御願いします。