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美少女くん。  作者: ミスト
第一章 美少女と仲良くなろう
9/12

オレは決意した

 今回は少し甘め……と言っていいのでしょうか……?

 睨み合うオレと飛鳥舞奈。というよりガンつけ合うオレと飛鳥舞奈。どちらも一歩も譲らない厳しい戦いだ。

 と、背の高い女子が言い聞かせるように優しく言った。

「だから舞奈、やめなさい。こんな状況を忍に見られたら嫌でしょ?」

「う、それ、は……。でも、栞先輩……!」

 このお姉様系美人が栞といういかにも文学少女らしい名前だということと、飛鳥舞奈は武者小路に今の状況を見られたくないということがわかった。恐らく武者小路とオレがここで逢い引き(っぽいもの)をしてると知っているのは、武者小路には秘密なんだろう。おまけに飛鳥舞奈はオレを(複数の意味で)落とそうとしたんだからな。それを憧れの武者小路に知られてはまずいってわけだ。

 つまり、これはチャンス!

「栞先輩の言う通りだぜ、飛鳥舞奈さん。オレはてめぇに命令される筋合いはねーし、言うことをきく義理もねぇ。今日は大人しく引き下がれよ、そしたら武者小路にはこのことを黙っててやる」

 オレの言葉に飛鳥舞奈はごくり、と唾を飲み込んだ。馴れ馴れしく栞先輩、と呼んだことにも突っ込んでこないくらい焦っているようだ。ふふ、どうやらオレが優勢らしい。もちろん嫌われたくないので金髪美少女を困らせたくはないが、だがここであっさり引き下がっても男が廃る。と思う。オレは勝利を確信しにたにたと気味の悪い笑みを浮かべた。

 その直後、

「待たせて済まない晃範くん! 償いとして、ボクが来ないかもしれないという不安と憂慮で傷ついた君の心を全身全霊で癒やしたい! だから今すぐ結婚しようっ!」

 と薄ら寒いとしか言いようのない王子発言が階段下から響いた。

 さすがだぜ武者小路、今日も躊躇うことなく空気を読まない!

 武者小路に対向意識を燃やしたオレは、襲撃してきた刺客(=飛鳥舞奈と栞先輩)に向かって「ここはオレが食い止めるから、武者小路がくる前に逃げろ! ふん、勘違いすんなよ。強い好敵手が死んじゃつまんねーだけだ…!」的なドヤ顔を見せつけようと2人を振り返った。武者小路にだけカッコつけられちゃ悔しいからな。オレだってちゃんとカッコつけたいんだよ!

 オレは眼鏡をキラリと光らせ鋭く叫んだ。

「ここはオレが食い止めるから、武者小路がくる前に……何だとぉおおおッ!?」

 しかしあら不思議、カッコつけ発言はみっともない絶叫へと変身してしまった。

 だって信じられるか? 金髪美少女と文学美少女のJKが、花も恥じらう十代の乙女2人が、二階以上の高さから颯爽と飛び降りたんだぞ?

 閃くスカート、なびく長髪、凛と済ました表情。飛鳥舞奈と栞先輩は華麗に着地すると、呆然通り越して目を剥いてるオレを見上げ、2人揃って人差し指を唇の前に立てた。「内緒にしてね、晃範くん(はぁと)」のサインだとオレは受け取った。そしてオレがポカーンとした間抜け面のまま頷いたのを確認すると、2人は信じられない速さで優雅に走り去った。

 微かな砂埃を残して。

 そして、オレのところに辿り着いた何も気づいてないであろう武者小路が、閻魔様もメロメロになる……かもしれない悩殺スマイルをオレに向ける。

「やあ、晃範くん! 何を叫んでたんだい? まさか、ボクのプロポーズへの返事?」

 わくわくした顔で子犬のようにはしゃぐ武者小路には悪いが、今のオレは武者小路に構っている余裕はなかった。自分の目……いや、あの2人の身体能力が信じられない。そもそも信じられない速さで走っていったのに、挙動はあくまで優雅だったのが一番信じられない。ましてや、飛鳥舞奈ならまだしも栞先輩まで……!

