第四輪 『午後のひととき』
休日の午後はだいたい部屋で過ごす。友達と出かけることもない。
というよりも一緒に出かけてくれる友達なんていない。
でもそんなことは気にならない。今日もベットに座り本を読んでいる。
ラジオからはJ.S.バッハ作曲
『管弦楽組曲第3番BWV1068 G線上のアリア』が流れている。
午後のひとときを優雅にする音楽は、悠久の時の流れを感じさせない鮮やかな響き
日頃の雑踏を忘れることのできる瞬間。
その最高の雰囲気をぶち壊す奴がいる。
「くんくん。ちょっと何か臭わない?」
「はぁ?」本に目を落としたまま適当に返事をする。また始まった。
「何か臭わないって聞いているのよ。さては、耕介、オナラしたわね?」
「なんだよもぅ。超いい雰囲気だったのに台無しじゃないか?オナラなんてするわけないだろ。
っていうか、そもそもしたっていいじゃないか?自分の部屋なんだし」
「あ~も~。よくもまぁ、レディを前にそんなこと言えたものよね。あなたはレディに対する立ち居振舞いがなってないのよ。だから彼女だってできない」
「そんなことは関係ないだろ。そういうお前だって主人に対する態度がなってないんだよ」多少苛々して言ってしまった。そしてかえって来た言葉は…
「ふふふっ、相変わらず馬鹿ねぇ。耕介?あなた、いつから私の主人になったつもり?よく考えてみなさい。私はずっとこの家であなたの帰りを待っている。あなたは私のために働いて、美味しい水を買って帰る。そして私はそれを飲む。そして私は何もしない。ただ毎日楽しくおしゃべりをして暮らすだけ。そこにある主従関係には耕介が主人である道理は見当たらないわ。容姿を含めてどっからどう見てもちゅらが主人と見るのが妥当じゃないかしら」
「くっ。主人の判断に容姿は関係ないだろ。そしてなぜ俺がちゅらの使用人のような立場にならなきゃいけないんだよ」
「いいわよ。私は別に、あなたが嫌なら枯れるだけの話だから。あぁ人間って恐ろしいわ。自分の身勝手で買って来ておいて自分の思い通りにならないとすぐに捨ててしまうのね。あぁ恐ろしや恐ろしや。私はこうやって一生懸命咲いているのに…ぐすっ…」
すぐに忘れてしまう、言葉ではこの花には敵わないことを…そして、返り討ちに合うことは分かりきっているのに素直にちゅらの術中にはまってしまう。
「ところで本当に俺、オナラなんてしてないぞ」
「あっそ、別にいんじゃない。臭わない?って聞いただけよ。本当に臭っていたかは問題じゃないわ。耕介が私と遊ぶか遊ばないかという問題だけだから」
「お前、やっぱりそうか。それならそうといえばいいじゃないか?」
「何を言っているのかしらこの人は…。それではわたしがあなたにかまって欲しくて媚びているみたいじゃない。それは余りにも面白くないわ。そんなんじゃ読者も納得しないわよ?」
「なんだ?とうとうおかしくなったか?読者ってなんだ?」
「ふふん。あなたが気にすることではないわ。この馬鹿者。今のところはスーッとスルーするところでしょ。あ~あ今ので完全にシラケたわね。どうやってこの雰囲気を挽回するつもり?」
「挽回するも何もはじめに言ったのはちゅらじゃないか?」
「小さい男ね。ふっ。センスを磨いて出直しなさい」
「っていうかここは俺の家だろ。」
「いいえ、私の家よ」
つづく