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 だが、雅也は俺の能力を褒め称えてくれた。

「お前が言ってくれたから俺はこの程度の怪我で済んだんだ。やっぱりすげぇよ。もっと人の役に立てるべきだと思うぜ」

「でも……俺が余計なことを言ったばかりに俺が見た未来よりもっと酷いことになったらどうするんだ?」

「別にそうなったってお前のせいじゃないよ。結果なんて偶然が積み重なればいくらでも変わるもんだ。お前が見たものは未来の可能性の一つなんだよ。何が起こったってお前のせいにはならないさ。試してみようぜ。その能力に未来を良くする力があるのかどうか」

 雅也はそう言って笑った。その笑顔が俺に自信をくれた。

 それから俺たちは学校や家で手当たり次第に能力を試した。誰にも過去や未来が見えることは教えなかった。

 母親に言ってみたけど信じて貰えなかったし、女子には相手にもされなかったからだ。

「わかってるよ。だから占って貰ってるんでしょう」

 そう言われてしまえば確かにそうだ。俺は今までもずっと未来が見えるという前提で占いをしてきたのだった。

 しかし、これまでとは勝手が違う。俺にとってこの能力は相手がこそこそ隠れて書いている日記を無断で読んでいるようなものだ。

 だからこそ先に伝えて、嫌なら拒否する権利を与えるために改めて告白したのだが、彼女たちにとっては以前から続いている『ごっこ遊び』の延長に聞こえたのだろう。

「言うべきことは言ったんだからいいだろ。構うなよ」

 雅也は俺が伝える言葉でしか俺の見ているものを知らないから気軽にそう言ってくれるが、感情や、本人でさえ鮮明に覚えていないであろう記憶をたった今体験したかのように味わえるこの能力はあまり気分がいいものではなかった。

「じゃあ止めるのか?」

 そう言われてしまうと言葉を濁すしかない。思いやりやモラルをどんなに説いてみても結局、好奇心には勝てないのだ。

 俺は心に誘われるままに相手の手を握り、深く呼吸をする。

 雅也との特訓で取り込む情報のコントロールが出来るようになった俺に死角はない。欲しい情報の全てが手に取るようにわかる。

 見えてきた未来の中から適当に、近いうちに起こりそうなことを選び出して伝える。具体的なことはなるべく言わずに、いいことと悪いことをバランスよく伝えるようにしていた。

