生徒会室で紅茶を飲んだ
……おいおい、まじかよ。
ついに来ちゃったよ。
つーか、
「ここ、ほんとに生徒会室ですよね?」
「そうだ」
即答する雨宮先輩。その雨宮先輩の向こうに高校生が使っていいのか?ってくらい上質なソファーに座らされてるオレは、あからさまに小さくなってた。多分5センチくらい縮んでた。いろんな意味で。
「やあやあやあ! 元気出して一年生くん! 年上ばかりで緊張するのもわかるけど、ここにいるのはみんないいやつだからさ! たぶん!」
たぶんいらねーよ、とか思いつつ、オレは隣からべたべたオレの眼鏡やらボタンやら上靴やらを触りまくる不躾な変態を見た。どこ触ってんだと言いたいところだが、年上に取り囲まれているこの状態では、まあ、とにかく耐えるしかないよね。なのでオレは耐えた。
その様子を見ていた雨宮先輩がめんどくさそうに言った。
「そこの馬鹿は萩野翼だ。僕と同じ二年生で、執行部広報をしている。おい馬鹿、それはやめてやれ」
萩野先輩は今オレのベルトをもぎ取ろうとしている最中だった。ひぃぃ。
「服装検査だよ!」
「下着の色を調べる検査はない」
萩野先輩の自信満々な言葉を雨宮先輩がザシュッと一刀両断すると、萩野先輩はぶーぶー言いながらもオレにべたべたするのを諦めたようだ。雨宮先輩のおかげでオレの純潔は守られたが、しかし、冷や汗が止まらない。なんなのこの人。しかもなんかイケメンだし。ぺっ。
オレは変態からの攻撃を乗り切ったついでにあたりを見回した。部屋自体はやや縦長で、ホワイトボードに向けて長机が並べておいてあるいかにも会議室って感じの部屋。雨宮先輩と萩野先輩以外にも上級生とおぼしき生徒が5、6人いて、なんか書類見たり書いたりしてる。昼休みに雨宮先輩から放課後生徒会室前に来いと言われたのでおっかなびっくり来たわけだが、オレの予想に反し室内は意外と静かだ。難しい顔で大層な会議をしているわけでもないし、男子が三人集まると始まるチャンバラをしているわけでもないし。
まあここまではいいのだが、明らかに普通と違うのは部屋の後方に接客用としか考えられないペカペカに光るワインレッドのソファーとガラス製の机がおいてあるってこと。
そして、オレは今ここで丁寧?に接待されてるわけだが。
「悪いな、張。会長や副会長は仕事で出払ってるみたいだ。いなくていい馬鹿はいるけどな」
あまり申し訳なさそうじゃない顔で雨宮先輩が教えてくれた。オレは慌てて答えた。
「いや、全然いいっスけど……。つーか、生徒会役員でもないオレがこの部屋に入っていいんスか?しかもお茶まで出してもらって」
「気にするな、そこの馬鹿が好きでしてることだ。僕はお前が生徒会について知りたいって言うから説明してやろうと思っただけだ」
雨宮先輩はそっけなくそう言うと、これまたえらい上品なカップに注がれた紅茶を優雅に少し飲んだ。おお、高校生とは思えない貫禄。これで女子だったら文句なしなんだが。
と、オレの横に座る萩野先輩がオレの顔を覗き込んだ。無邪気な笑顔でオレの顔をべたべた触りながら言う。
「生徒会に興味あるの? だったらオレが説明してあげようか?」
あんまりに嬉々として話すので断るに断りきれず、おれは「え、あー、うん、そうっスねー」と適当に同意した。まあ、馬鹿そうでスキンシップ激しすぎるけど悪い人ではなさそうだ。
萩野先輩は胸ポケットからきれいに折りたたんだ紙を出した。チャラそうな外見に反し意外と細やかな人だ。紅茶いれるのも旨い……あっ間違った、上手いし。
「ほいっ! これ見たら生徒会の役職とか委員会のこととか大体わかるから!」
そう言って手渡された紙(なぜかまるまるとしたかわいらしい手書き文字)をオレはしげしげと眺めた。
内容はこうだ。
〈生徒会執行部〉…選挙で決定するよ!
・会長(1)…三年。王だよ!
・副会長(2)…三年。会長のおとんとおかんだよ!
・書記(6)…各学年から2人。なんか書くよ!
・会計(6)…各学年から2人。なんか計算するよ!
・広報(6)…各学年から2人。なんかいつも走り回ってるよ!
〈独立委員会〉…各クラスから1人、または2人決定するよ! 委員長は三年から1人ずつだよ!
・中央委員(1)…いわゆるクラスの代表者で、生徒会のパシリだよ!
・風紀委員(2)…生徒からは嫌われ教師からは好かれるよ!
・環境委員(2)…きれいにしちゃう人だよ!
・体育委員(1)…体育祭の時しか活躍しない目立ちたがり屋さんだよ!
・文化委員(1)…文化祭のときしか以下略!
・図書委員(1)…「ピッ」てする人だよ!
・警備委員(2)…「これ以上前に出ないでください!」って言う人だよ!
……いや、もう、ね……。なんて言うかね……。
UZAIとか通り越したレベルだよね……うん……。
「ね? わかりやすいでしょ?」
「すんません、ますますわからなくなりました」
素直に正直に迷うことなくきっぱりと告白したオレを雨宮先輩がなんとなく笑いをこらえたような顔で見ていた。
その雨宮先輩が言った。
「馬鹿なんだ。許してやってくれ」