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救済の塔  作者: 鈴音
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(3)

 ハルカはこの日一日だけあの尋問部屋で過ごすことになり、一日だけ何もない日ができた。しかし、翌日になれば慶司たちの部屋に移動するため、陽二はハルカの元を訪れていた。


 あの尋問部屋に陽二がやって来ると、ハルカはまだ毛布に包まりスヤスヤと眠っていた。ろくに眠りもできず尋問期間を過ごしていたのだろう、陽二はそう思いそっとしておこうとしたが、ムクッとハルカが起き上がったことで目を見張った。


「御用ですか?」


 ハルカが少し呆然とした顔で陽二に聞くと、陽二は問われた事に驚いて言葉を言えなかった。それもハルカらしかぬ言葉を言ったことも要因だった。


「……ハルカに御用があるならどうぞ」


 まだ眠そうな目でハルカが言うと、陽二は微笑んだ。寝ぼけているんだと思ったからだ。しかし、それもすぐに消されることになる。


「この部屋を出よう。慶司たちが待っている」


 陽二の声が部屋に響くと、ハルカは頭を横に振り、拒否を示した。


「ここに居る。帰りたくない」


 ハルカははっきりとした声で言うと、陽二はハルカの側に座り、包まっている毛布を掴んだ。


「ダメだ。この部屋は違う人がまた使う。ずっと居る事は出来ない。尋問されなくてよくなった人は自分の部屋に戻るんだ」


 陽二はそう言ってハルカを見つめた。事実を言っていることは確かだが、嘘でもある。ずっと居る事もできるからだ。部屋を失ったものは尋問部屋を私物化し、帰る部屋にすることもできる。しかしハルカにはここ以外に帰る部屋がある。それがある場合は、そこへ戻ることがまず初めの条件だからだ。


「……」


 ハルカが黙り込むと、陽二はハルカが包まっている毛布を剥ぎ取り、しっかりとハルカを見つめた。


「戻ろう。もう一度慶司たちに会ってくれ。心配している」


「……はい……」


 ハルカは小さな声で返事を返し、了承すると、陽二はハルカを連れて部屋を出た。尋問班の居る階からエレベーターに乗り、上を目指して動き出した。


「ハルカ、戦う決意をした。黒に染め上げてしまったことは私のミスであり、謝るべき事だ。苦しめたこと、傷つけたこと、全てを謝ろう。済まなかった」


 陽二がハルカの前に座り、ハルカを見つめて言うと、ハルカは顔をそむけた。聞きたくないとでも言うようにハルカは嫌がったのだ。


「聞いてくれる時にまた言おう。戦うと決めたのだからね」


 陽二はハルカに告げるだけ告げ、立ち上がった。その陽二をハルカは見つめ、唇をかみしめた。痛みを隠すかのように……


 陽二とハルカの乗るエレベーターが慶司たちの部屋がある階に到着すると、エレベーター前のエントランスに慶司と沙羅が待っていた。その為扉が開き、陽二とハルカがエレベーターを降りた途端、二人が駆け寄ってきた。


「陽二」


 慶司の呼び声が聞こえ、陽二は駆け寄ってくる二人を見つめて手を出した。


「止まれ」


 陽二が手を突出し、二人に止まれと命令したため、慶司と沙羅は足を止めた。その二人の表情はとても不安そうな表情だったため、陽二は背後に隠れたハルカを気にしながらも二人を見た。


「部屋に先に戻っててくれ。説得してから連れて行く」


 陽二がそう言うと、慶司は深いため息をつき沙羅の背中を叩いた。


「戻るぞ」


「ちょ……慶!」


 慶司は背を向けて歩き出し、沙羅が驚いた顔で慶司を見つめて後を追った。それを陽二は辛そうな表情で見送ると、後ろに隠れているハルカを振り返った。しかし、そこにはハルカが居らず、柱の影に身を隠していることに気づいたため、陽二は柱の側へ向かった。


