ルル達の帝都滞在の終わり。 で、帰郷
帝都にあるターク伯爵の叔父の私邸。
今日は田舎町、バウンダリー・ポートから砂鉄という資源の利権を求めてきた一行は夕食までの間、それぞれの部屋でくつろいでいた。
ルル・バードランド16歳が泊まっている部屋。
ばりばり、もぐもぐ。
彼女がいつも食事前に大量のお菓子を食べているのは、デフォである。
とくに、最先端のスイーツが集まる帝都では、一番の楽しみとばかりに食べまくっていた。
メガカロリー摂取気味であるが、体内では大量の魔力に変換される。
過剰な魔力は自然分解するというルルの都合の良いスペックのお陰でまったく太らない。
赤茶色の巻き毛、オレンジ色のローブ姿のよく目立つ、可愛らしい女の娘。
禁忌魔法に指定されている爆散魔法と人形などを操る使役魔法が得意。
その使役魔法も同時に100体以上操作するほどの能力でその規模も禁忌魔法に匹敵している。
わずか11歳で帝国の魔術師登用試験に合格、以後、帝国筆頭の魔術師である老師の激甘指導のもと、わがままに育った。
屈強な騎士団や上級魔術師ですら翻弄されつづけた、帝都の空で暴れる回る飛竜3頭を事も無げに爆散魔法で排除、竜殺の称号を拝命、爆散の魔術師の二つ名を持つようになる。
年に数回のコロシアムなどで行われる、閲兵式を始め、様々なイベントにおいてド派手な爆裂魔法を披露するごとに人気急上昇、今では可愛すぎる魔女っ子でアイドルになってしまう。
16歳の時、城内で引き起こした鬼ごっこ事件で、城内をめちゃめちゃにし多額の背負い、クビになった。
帰郷後は、皇帝陛下の命令もあり、真面目に働いて借金を返す事になり、家業のバードランド商店引き継ぎ、その主人としてそれなりに頑張っていくことを決心する。
ナギ・ユミハマ、見た目12歳ぐらいの泊まっている部屋。
ベッドにオレンジ色のローブを纏った大人の女性がうつ伏せになっていた。
上半身はだけさせ、その上に黒髪の少年、ナギはまたがるように乗っている。
「ねえ、こんな感じでいい?」
「ああ、ああ! そんな感じでいい……」
ナギは、この世界と異なる世界で事故に会い、死ぬ寸前でルルの召喚魔法により呼びだされた。
本名は弓浜凪、ルルの稼業に詳しい経験豊富な36歳のおっさん。
ルルの施術した時の召喚条件に仕事の経験豊富であることなどの他に、若い子であること、すこしえっちなことなど条件に合わせられるように少年の姿に変えられて呼び出された。
基本的に真面目で、えっち度はごく人並み程度なのだが、この物語進行上、巻き込まれや、強要的展開、ラッキースケベに合う可能性が高い。
これは、悪魔の囁きか、神の導きによるところが大きいのは秘密である。
異世界に来たという絶望感を振り切り、帰還するその日まで生き延びるとともに、ルルの借金返済に協力すると誓う。
もう一人、ナギの下にいる大人の女性。
名前はパイロン。
ルルの身体をないすばでぃした大人の女性に見えるが、本当は皇太子殿下からもらったペットでオス♂のミニドラゴン。
変身能力があるのだが、いろいろ制約があるのだ。
自身の魔法で人間などの姿に変身できるが魔力を多く消費するため、一日2回が限度である。
体の構造を劇的に変化させるため、軽い筋肉痛や痺れなどを伴う。
そのため、積極的に変身をしたがらない。
とくに硬い鱗の姿の時とかは、体中の筋肉が凝り固まってしまうようで、大人の女性に変身しては、その柔らかくなった身体に、がっつりマッサージしてもらうのが何よりの楽しみである。
殿下にあんなこと、こんなことをされ続けていたため、上から目線、ひねくれた性格、変態属性を持つ。
「いい、いいー」
ばたん。
ナギとパイロンがいる部屋にルルが乱入する。
「いい加減にしなさーい! なんで、あんたたちは一緒の部屋にいるのよ」
「だって、俺もナギも男だぜ? ルルは女の子だろ、同室はまずいと違うか?」