 オレはやや青ざめた顔で呟いた。

「いやぁ、女子高生の脚力舐めてたぜ…‥。あれなら人の首ぐらい簡単にもげちまうよな、ははは……」

 オレの言葉に武者小路は不思議そうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔になりこう言った。

「よく話がわからないけど、とりあえず結婚してくれるったこと?」

「なんでも結婚話に持ち込むなよ……」

 オレは疲れた。とにかくすげー疲れた。




 去り際の2人の仕草にきゅんとしちまったからというわけではないが、オレは約束通り飛鳥舞奈のやらかしたオレへの肉体的及び精神的暴力行為については黙っていた。それにもし説明するんだとしても、「金髪美少女の太ももに挟まれて死にかけました」という、男子にとっては羨ま……屈辱的な解説しかできない。それはなんだかオレの男のプライドが許さない。

 一方の武者小路は、一年生書記として採用されることがほぼ確実に決定したらしい。選挙もせずになんで?とも思ったが、聞くところによると武者小路は今日行われた臨時全校集会で、熱狂的なファンに狂信的に推薦されあれよあれよという間に祭り上げられ会場中に大絶賛され、ほぼ満場一致で書記と認められたとのこと。

 どんなカリスマ性? つーか生徒会いい加減すぎない? だが、その話にオレは少し納得できた。しばらく付き合ってみてわかったのだが、武者小路はほんとにいい奴だからな。誰にでも気さくでフレンドリーだし、びっくりするくらい親切で気が利くし、かわいらしさと凛々しさが同居するかなりの美少女だし、「王子」と呼ばれるのが当然な気がしてくる。……たまに残念だけどな。

 とにかくわかるのは、オレとはあまりに不釣り合いだってこと。そしてオレが好きだなんてよほどの変わり者だってこと。武者小路の噂を聞く限りじゃ女子にはもちろん男子にもモテるらしいし、最近じゃ武者小路のファンクラブみたいなものが出来つつあるらしい。

 そんな完全無欠なカリスマ王子と、底辺をうろつくありんこみたいなオレ。

 まったく、神様とやらは何を考えて武者小路とオレを出逢わせたのかね。

「……晃範くん?」

 話を聞きながら溜め息をついたオレを不審に思ったのか、武者小路が少し困惑したような声で呼びかけてきた。いかんいかん、つまらなそうと誤解されたかも。オレは慌てて答えた。

「いや、話がつまんねーとかじゃねーよ! ただ、やっぱお前すげえなぁとか思って。だってほら、オレはこんな人嫌いでダチもろくにいねーのに、お前は全学年の奴らから好かれてて、オレとは全然違うなって感心してさ」

 オレは必死で弁解したが、武者小路の表情はますます暗くなった。あれ、どーゆうこと?

 困り果てたオレに、武者小路が寂しげな目を向けた。

「ごめん、晃範くん……。キミの気持ちも考えずに自分のことばっかり話して……。もしかして、ボクと一緒にいるのが苦痛? ボクが纏わりつくの、迷惑なのかな? だってボク、自分の望みばかりキミに押しつけてるし、全然空気読めないし…」

 空気読めない自覚はあるのか。オレは微妙に驚きつつも、しょぼくれてしまった武者小路の肩を軽く叩いた。不思議と素直な気持ちになり、武者小路に話しかける。こっぱずかしいので目は合わせられなかったが。

「馬鹿が、ネガティブに考えてんじゃねーよ。たまーに『おい…』ってなるけど、お前と話すのが嫌とかじゃねーし。たまーに『わお…』ってなるけど、纏わりつかれて成績落ちるわけじゃねーし。要するに、その、アレだ!」

 声を大きくしたオレを武者小路がきょとんとした顔で見上げる。

「お前とオレは“ダチ”。……ってことでいーんじゃね?」

 ややぶっきらぼうにそう言ったオレの顔を、武者小路がガン見していた。

 が、

「ありがとう晃範くん! ボクはキミの友だちなんだね! 友だちでいていいんだねっ!!」

 と叫ぶやいなやオレの首もとに抱きついてきた。まさしく『わーお!!』な状態だが、オレは素直に嬉しかった。だって武者小路元気になったみたいだし。人嫌いのオレにダチができたわけだし。胸の感触がどうだとかとか、断じて考えてないぞ? 

 武者小路がかわいらしい声でオレに言った。

「キミがボクを認めてくれるなんてほんとに嬉しいよ。今すぐにでも式を挙げたいくらいに!」

「だからなんでも結婚話に……ああめんどくせ、もういいわ」

 武者小路はふふ、と蠱惑的に微笑み、呆れかえったオレの耳元で

「まずは友だちから始めようね。婚約者フィアンセになるのはそれからだよ」

 と囁きやがった。

 畜生、美少女め。オレの心臓を破裂させたいようだな! 

「気がはえーよ」

 そう言いつつもオレは必死で鼻血をこらえていた。武者小路の反則的なかわいさに脳震盪を起こしそうだ。だがそれに耐え、オレはあることに思いを巡らせる──。

 絶対生徒会に入ろう。絶対選挙で勝ち残ろう。

 今までは武者小路に言われて仕方なくやってきたけど、これからは違うぜ。

 武者小路に相応しい男になるためにも、あの金髪美少女に三角締めされない立派な男になるためにも、そう、オレは生まれ変わるんだ!




 ……まあ、今思うと「若いな……(遠い眼)」って感じだけど。








 なにはともあれ、これがオレが生徒会に入ることを心から決意した瞬間である。





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