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ひゃっはー海のならず者と怖い姉御って誰?

「申し訳ありません。お怪我はないようなんで、僕たちはこれで失礼します」

「ガキはすっこんでろ」


 謝罪したナギの言葉は彼らに届かなかった。

 予想通り絡まれた。



 商店街のメイン通り。

 ルルとナギの空樽18個編成のパレードが事故った。


 通行中のパレードに、酔っぱらいが接触、酔っぱらいの仲間が7人がルル達を取り囲む。

 日焼けした肌、筋肉隆々、顔や腕に傷跡、ルルの数倍の体重がありそうな連中ばかり。

 秋半ばで肌寒い日なのに薄汚れた半袖シャツを着ている。

 その袖からは、刺青が見えるのだが全体が見えないので何が彫られているのかわからない。

 酔っぱらいの被害者側は骨折を主張して難癖を付ける準備が完了していた。


「相手が悪そう」

「かわいそうね」

「死人が出そうだわ」

「命知らずだねえ」


 商店街の人々はヒソヒソと小声でとささやきながら様子を見ている。

 その恐れられているというような声を聴きながら男どもはいい気になってた。


「きっとフルボッコよ」

「そうね、あの、お・じ・さ・ん・た・ち、かわいそう」


「おいっ! こるぁ?! 俺らがかわいそうだと? ババアども」

「あんた、親切で教えてるんだよ」

「ふん、ババアはすっこんでろ。へっ、どっちがかわいそうか、よく見てろよ」


「おねえちゃんよお、今ならお金で許してもいいんだぜ」

「いやよ」


 ガラの悪いおじさんたちはどんどんまくし立ててくる。


「おう、俺達は勇猛轟く『爆竜海賊団』だあ。そして俺様が泣く子も引きつる、ドラゴン・ポン船長だ」

「おかしら、そこは泣く子も黙る、ですぜ」

「うるせえ、分かってるわぁ」

「へえ、すんません」

「おねえちゃん、この船長様はな、帝国でも有名なこの町出身の『竜殺の魔術師ルル』の右腕なんだよ」

「こら小娘、いい加減にしないと帝都にいる恐ろしいルルの姉御に言いつけるぞ」

「驚いて言葉も出ないようだな? いうこと聞かねーとひでえ目に合うぞ、おい」


 ……ルルもさすがに驚いた。

 様子を見ているおばさんたちも、哀れんだ目で様子を見ている。


「お……驚いたわ」

「驚いたな。なあ、このヒャッハーな人達……知り合いだったのか?」

「知らないわよ、こんな臭そうな人たちなんて」

「なんだと! 臭いってどういう意味だ?」

「クサイものはクサイといったのよ。酒臭い汗臭いイカ臭いどん臭い、ワキも臭いし息も臭い……あと、ちょーめんど臭い」


 ルルは本当に面倒くさそうに言いはなつ。

 当然、海賊どもは激怒した。


「おじさんたち、おばさんの言うとおり、マジでかわいそうなことになるよ……」

「もう、かんべんならねえ、ガキどもを吊るし上げろ」


 ナギも男たちをなだめてみた。

 ルルは眉をヒクつかせている。


「ああもう、めんど臭いわね。ほら、お金あげるからそこどいて」


 ルルは小さなオレンジ色したみかんのデザインの可愛らしいガマクチを開け、手のひらにひっくり返す。

 ルルの手には5ジェム鉛貨1枚。

 ルル、あんたはどんだけ貧乏なんだよ……。


「おじさん、一応、あたしの荷物が当たったのだから謝罪しとくわ。あたしの全財産をあげるから、これで一件落着でおしまいよ」


 ルルは、5ジェムをドラゴン・ポン船長に投げ渡す。