「ハルカ、かくれんぼなら後にしよう。今は慶司たちの部屋に行くことが先だ」


 柱の影に座るハルカの前に立ち、陽二が言うと、ハルカは頭を横に振った。


「駄々をこねないでくれ。会いたがっていたのはさっきのでわかっただろう」


 陽二が駆け寄ってきた慶司たちを言ったため、ハルカは顔を上げた。


「うん」


「それなら部屋に行ってちゃんと会ってやってほしい。みんなにだ」


「……はい……」


 ハルカが立ち上がり、陽二とともに部屋に向かった。慶司たちの部屋の扉を開け、中に入ると、入口を開けて入ってくるハルカを今か今かと待っていた慶司たちの顔が見えた。


「慶司、戻らせた」


 陽二がそう言うと、ハルカを前に出し、慶司を見つめると、慶司はハルカを見つめてすぐに陽二を見た。


「陽二」


「後だ。今は何も言わず、受け入れてあげてくれ。送り届けたんだから私は戻るぞ」


 陽二は何の説明もしないまま部屋を後にしたため、慶司は不安そうな表情を見せた。尋問部屋へは入れなかったが、ハルカがおかしくなっているんじゃないかという噂だけは聞こえて来ていたからだ。


「お帰りハルカちゃん」


 唯香がハルカの前に立って言うと、ハルカは俯き、うなずいた。


「みんな心配したの。でもよかった。こっち来て」


 唯香に引っ張られてハルカはみんなの中に入ったが、様子だけは少し違う風に見えた。怯えているような、不安そうな雰囲気がうかがえた。それに気づけたのは、慶司と仁の二人だけだった。その為二人は視線が合い、肩をすくめた。


 ハルカはみんなに囲まれ、帰ってきた事に本当にほっとした表情を見せるみんなを恐々見つめていた。


「お風呂入らせてもらってた? あの人たちそう言う事まったく関心ないから」


 唯香がハルカの姿を見て言うと、ハルカは唯香を見つめてうなずいた。


「うん。入らせてもらった」


「良かった。じゃ遊ぼう」


 唯香そう言ってハルカを混ぜてソファ近くに座り、龍彦、龍哉、友香を混ぜてトランプで遊び始めた。ワイワイと遊ぶ姿だけを見ればハルカが戻って来たと思えた。しかし……


「慶」


 沙羅が慶司の声をかけると、慶司は沙羅を見つめた。


「なんだよ」


「……ハルカよね?」


 沙羅が唯香たちと遊ぶハルカを見て聞くと、慶司は微笑んだ。


「ハルカだ」


「……そう思えないわ。あんなに余所余所しくなんてなかった」


 沙羅が不安そうな顔で言うと、慶司は嬉しそうに微笑み、ハルカを見つめた。


「理由なんてこれから先いつでも聞ける。変なのはそれだけじゃねぇからな」


「何が変なの」


 沙羅がそう声をかけると、仁が沙羅を見つめて口を開いた。


「怖がりになったって思うよ。無意味に怯えてるんだと思う」


「仁……」


 沙羅が驚いた声で仁を見つめると、仁はハルカを見つめた。


「俺たちに怯えてるんだと思う。表情一つ一つを観察してる」


「仁、後からいくらでも聞く時間がある。気づいたことは溜めこんどけ。聞ける時になれば聞く」


 慶司がそう言うと、仁はうなずきハルカを見つめた。沙羅も慶司も様子を見つめていた。


ハルカが慶司たちの部屋に戻って来た日はハルカも周りのみんながどうするのかを見ることでいっぱいいっぱいで何かを仕出かそうとは思えなかった。しかし夜になれば少し変化があった。夕飯を食べ終え、片づけをしようと沙羅が席を立とうとした時、ハルカが手際よくテーブルの上にある皿やコップを重ね、運び始めた。


「ハルカ、今日の片付けは私よ」


 沙羅がハルカに声を掛け、足を止めさせると、ハルカは沙羅を見つめて微笑んだ。


「そこまでお手伝い」


 キッチンを見てハルカが言うと、沙羅は微笑んだ。


「仕方ない。そこまでよ」


「うん」


 ハルカはコップや皿を流しに置くと、沙羅が残りを持ってきたことに気づいてうなずいた。


「お終い」


「ありがとう。じゃリビングでくつろいで来て」


「はぁい」


 ハルカは元気よく返事を返してキッチンから出て行ったが、ダイニングのテーブルを拭いている姿を沙羅は物陰から確認していた。その為沙羅はそれも変になったことだと気づき、そっとしておくことにした。理由はあとでだからだ。