ナギもコクリと頷く。
「……パイロン、お願いだからあたしの姿でそんなハレンチなことしないで」
「なんで? 俺、今日2回も変身したんだぜ。変身するとな、肩こるわ、筋肉痛はするわ、軽くしびれるわで、どうしてもマッサージが必要なんだよ」
「わかったわ。このルル・バードランドが直々にマッサージしてやるわ。そこで待ってなさい」
怒気をはらんだ声でマッサージをすると宣言したのに、何故か退室する。
入れ替わるように隣の部屋にいたターク・バウンダリー伯爵が入室する。
「いったい、何の騒ぎかね? うわっ? な、ナギくん。裸のルルちゃんに乗っかって一体何をしているのだ?」
ターク・バウンダリー伯爵、23歳。
先代である父から、爵位を相続したばかりの若き貴族である。
ルルの故郷でもある海上交通の要所、バウンダリーポートタウンと、その周囲に隣接する未開発地域が広がる辺境を領地として治めている。
バウンダリーポートにおいてルルのお目付け役兼、借金の取り立てを任されている。
ルルには一目惚れしており、保護者意識を持ちながらも、いつかは嫁として迎えたいと考えていた。
大人かつ紳士であることをアピールしているが、ルルには振り回されてばかりなのが現状である。
今回は、領地で採れる砂鉄の利権の交渉をまとめるため、帝都にルルとナギを連れてきた。
「うわ、やばっ! 伯爵様、これはその……ルルじゃありません」
「いいか聞きたまえ、ナギくん。わかりやすい嘘はいけない。いくらルルちゃんとは親しいとはいえ、そんな大胆なこと、君には早過ぎるだろう?」
「だから違うって。このコ、皇太子殿下からのご褒美なんです」
「ナギくん、まだ嘘をつくのかい? 私を失望させないでくれないか。いくら皇太子殿下のご褒美とはいえ、ルルちゃんを自由にするのはどうかと思うが。それにルルちゃんは私がお嫁としてもらいたいのは知ってるだろう? 君の行為は、はっきり言って男としてズルい」
「だから、そこは間違ってます。よく見てください! たしかにルルそっくりだけど、超ないすばでぃですよね? そう見えませんか?」
「うーむ、た、確かにルルにしては色気ありすぎるな」
「ですよねー」
「じゃあ、このコはいったい誰なんだ? そしてナギくんはこのコとナニをしていたんだ?」
「このコは、パイロン。殿下のペット、ミニドラゴンなんです。しかもオス♂ですよ」
「にわかに信じがたいな。いずれにしてもエロいことをしていたのだろう?」
「ただのマッサージですよ。パイロン、ほら、自己紹介して」
パイロンは色気たっぷりの眼差しでターク伯を見つめる。
しかし。
「おっす、俺、パイロン! よろしくな」
男声で喋った。
「な、なんと。気味の悪い。だが、君たちは良からぬことをしていたのは事実だ」
「パイロン、なんとか誤解を解いてくれよ」
「うーん、しゃあないな。だったらぱんつの中を見るかい?」
「そ、そうか? いったい、どうなっているんだ……」
ばーん。
怒りで顔を真赤にしたルルを先頭に2体の全身甲冑が入ってきた。
「ほー、まだ、アレの収まったぱんつの中を見せるんだ? ターク伯爵も見たいんだ」
「「「許してください」」」
「とくにパイロン、あんた、いい加減にしないと、あたしがあんたを完璧ボディーに仕上げて奴隷市場に叩き売るわよ?」
そう言うと、2体の全身鎧が土下座でひれ伏したパイロンに襲いかかった。
ルルもうつ伏せになったパイロンに乗っかって、両足を掴み、逆エビ固めをする。
「ちょー、まっ……。うぎゃああ、ぎぶっ、ぎぶー」
「ぎぶ?、ノー、ぎぶ、ノー、完璧ボディはこれからよ。ふむーぅ」
「ぎゃあああああ」
ルルは両脇に抱えたパイロンの足を一層締め上げた。
恐ろしくなったナギとターク伯爵は静かに退室、扉を静かにそっ閉じする。
密室でなにか猟奇的な事件が起ころうとしているが、二人は耳を塞ぐ。