 ルルがいきなり投げたのでキャッチもかわすことも出来ず、眉間に鉛貨がびちっ! と音がして当たり、転がる。


「てってめえ、ふざけやがって。誇り高き爆竜海賊団は、恐怖のルルの姉御の名にかけてこのガキどもを成敗してやるわあ」


 やっぱりめんどくさい展開になったことと、勝手に名前を使われていることにルルはぷちっとキレた。


「なにがホコリ臭いのよ。その姉御がいいって言うんだからいいの」

「ルルの姉御が懲らしめろって俺達に言うんだよ、恨むなら姉御に恨みな」

「おじさん、勝手にその名前を口にしないで。クサくてたまらないわ」

「クサくないわあ! やい小娘、ここですっぽんぽんにひん剥いて泣かしてやる」


 八人の男どもはルルとナギを掴みかかろうと荷馬車に詰め寄る。


 どかーん。


「耳がぁ、耳がああ」

「耳ー」


 ルルは、頭上5メートルぐらいの高さに無詠唱で爆発を起こす。

 いきなりの爆音にナギを含めて男どもは手で耳を塞ぎ怯んだ。


 ぱん、ぱぱぱん、ぱぱぱぱんっ。


 「「「「「「「痛えっ」」」」」」」


 その怯んだ隙を突いて、次々と八人の男どもの耳元に小さな爆発を起こす。

 耳を塞いだ後なので鼓膜こそ破れなかったが、手の甲が焦げる。


「「「「「「「「うきゃあああああ」」」」」」」」


 ルルは魔法は止まらない。


「おじさんたち、姉御の命令よ。怒ってないで踊りなさい」


 人さし指で海賊の共の足元を狙いを定め魔力を送る。

 両手を差し出し手を叩く。


 ぱんっ。


 ルルの使役魔法。

 対象は海賊どもの靴。

 魔法のかかった靴せいで強制的にバタバタと下手くそなダンスみたいに足を右、左、右、左と足を上げたり踏んだりを続けている。


 今度は荷馬車にこぼれて残っていた米や豆、麦などをかき集めて握りしめ、魔力を込めから海賊共の足元にぱらぱらっとばらまく。


 そしてまた、ぱんっ! と手を叩く。


 ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱんっ。


 すると、投げた米などの穀物が海賊どもの足元で爆竹のような破裂音をまき散らしながら爆ぜまくる。

 

「と、止めてくれえ」

「いあやだああ」

「勘弁してくれえ」

「許してやるから、いや、許しててください」

「ひぃぃ」


 口々に足をばたばた地面を踏んでいる海賊は涙をためていた。


 ルルは、なにもなかったかのように出発する。

 18個の空の樽がゴロゴロガラガラ唸らせて、伯爵邸に向かった。


「待ってくれ」

「謝るから、止めてくれー」


「いいのか、あのままで?」

「いいんですっ。その怖い姉御が言うんだから問題ないのですっ」


 一応心配するナギと、スッキリしたルルであった。



 ターク伯爵は、伯爵邸2階の執務室にいた。

 自身の伯爵領の開拓とバウンダリー・ポートの拡張整備案を書類にまとめていると、なにやらガラガラと騒がしい音が近づいてくるのが気になってペンを止める。

 聞きなれない騒音に気を散らされ、一向にペンが動かない。

 ガラガラゴロゴロ、木製の大きな何かが転がっているのだろうか?

 どんどん騒がしさが増し、耳を抑えたくなる騒音レベルに達した頃、突然音が止まった。


 ターク伯爵は好奇心にかられ、立ち上がり窓を開けてバルコニーに出る。


「なっ、なんだ?」


 伯爵の眼下には門から玄関まで横倒しの樽が乱れなく並んでいる。

 今の騒音は沢山の樽が転がってきた音なのは予想できる。

 しかし、どうして、樽が……何故に? ここに?!


