表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
flower*  作者: koux
8/11

第八輪 『ポストマン/~ 二通目』

 俺の名は黒柳達也。とうとうあの花にリベンジする日がやってきた。

今日こそはあの…『ちょっと待て、郵便屋。お前、当たり前のように語り始めてるが勘違いするなよな』


『何がです?』


『何がじゃないだろ!勝手に人の話を私物化するんじゃない』


『何をおっしゃいますモヤシさん。いや失礼、海野さん?』


『お前、今のわざとだろ』


『やっぱ、いちいち細かいですね~そんなことばっか言ってるから友達できないんですよ』


『うるさい。お前まで言うな』


『ちっ、じゃぁ~はい。速達』

舌打ちをしながら手紙を渡してくる。


『ほんとに失礼な郵便屋だな』


『おっじゃましま~す』

こちらの言うことも聞かずに既に部屋へ上がり込んでいる。


 どいつもこいつも勝手な奴らばっかりだ…手渡されたのは差出人の書かれていない一通の速達。


リビングからはちゅらの歌声が聴こえている。

今日はちゅらが大好きなシルヴィ・バルタンの歌った「あなたのとりこ(irresistiblement)」

透明感のある声で高らかに歌っている。



『カチャ』


「きたわね」

こちらに気づいて歌をやめる。


「こんにちは、ちゅらさん。相変わらず素敵な歌声ですね」


「いらっしゃい。黒ヤギ」


「2回目であだ名呼び捨てかい。まあいいですけど…でも今日はこの前の曲じゃないんですか?せっかくちゅらさん宛の手紙を持ってきたのに」


「ふん。あたしはあなたの思い通りになるような安っぽい女じゃないし、それに今のあなたにはこっちのほうが合ってるわ」


「おう~ ちゅらさんが俺にメロメロ~ってことでいいのかな?」


「それだけは有り得ないわね。あたしには花の甘~い蜜に引き寄せられて群がる蜜蜂位にしか見えないけど?」


「あ~どうせ俺は花の蜜を貪る蜜蜂ですよ~だ。でも有り得ないって、そこまで強烈に否定しなくても…」


「であなた今日はあたしのうちに何をしに来たの?そんなに大きな鞄を肩からかけて」


「ふっ、聞いちゃいました?」

待ってました言わんばかりに不気味に笑う。


「気持ち悪いわ、その顔」


「配達ついでにこの前のお礼と思ってちゅらさんにプレゼント持って来たんですよ」


「結構よ。間に合ってるわ」


「せっかくだから貰ってくださいよ~」と言いながら鞄をゴソゴソあさり始める。


「どうせ、あなたのことだから『こっちのほうが可愛いですよ。毒づかなくて』なんて言いながら昔流行った歌って踊るシンギングフラワーでも持って来たってそんな所でしょ?」



 いつの間にかに郵便屋の動きが止まっていて頭を垂れて明らかに落ち込んでいるように見える。こちらを振り返った時には目に涙を溜めてちゅらを見つめている。


「出して見なさいよ」

ちゅらが追い討ちをかける。


「うくっ。これでリベンジできると思ってたのに…」


『ゴトッ』

渋々、鞄の中からちゅらの倍以上もある大きなシンギングフラワーを出し床に置く。


「浅はかね。こんな物であたしを言い負かせると思ってノコノコとやって来たことが笑えるわ」


「くっ悔しい…またしても花に遊ばれてしまった…」


「あたしはいつでも、相手になってあげるわよ」


「いつか絶対、言い負かしてやりますからね」


「またあたしの香りに引き寄せられて来るといいわ」


「じゃっ、これ重たいんであとよろしくっす。海野さん」

さり際にまたまた勝手なこと言い捨てて去っていった。


 残されたのは大きなシンギングフラワーと一通の手紙だけ。もう少し落ち着いて配達ができないのだろうかあの男は…


 差出人の名がないので少々迷ったが手に持ったままの手紙を開封する。

手紙はあの郵便屋からだった。お世辞にも綺麗とはいえない字で書かれた手紙。


『海野ちゅら様ついでに海野耕介へ』

と書き出された手紙…


 ちっ、俺はついでか…でもそのあたりは大目にみてやり読み進める。

郵便屋が書いた手紙には色んなことが書かれてた。


 ただ、公務員になればいいと思って郵便屋になったこと、毎日がどんどんとつまらなくなっていったこと、

嫌なことばかりが自分の周りで起きるようなったこと、眠りに付いて目を覚ますことがもう嫌になったこと


 このあたり来るとなんだか胸が苦しくなってきた。


 郵便屋と出会ったあの日の朝、その日仕事を終えたあとに命を絶つことを決めたこと…そしてあの日、偶然出会ったちゅらの歌声とあまりにも楽しい時間によって救われたことが書いてあった。


 俺は全く気付かなかった…あいつがそんなこと考えていたなんて…

なぜだかわからないがこみ上げてくるものがあった。


「ねえ~耕介。黒ヤギの手紙、なんて書いてあった?命を助けてくれて有難うとでも書いてあった?」


「なんでお前がそんなことまでわかるんだよ」


「え?なんでって…耕介、まさか気付いてなかったの?あたしは始めて会った瞬間から分かってたわ。黒ヤギは耕介と一緒」


 その瞬間、今まで完全に忘れていたことを思い出す。俺もちゅらに出会わなければ…


「そう言うことよ」



つづく


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