「うあわ、鎧がぱんつをー、ああ、ばかっ、つかむんじゃないっ、いてっ、放せ。ナギ早く助けろっ、あ、ナギ? どこ行った? ナギーぃ」
「うるさーい、そんな醜いものむしっちゃえー」
「そこ、放せっ、引っ張らないで……うぎゃあああ」
◆
夕食。
楽しいはずの夕食が通夜のように重く静かであった。
重々しさを振りはらうかの如く、ターク伯爵は成果を報告する。
「砂鉄の件は予想より良い条件で取引できそうだ。ルルちゃんの借金の返済の助けになるよう、情状も勘案してくれるそうだ。明日か明後日には陛下の承認も得られるだろう」
ルルはじろりとターク伯爵を一瞥しただけで、黙って肉を頬張っていた。
「僕とルル、老師様は、アクシデントにみまわれつつも、結果的に鬼ごっこの褒美を貰うことが出来ました。改めて紹介します。彼がその褒美でパイロンです」
ボロボロになった、ルルの姿にそっくりでないすばでぃのお姉さんを見る。
顔中あざだらけ、破れたローブの袖から見える腕もあざと傷だらけになっている。
「俺が、パイロンです。こう見えてもオス♂のミニドラゴンです……」
またも、ルルはジロリ一瞥してからもくもくと肉を咀嚼する。
「ルルちゃんにそっくりなお姉さんだな」
館の主であるターク伯爵の叔父が普通にコメントするが、ルル以外のナギ、ターク伯爵、パイロンははっとしてそれぞれの顔を見合わせた。
ルルだけは、一瞬眉をぴくっとさせただけで、静かに肉を屠っている。
「ま、まあ、それぞれ目的を達成したわけで、あとは陛下の承認が出たら帰ろう」
余所余所しい声でターク伯爵の発言にナギとパイロンはコク、コクっと相づちをした。
翌日。
やっと、ルル達の予定していたことがほぼ終わり、それぞれが自由行動が出来る日になる。
ルルの憧れのネズミーマンの城に観光出来るということで、相当斜めだった機嫌も多少直った。
ネズミーマンの城に行くメンバーは、ルル、ターク伯爵、パイロンの3人。
ナギだけはルルと別行動することにした。
それは、どこかで皇太子殿下の手の者がルルを監視しているのかもしれないということで、ナギが牢から出ているのが知られるのがまずいだろうということ。
もう一つは、ナギ自身、なにか思うことがあって帝都のあちこちを一人で出歩きたいと言っていたこともある。
ルルとパイロンは、今日に限ってオレンジのローブはやめて、大きな帽子で赤茶の巻き毛の頭を隠し、ノースリーブのシャツ、スカート姿で出かけることにした。
パイロンは、元々ルルの大人バージョンの姿でいるので、ルルと同じような姿でも構わないだろうという考えだ。
それに傍目から見ると、仲の良さそうな姉妹に見えるから、そんなに違和感はないだろう。
保護者としてターク伯爵も同行する。
ちなみに今日の老師は、ルルのお出かけのことを知らされていないことと、滞りがちの職務を消化することもあったため、皇城にずっと詰めているらしい。
ルルはナギがいないことに残念がってはいたが、ネズミーマンと握手した瞬間、どうでも良くなって今日一日、全力で楽しむ。
同じくパイロンも、今まで経験したことのないレジャー施設のイベントの数々に心から楽しんでいる。
あっちこっち振り回されたターク伯爵だけは、ヘトヘトになって少々うんざり気味だった。
一方、ナギは、伯爵の叔父の私邸を裏口から出て、商人ギルド、魔術師ギルドにいく。
何やら相談ごとや「依頼なんかを持ち込んでいる。
ほかにも、商店街、市場なども散策して一日を過ごした。
それぞれが、思い思いに帝都での思い出を作り、おみやげなどを買って、士爵の私邸に帰還する。
そして夕方、ボルダー財務卿と老師の特別な取り計らいもあって皇帝陛下の承認がおりた。
◆
翌日。
宮廷魔導師である老師の朝は早い。
「ルルの顔が一刻も早く見たいんじゃ」
最近は、ルルが帰郷して、会えないと愚痴をこぼした。
まず、ルルの泊まっている屋敷に押しかけることから始まる。