 執務室の扉のノック音、執事のレイモンドだった。


「お館様、ルル・バードランド様がお越しになりました」


 すぐに騒音の首謀者が判明した。


「なるほど、ルルちゃんか。わかった、今行く」


 玄関にルルと少年が立っていた。


「ルルちゃん、どうした。どう見ても嫁入り行列には見えないが」

「ターク伯爵様、冗談が下手ですわ。ほほほ」

「ふむ、ルルちゃんは手厳しいな。でもかわいいし、本当に嫁になってくれるなら盛大に許す」

「嫁にはならないから。早速だけど、この鎧を暫くお借りしたいわ。それと外の水をちょうだい」


 玄関の左右に飾られている2体の全身鎧を見る。

 歴代バウンダリー伯爵家と西方辺境警備隊たちの努力でこのバウンダリー・ポート・シティは長い間、治安がよくなったため、伯爵邸の衛兵の役目が不要になった。

 そのかつての衛兵の名残が2体の全身鎧だという。

 他には魔除けの意味もあるそうだ。

 これは、あとでターク伯爵から聞いた話だった。


「おいおい、いきなり押しかけて遠慮のない願いとは驚いたな。この鎧で鬼ごっこでもするのか?」

「ご所望なら仰せのとおりに。でも、帝都の偉い人みたいに許可されても、あたしに借金を押し付けなさいませんようお願いします」

「ふふん、これも冗談だ。で、鎧と水、どうするのだ?」

「伯爵様、女の子の行動をいちいちチェックするのは無粋ですわ。伯爵様は、あたしのお花摘みでもついて来るのかしら。昨日の約束はもうお忘れのようね。借金返済の相談と協力をすると言ったじゃない。まったく、貴族様ってのは帝都でも辺境でも器の小さいカッコばかりの者ばかりで幻滅しますわ」