 例えば、今占ってる子が、最近女子の間で流行っているキャラのストラップをなくして半泣きになりながら探している姿が見えたとする。

 それを知った彼女の兄が人からの貰い物だと言って新しいストラップをくれる。

 それを彼女はなくしたストラップより気に入って、友達に自慢して歩くのだ。

 実際に見えた未来はこんな感じなのだが、それを相手に伝えるときはありのまま伝えるようなことはしない。

 この場合は

「近い未来、何か大切にしているものを失うことになるでしょう。しかし、それは今よりもっと大切なものを手に入れるきっかけにすぎません。

身近な人に親切にしなさい。そうすればよりよい未来があなたをまっていますよ」

 と、まぁ、こんな感じ。

 我ながら意味がわからないと思うが、わからないからこそいいのだ。

 だってもし俺が今ここで

「ストラップをなくすけどお兄さんが新しいのをくれるよ」

 なんて言ってしまったら、彼女はなくしたストラップを一生懸命探さなくなってしまうだろう。

 あれは彼女が普段からとても大切にしているのを知っていて、必死に探している姿を見たからこそお兄さんがプレゼントしてくれるんだ。

 一つでもズレたら未来が変わって、俺の占いが当たらなくなってしまう。

 さて、そこまで伝えてから俺は彼女の未来の中で変更可能な未来を選ぶ。なるべく他人に迷惑がかからず、周囲への影響が少ない未来がいい。

「どうだった?」

「来週、移動教室を忘れて遅刻するみたいだ。先生に怒られているところが見えた」

「それなら授業の前に声をかければ大丈夫だな」

 雅也とそんな相談をして、未来が訪れるのを待つ。


 彼女はその日、委員の当番を任されて、一人で図書室にいた。来客はなく、暇なため、彼女は図書室に置かれている漫画を読みながら過ごしていた。

 俺と雅也はそこへ行き、いつもの通り二人で話をする。やや大きめの声で。

「次の授業ってなんだったっけ?」

「あー、国語? いや、社会だったか?」

「覚えてないのかよ。なー、何だったか覚えてるか?」

 彼女に何食わぬ顔をして聞くと、彼女は少し考えた後、はっとした表情をした。

「次は道徳よ。そういえば今日は移動教室だったわよね。あぶなーい……忘れてた」

「視聴覚室だっけ?」

「そうそう。思い出させてくれてよかった。ありがと」

 これで実験完了だ。このタイミングで思い出した移動教室を忘れる奴はいないだろう。俺は雅也が見栄を張って読めもしない難しい本を借りるのを待って図書室を出た。

 だが、彼女は時間通りに視聴覚室には現れなかった。

 先生は遅刻を叱ろうとしたが、小さな声で理由を話した彼女に困った顔をして首を傾げると

「これからは気を付けろよ」

 とだけ言って席につかせた。

 安堵したようにため息をついた彼女に俺は聞いた。

「何で遅れたんだよ?」

「図書室の鍵をかけ忘れたの。閉めに戻ってたら遅れちゃった」

 可愛らしい照れ笑いでそう言った彼女に思わず顔がにやけた。

 俺と雅也は顔を見合わせて頷いた。

 どうやら未来はある程度まで変更可能だが、全ての事象を変更することまではできないらしい。

 雅也の場合、事故に遭って怪我をする事実は変えられなかった。彼女の場合は遅刻する事実は変えられなかった。

 他にもクラスメイトを利用して実験を繰り返したが、やはり結果は同じだった。未来は必ず同じ形でしかやってこないのだ。

「これが噂に聞く、運命ってやつか……」

 大真面目な顔をして雅也がしみじみと呟いた。

「そう考えるとさ、俺たちの関係ってすごいよな」

「そうか? どう回避してもいずれ出会ったってことだろ?」

「そうだけどさ、他にも出会う人間はいただろ。クラスメイトも、保育園のときも、いろんな人に出会った。そいつらと知り合うことだって決まったことだったのに、その中で俺にはお前だけが親友になるって決まってたんだぜ。これぞ運命的な出会いってやつだろ?」

「お前……前向きだな……」

 俺は感動半分、からかい半分という気持ちでそう言った。

 出会うことが逆らえない運命で、親友になることが避けられないことだったのは嬉しいが、未来は幸せばかりじゃない。

 この先の未来で別れが決まっていれば、俺たちがどんな努力をしたところで別れは訪れるということなのだ。

 とりあえず、それが今日とか、明日とか、一年後とかいう近い未来の話でないことだけは約束できる。

「お前はとことん後ろ向きだな! でも、大丈夫だよ。未来は全く変えられない訳じゃないって、お前が証明したんだ。お互いに嫌い合って別れる結果だけは何とかして回避すればいいんだよ。そうすれば、俺たちは離れ離れになるだけで、ずっと親友でいられるだろ」

「まあ、な」

「それに見えてもいない未来を心配する必要はないぞ。もしかしたら俺たちの努力次第では別れる瞬間が死ぬとき、ってこともあるかもしれないだろ」

「そうだよな……」

 俺は頷いた。

 雅也はまるで俺の不安を全て吸い取る掃除機みたいな奴だ。そう言うと雅也は笑った。

「それなら、俺にとってお前は風呂みたいな奴だよ」

「風呂?」

「ああ。入るまでは面倒なんだけど、入ったら楽しくて出たくなくなるんだよ」

「面倒なのかよ……」

 俺が呟くと雅也はイタズラが成功したときと同じ笑顔を見せた。

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