「やっぱり一番うれしいのはルルの笑顔じゃな、この歳まで生きててよかったなと」
老師と呼ばれる老人。
かつて大陸全土を脅かしていた魔族とその頂点を君臨する魔王を討伐した、勇者のパーティーメンバーの一人。
勇者とその他のパーティーメンバーは、その後の冒険で行方不明になったり、高齢になって他界した。
老師には名前がない。
かつてはあったのだが、ある神殿で魔王に抗うだけの魔力を得るために、自分の名前を魔神に捧げたため、名前を失う。
老師の名前は、全ての人間の記憶、全ての記された書類や書物からことごとく消失する。
再び名前を付けるにも、魔神からこの世への災厄が起こると釘を刺されているため、名前の無いまま今日に至る。
現在は、宮廷にて現皇帝を補佐しつつ、後進の魔術師を育てる毎日を過ごしている。
魔王討伐の伝説と、高度な魔法とその知識により、絶大な尊敬を集めていたが、ルルの出現によりその足元が徐々に壊されていく。
肉親のいない老師は、登用試験に現れたルルを実の孫のように可愛がっていた。
しかし、ルルにとっては感謝少々、ウザイが大半である。
ルルのしでかした莫大な借金を老師が肩代わりしたり工面したため、今ではルルの最大の債権者という立場でもある。
「おはようございます、で? こんな朝早くなんの用ですか」
ルルはめちゃくちゃ低血圧である。
睡魔と怒りで目付きが悪い。
「朝の空気が気持ちよくてな、ルルを散歩でも誘おうかと」
老師は嘘をついている。
その証拠に目が血走っていた。
ルルに会いたくて一睡もしていなかったのだろう。
「ルルぅ、わしはいっときも早くお前に会いたいんじゃ。長くいたいんじゃ」
「……あたしね、眠いの。お休み」
「ルルぅ」
ルルは部屋に戻り二度寝する。
老師はしょぼくれた。
高名な老師を玄関に立たせておき、そのまま帰すのもどうかと思い、屋敷の主であるターク伯爵の叔父は客間に招くことにした。
「食事はまだ用意出来てませんが、温かいお茶をお出ししますので」
「すまぬな、頂こうか」
身だしなみを整えたターク伯爵とナギも老師のいる客間に入ってきた。
パイロンは昨日の激しいお仕置きで、体中が痛くてまだ寝ている。
「「おはようございます」」
「おはよう」
「老師様、昨日、おかげさまで砂鉄の採掘と売却の認可がおりました」
と、ターク伯爵が切り出した。
「ふむ、そうか、これでルルも喜んでいるじゃろ」
「ええ、まあ」
あくまでもルル中心の老師である。
「早速、帰郷して準備を進めます」
「しばしのお別れじゃな」
「ええ、いろいろとありがとうございました」
「お別れか。ルルぅ」
老師は顔を曇らせる。
「老師様。ご提案があります」
「なに、言ってみなさい」
「提案というより、交渉になりますが」
ナギは声を落として、老師に提案する。
「なに? それはまことか? 少年、その提案乗った。ふぉふぉふぉそうか」
老師は血走った目を見開いて狂喜した。
ナギの提案を聞いていたターク伯爵も驚く。
「ふむ、すぐに用意しよう。そして、しばしのお別れじゃ。ふぉふぉふぉ」
短い期間であったが、ルル達一行の帝都滞在記はこれで終わる。
そして翌日。
出港の帝国周回定期船に乗り帰郷する。
さすがにルルは見送る老師が泣き叫ぶのだろうと、ちょっぴり心が傷んだが、意外と元気よく手を振る老師の姿に違和感を感じつつも、ほとんど見えなくなるまでずっと手を振って応えた。
◆
帰郷後、普段のルルの朝が始まる。
ルルの朝は遅い。
「あたし血圧が超低いの」
最近はナギがゆっくり寝させてくれないと愚痴をこぼしていた。
まず、ナギの襲撃を阻止するため、部屋のドアに入念なバリケードづくりから始まる。
「やっぱり一番うれしいのはお昼ご飯前の目覚めね、店主をやっててよかったなと」
職人だったらまじめに働くのだが、ルルは……。
やっと10万文字超えた。嬉しいとささやいてみる、テスト