 ルルはオーバーアクションで両手のひらを上に向け、いかにもガッカリのポーズをする。

 そんなむちゃくちゃな、と思わずツッコミたくなったのは、ターク伯爵とナギだった。


「わ、わかった、わかった。私は嘘をつかないし、領民には心も広く接していたつもりだ。ましては大事なルルちゃんの願いを断れないよ」

「よかったあ。ありがとう、伯爵様。私、あやうく伯爵様が嫌いになるところでしたわ」

「ルルちゃんに嫌われたら嫁に来てもらえなくなるからね。水はともかく、いったい、鎧はどうするんだ? ルルちゃんもそこの坊やにもサイズがあわないだろ?」

「着ないから大丈夫よ。こうするのっ」


 ルルは両手に魔力を込める。

 やがて両手がぼうっと光りだし、その手で玄関の左右に飾られている全身鎧にさわると、手の光がすっと消えた。

 しかし、それ以上、なにも起こらなかった。


「ひつじさん。バケツを2つ借りたいのだけど」

「ルル様、執事しつじでございます」


 執事のレイモンドはにっこり微笑んで軽く会釈し、屋敷の奥へ行ってしまった。


「あ、そうそう伯爵様、この子を紹介するわ。あたしの助手のナギ・ユミハマくん。私の名代として伯爵様のところに遣わすこともあるのでイジメないでね」

「ナギ・ユミハマです。ナギとお呼びください。伯爵様よろしくお願いします」

「ルルちゃんに嫌われたくないからなあ、大事に遇するよ。ナギくん、よろしく頼むよ」


 やがて執事のレイモンドが木のバケツを2つ持ってくる。


「ナギ、ひつじさんのレイモンドさんからバケツを受け取りなさい」

「わかりました」

「ルル様、執事しつじでございます」


 ナギはバケツを受け取る。


「さて、伯爵様。このルルの実力は噂しか知らなかったと思います。帝国屈指の近衛兵団をも怪我人続出させた、猛爆の魔術師ルルの華麗なる使役魔法をお見せしましょう」


 そしてルルはターク伯爵の顔の変化を楽しむかのように見つめ、もったいぶるように両手をゆっくり差し出し、一呼吸をおいてパンっと手を叩いた。

 すると、中身の無いはずの鎧が生きているかのように歩き出し、ナギの持っているバケツの取っ手をつかむ。

 もう一回パンと叩くと、2体の鎧は、庭の池の畔にある大口開けた魔獣の石像の両側に移動して立つ。

 ルルは鎧の配置を確認し、また手をぱんっ! と叩くと、鎧は手に持ったバケツで石像の吐き出す水を汲み始める。

 同時に、樽は一個ずつ石像の真後ろまで転がってきて立ち上がり、フタが外れる。

 樽のフタが開くと左右の鎧は汲み上げた水をどんどん移しては汲む動作を繰り返し、いっぱいになると、樽は自動的に蓋を閉め、樽の列の最後尾まで転がる。

 一番前の空の樽がまた、石像の後ろまで転がり、立ち上がり、フタを開けてスタンバイする。

 以後、鎧はどんどん水を組んでいく。


「ほほぅ、これは驚いた。これがうわさに聞くルルちゃんの使役魔法か。すごいな」


 ターク伯爵は、ルルの魔法の事は噂でしか知らない。

 ルルを帝都に送り出した当時は、先代のタークの父が当主だった。

 タークはというと、帝国で2番めに大きい都市にある母の実家の屋敷に住んでいて、騎士道の修行をしていた。

 そのため、噂に聞くルルのことは知っていても、初めて面と向かって出会ったのは昨日だったのだ。

 伯爵は目を見開き、感嘆する。

 ルルはドヤ顔になり、天狗になりまくっていた。


「伯爵様、樽は全部で18樽あります。終わるまでお茶でもごちそうしてもらえないかしら」

「ああ、いいよ。ゆっくり話でもしよう。ナギくんも一緒にどうだ。レイモンド、応接間にお茶と菓子の用意を」

「かしこまりました」

「ありがとうございます。伯爵様」


 無礼千万、反撃は口先ひとつで完封、要求はすべて大通し。

 この時、ナギはルルのゴリ押し交渉術の凄まじさに驚愕した。

 爆散魔法より破壊力あるのかもしれないと。



 ターク・バウンダリー伯爵邸の応接室。

 中央にテーブル、一人がけソファーにお屋敷の主のターク伯爵、三人がけソファーにはルルとナギが座っている。

 ルルは執事のレイモンドが用意した菓子を掴み、もぐもぐ食べては紅茶で流し込む。

 ナギは小声で貧乏臭いからやめろよ、と言ったが、魔法を使うとどうしても甘いものが欲しくなるのよねーとマイペースで菓子を貪っていた。

 外では、ターク伯爵自慢の全身鎧が疲れ知らずで水を汲み続けている。


 ルルは話しの合間に菓子を貪る。


「それでね、さっき、酔っぱらいの海賊を名乗るおじさん連中に絡まれたけど、おかしな人達でね。なんでもいつの間にか、あたしの配下だ子分だ、とか言いながらもあたしに楯突くの。意味わかんないでしょ。めんどくさいから魔法で踊り続けてもらってるわ」

「ほほう、海賊とな。困ったヤツらだな」

「んー、なんと言ったっけ? 爆竜海賊団のドラエポン船長とか言ってたけどね」

「それ、ドラゴン・ポン船長と言ってたよ。未来から来てないから」

「そうそう、ポンね」

「ふむ、あの流れ者のドラゴン・ポンか。よくこの町で悪さしては逮捕してブタ箱に入れてはいるのだが、タダメシが喰えるといって喜ぶばかりでな。まったく反省しない困ったヤツらなんだ。ふむ、なるほど、ルルちゃんはヤツらを懲らしめたのか」

