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美少女くん。  作者: ミスト
第一章 美少女と仲良くなろう
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美少女と昼飯を食った

「でもよ、生徒会に入るっつってもどうすりゃいいんだ? オレ生徒会室の場所すら知らねーぞ」

 オレの言葉に武者小路はむうんと唸ると、たこウィンナーをぶすりとフォークで突き刺した。武者小路はバラバラ殺人よろしく引きちぎられ咀嚼され細胞レベルに分解される予定の哀れなたこウィンナーを目の前で軽く振りながら難しい顔で話し出す。こら、食べ物を粗末にするのはやめなさい。

 つーかこいつって上品だけど時々子供っぽいんだよな。

「ボクもそれは考えてた。友人や先生に聞くのが手っ取り早いとは思うが……」

「言っとくがオレに友人なんていねーぞ。先公ともできるだけ関わりたくない」

「なっ! そんな寂しいことを言っては駄目だ晃範くん! ほら、ボクたちは友だちじゃないか! 君だって言ってたじゃないか!」

「あれはあの美形野郎に怪しまれないように言っただけで…」

 オレの言葉に武者小路は傷ついた顔をした。あ、やべ。人の気持ちを考えないで発言するというオレの悪い癖が出てしまったようだ。オレは慌てて言った。

「わりぃ、本気で言ったわけじゃねーよ。そ、そうだよな。一緒に昼飯食ってるんだからオレらダチだよな! ハハハ!」

 オレたちは今例の階段で昼飯中(武者小路はなぜか上品さを漂わせる貫禄のある手作り弁当で、オレはコンビニで買ってきて鞄の中で教科書に押し潰され不自然に平たくなったおにぎり)だ。武者小路がうきうきした顔で提案してきたので特にクラスに親しい奴もいないオレは承諾したのだが、承諾したあとにコレはかなり命懸けの行為だと気づいた。

 美少女と一緒にランチ? 美少女と一緒にランチだと?(大事なことなので二回言いました)

 どう考えても死亡フラグだ。なのでこうしてじめじめした陰気な体育館外階段でこそこそ飯を食ってるわけだが。

 つーか。

「泣くなよッ!!」

「うっ……だって……」

 オレは潤目になり口元を抑える武者小路にびっくり仰天。どんな対応をとればいいのか皆目見当つかず、とりあえずおろおろした。

 だっておろおろするしかねーじゃん。美少女の慰め方なんて知らねーよ!

 と、武者小路が震える声で

「ありがとう……ありがとう晃範くん……ボクらが友だちじゃないってことは……ボクらは恋人同士なんだよね……いや、婚約者フィアンセなんだよね……そうなんだよね……っ!」

「あ、それは違うと思います」

 オレは持てる力の全てを振り絞り今まで出したこともなければ出そうとも考えなかった丁寧かつ親切なイケメン好青年ボイスで優しく否定した。天使のような微笑みを浮かべる武者小路の頬を伝う涙がきらりと輝いた。

「さあ、婚約手続きをしに行こう。君は今日から武者小路晃範くんだ」

 オレは爽やかに微笑み返した。

「1人で行け」




 結局だらだらと相談しながら飯を終えたが、あまりいい案は出てこなかった。そもそもオレは極度の人嫌いなのだ。だから直接生徒会室に行って話を聞くのも面倒だし先公やクラスメートに聞き込むのもだるすぎる。とにかくオレは必要ない限り人と関わりたくないという無気力の権化なのだ。誉められたことではないが。

 オレのあまりの怠惰さに武者小路がぷんぷんとかわいらしく腹を立てた。

「もーっ! 共学校じゃないんだから、ボクらが公然といちゃつくためには君にもある程度努力してもらわないと! まったく、どうしてそこまで人と関わりたくないんだい?」

「生まれつきだよ。たぶん」

 武者小路の問いかけにオレは適当に答えた。まあ、おそらくその理由はアレだろうと思うが今は面倒くさいので考えたくない。それよりお前さん、美少女が公然といちゃつくとか言うな。なんかすごく残念な気持ちになる。

 武者小路はまたしてもむうん、と唸ると、立ち上がり階段の柵から外を眺め始めた。ここは敷地のかなり隅の方にあり周りには木が多く立っているので、外からはあまり見えないのが便利だ。オレもなんとなく武者小路のとなりから外を眺めた。

 と、なんだか見覚えのある小さな背中が目に入った。

「あ」

 武者小路もその人物に気がついたようで、小さく声を発する。そしてそっとオレの耳元に囁きかけた。

「彼に話を聞こう」

 どきぃっ。オレの心臓が口から飛び出す(ように感じた)。ふいに囁かれたその声は薫るように甘く、どことなく色っぽく、デリケートなオレの理性を粉々に崩壊させた。そして、荒れ狂う本能の嵐が粉々になった理性をちりぢりに吹き飛ばした。

 頭の中、真っ白。

 オレは叫んだ。

「眼鏡かち割るぞ!!」

 武者小路にはなんの関係もない単語である『眼鏡』。オレの人生の相棒にしてアイデンティティ『眼鏡』。清々しい青空に吸い込まれた『眼鏡』。

 完全にアウト・オブ・コントロールのオレから飛び出したのは意味不明いや意味不明どころか意味崩壊した言葉だった。

 ──なぜだ。

 なぜ眼鏡かち割るなんだ。

 なぜよりによってその言葉なんだ。

 なぜなんだ、晃範。

 しばらくの沈黙ののち、武者小路が困惑した表情を浮かべた。

「なぜだい? その眼鏡、よく似合ってるのに」

「ああ、知ってる。ありがとう」

 オレは何事もなかったかのようにいたってクールに答えた。

「またお前らか……。一体なんの騒ぎだ」

 と、背後から例のハスキーボイスが響いた。恐らくオレの物騒極まりない『眼鏡かち割る』発言に反応して様子見にきたのだろう。生徒会も難儀なものだ。オレのような奇狂いの意味崩壊発言に付き合ってくださるなんて。

「お待ちしておりましたッ!!」

 敬礼したオレに美人が不愉快そうな表情を浮かべた。オレは美人の胸元に光る名札に書かれた赤い文字から、美人の名前が“雨宮”であることを知った。

 つーか昨日もこいつの名札確認しただろ、なんで名前覚えてねーんだよお前とか思ってるそこのアナタ。人嫌いのオレは人名を覚えるのが苦手なんです。要するにバカなんです。ええ、認めてあげますとも。


 



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