「懲らしめたというか、まだ、懲らしめている最中だと思うわ。彼らの靴に込めた魔力が尽きるまではずっと踊っているから、少なくとも夕方まではずっと強制ダンス中よ」

「ははは、これは全く愉快だな。そうだ、これから彼らが悪さしたらルルちゃんに頼もうかな。これも町の治安に貢献してくれているな。レイモンド、ここに」


 執事のレイモンドがお代わりのお菓子の大皿を持って入室する。


「レイモンド、ルルに報償金を。そうだな、3万ジェムを用意して差し上げろ」

「かしこまりました。お館様」


 ナギは外の様子を見る。

 間もなく最後の樽にとりかかるようだ。


「ルル、水汲みがそろそろ終わりそうだ」

「あら、早いわね。伯爵様、この残ったお菓子を全部もらってもいいかしら?」

「ははは、どうぞ。だったら、まだ余分にあると思うから出掛けに持って行きなさい」

「ありがと。伯爵様がこの大皿よりも大きな器であったことに感謝ですわ」


 無邪気でごきげんなルルの笑顔に、ターク伯爵は苦笑する。

 レイモンドが入室する。


「お館様、お金を用意しました」


 伯爵は封筒を受け取り、金額を確認する。

 一万ジェム金貨3枚。


 帝国通貨のジェム。

 この世界では紙幣はまだ存在しない。

 金属で出来た貨幣を流通させている。


 通貨単位の『ジェム』は、もともと取引に使いやすい宝石や貴石、魔石を物々交換に利用していた名残だ。

 現在は、サイズがまちまちの石では使いにくいため、貴重な金属で作られた貨幣を使っている。

 帝国の造幣部が厳密に重量を定め鋳造して、帝国歴代皇帝のレリーフを刻印したものを発行していた。


 値打ちの低いものから鉛貨、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、ミスリル板、オリハルコン板がある。


 鉛貨は1ジェム、5ジェム。

 鉄貨は10ジェム、50ジェム。

 銅貨は100ジェム、500ジェム。

 銀貨は1,000ジェム、5,000ジェム。

 金貨は10,000ジェム、50,000ジェム。


 ここまでは一般的に流通している通貨。

 鉄は、丈夫なので一般的に武器や様々な金具に使用するため、わりと値打ちがある。

 以下は大きな取引する豪商や、帝国の褒賞、俸禄でしか利用されていないものである。

 形状も貨幣でなく、帝国の刻印が打たれているインゴットである。

 そしてその金属は特殊な武器や魔法の道具に使う貴重な材料でもある。


 ミスリル板は100,000ジェム、500,000ジェム。

 オリハルコン板は1,000,000ジェム。


 金属の相場は鉱山は全て帝国が掌握し管理しているため、安定している。

 金属片であれば、貨幣代わりに取引も可能であるが、持ち運びにくいことや重量が一定の重さでないため、同じ金属の貨幣よりも重量あたりの単価がかなり低くなる。

 つまり、貨幣の状態の金属は帝国が定めた重量であることが保証され、持ち運びしやすいため、今では通貨として流通していた。


「レイモンド、残ったお菓子も全部ルルちゃんに持たせるように」

「かしこまりました。お館様」

「先に、3万ジェムだ。今度からは警備隊に引き渡して、そこでルルちゃんの魔法で処罰までしてもらうってことでいいかな」

「いいね! わっかりました」


 ルルは伯爵から報償金を受け取り、中身の金貨三枚をみかんのガマクチに入れる。


「まいどありー」

「ルルちゃん、月末には借金を払いにくるんだよ」

「かしこまりです」


 ルルは上機嫌であった。

 ナギは小声でルルに耳打ちする。


「ルル、そのお金、あとでストナさんが管理するからね、渡してね」

「ちょっと、せっかく貰ったから嫌だよぅ」

「ルル、あのね、僕が取るわけじゃない。その資金できちんと仕入れや仕事のための投資に使いたいの。お金儲けたいでしょ? 借金を早く返したいでしょ?」

「でも……お菓子買いたいし」

「大丈夫、きちんと振り分けてからルルのお金をあげるから」

「わ、わかったわ」


 しぶしぶだけど、ルルは了解した。

 今度はナギは、伯爵に提案する。


「伯爵様。水を分けて頂き、感謝します。これからも伯爵様から水を貰わなくちゃいけないと思うので、貰った分いくらか支払うべきだと思うのですが、いくらお支払いするべきでしょうか」

「そうか、ルルちゃんが来てくれるならタダでもいいんだがな」

「そういうわけにはいきません。確かに伯爵様の池の湧水は無尽蔵に湧いていますが、元来、水は非常に貴重なものです。ましてや海に生きる者には命を繋ぐ大切なものなのです」

「えー、タダのほうがいいじゃない」

「いや、これは町の中でターク伯爵様と僕達が癒着していると思われてやっかみを受けかねない。現にルルは女の子、僕は子供でしかないから海賊に絡まれた。そのためにも伯爵様から正式に買っていることにしないといけないと思う」

「そ、そうか。いくらがいいか悩みどころだな。ならば問おう。ルルちゃん、君はこの水をいくらで売るつもりだい?」

「1樽2000ジェムかな。樽自体は1000ジェムなんで実質水は1樽1000ジェムかしら」

「なるほど、じゃあ、水は2割の200ジェムでどうだ?」

「えー、200ジェムもとるの? ヤダなぁ」


 ルルは損した気になって難しい顔をしている。


「僕はその金額でいいと思います。第一、この町には沢山の井戸があるため、お金を払ってこの湧水を汲むまでもないと考えるでしょう。でも、タダだったり、非常に安かったりすると僕達みたいに大量に販売して儲けたいと考える商売人も出てきます。幸い、ここは港から離れていますので200ジェムを払ってまで大量に買うものはいないと思います。つまり、僕達が独占できるのです」

「ん? 水はいっぱいあるから分けてもいいじゃない?」


「ルル、いいかい? 水だけではないが商品を大量に用意できるというのは、港で商売することには非常に有利だ。僕らが水で儲けたら同じことを考える者が必ず出てくる。でもね、商売のためにわざわざ魔法使いを雇うのはなかなか出来ないと思うよ。魔法使いのきみだったら、こんな仕事するかい?」

「あたしだったら、もっと魔法使いらしい仕事をしたいな。冒険者とか、傭兵とか」


「そうだよね。地味な仕事はしたくないよね」

「そうねえ、家業でなければ魔法使いの仕事じゃないわね。あくまでも商人の仕事だし」


「そういうこと。また、他の者が大量に水を汲んでいたら僕たちは終わるまで待たなくてはならないよ。これは時間の無駄にもなる。だから、正式にお金を払って買うんだ。これは、水を独占できることでもある」

「ナギ、頭いいのね。言うとおりにするわ」

「と、言うわけで、伯爵様。これからは、1樽につき、200ジェムお支払いします。今日は18樽分頂きましたので、3600ジェムをお支払いします。さあ、ルル、君のサイフから金貨一枚を渡してください」


「おどろいたな、ナギくんは非常に頭がいいな。いや、なんだか経験をしている者の考え方だ。こんな若いのに大したものだ。レイモンド、金貨を受け取ってお釣りをお渡ししろ」

「かしこまりました。お館様」

「ひつじさん、じゃあ、これ。10,000ジェムね」

「ルル様、執事しつじでございます。少々お待ちを」


 レイモンドはまた苦笑いする。

 実のところルルは、ヒツジは間違いというのを充分理解しているが、レイモンドの苦笑いするさまが、ルル的にはストライクであった。

 つまり、苦笑いを「苦みばしった素敵なおじ様」という感覚でレイモンドを見ていたのだ。

 レイモンドはただただ大人の対応するだけであった。


 執事のレイモンドはお釣り6400ジェムを用意してルルに渡す。


「おっと、ルルちゃん、ナギくん。次からは私の鎧無しで水汲みできないかな」

「わかりました。対策を考えておきます」

「じゃあ、お二人さん、仕事を頑張りたまえ」

「それでは失礼します」


 ルルとナギの荷馬車を先頭に樽のパレードが動き出す。

 水を充填して質量が格段に増えたため、音こそ小さくなったが地鳴りのような音を立ててゴロンゴロンと帰路についた。




 途中、8人の海賊団のおじさんたちに出会った。

 まだ、靴に魔力が残って踊っており、はあはあぜえぜえ言いながら許しを請うていたので魔法を解いてやることにした。

 海賊たちはクタクタとへたり込んだ。


「おじさんたち、怖い怖い姉御様の顔忘れていたみたいなので、今、ここで覚え直しなさい。あたしが、竜殺ドラゴンキラーの称号を下賜し、帝都では猛爆の魔術師と呼ばれた、ルル・バードランドよ」


 体重がルルよりも数倍ある体格の海賊どもは驚き、土下座して謝っているが息を激しく切らしているため何を言っているのかわからない。


「あたしの配下といったね。じゃあ、もう町で面倒起こさないで。これは命令よ。いうこと聞かなければ、あんた達の空っぽの頭が……」


 ルルはドラゴン・ポン船長の持っていた酒壺を指をさす。


 ぼんっ。


 酒壺が木っ端微塵に破裂する。


「……よ。わかったら、今から真面目に生きなさい」


 自称、勇猛なドラゴン・ポン船長はビビりまくって失禁した。



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