 ハルカはテーブルの拭き掃除を終えると、フキンをテーブルの上に置き、リビングへ戻るためダイニングとリビングとの間にある壁まで向かった。そこからみんなが各々好きなようにくつろいでいる姿が見えた。それを見てハルカは少し微笑んだ。しかし少し前までのハルカのように本当に喜ぶことはできなかった。


「ハルカ、おいで」


 慶司がハルカを手招きして呼ぶと、ハルカはびくっと強張り、慶司を見つめた。慶司は動かないハルカをじっと見つめ、手招きした。



「いつまで突っ立ってる気だ。こっちに来い」


 慶司がそう言うと、ハルカは慶司の側に歩き、絨毯の上に座った。その為慶司はハルカを見つめた。


「ソファが嫌いになったのか」


「……今はいいの」


 ハルカが俯いて言うと、慶司はため息をついた。


「まぁいい。絨毯の上に座ってくれるだけましになったって事だな」


「うん……」


「逃げなかったのにな。逃げるようになったってどういう事だよ」


 慶司がボソッとつぶやいた言葉は、ハルカの耳には届いていた。その為ハルカは慶司を驚いた顔で見つめた。慶司はハルカが顔を上げたことと驚いている事を確認してテレビを見つめた。その反応さえ見れればよかった。ハルカがどうするのかを確認できれば良かっただけだった。ハルカはその後みんなとテレビを見て、時間が過ぎるのを待っていた。


 お風呂の時間になれば、ハルカはみんなが入るのを待つことにしていた。


「ハルカ、先に入ろう」


 唯香がハルカを誘って入ろうとしたが、ハルカが頭を横に振った。


「最後がいい」


「もうっ。じゃ今日は先に入るよ」


「うん」


 唯香がいじけたようにお風呂場へと向かうと、友香が後を追い、二人で入りに向かった。その後もハルカを心配して声を掛けてくれたが、ハルカは一人がいいと言って聞かなかった。


「ハルカ、沙羅と入れ。一人じゃ危ないからな」


 慶司がハルカにそう言うと、ハルカは慶司を見て頭を横に振った。


「ハルカ一人がいい」


「ダメだ」


「一人がいいの!」


 喚くようにハルカが言うと、慶司はため息をついた。


「まだ駄目だ。今のハルカに一人で入浴させるほど俺は馬鹿になった覚えなねぇんだ」


 慶司がそう言うと、ハルカは慶司を見つめて睨んだ顔になっていた。それを慶司は見つめて苦笑いを浮かべた。


「お前がおかしくなってないと分かったら一人で入って良いって言うさ。まだ俺はハルカが元通りになったとは思えねぇんだ」


 慶司がそう言うと、ハルカは俯き、ぐっと手を握りしめた。


 その後沙羅と無理矢理と言っていいほどの勢いでお風呂に入り、就寝時間となった。みんなで大きなベッドに横になり、眠る。蹴とばされたり殴られたり、布団を取られたり、いろいろとみんなでしあいならが眠るここは楽しかった。でもハルカは眠って少ししたら目を覚まし、自分に用意されている毛布をもって部屋を出た。そして静かで真っ暗なリビングにあるソファを見て微笑んだ。絨毯の上に座ると、ソファに寄りかかるようにしてハルカは眠った。安心したかのようにスヤスヤと眠りだした。誰一人、朝になるまでハルカがそこで眠っているなどとは思わなかった。


 ハルカがソファ近くで眠っているのを食事当番の慶司が見つけ、ため息をついた。


「本当に初めの頃に戻ってんのか。まぁ……悪化はしてるな」


 呟くように言って、慶司はハルカを抱きかかえ、ソファに寝かせた。スヤスヤと眠っている事にはほっとしたが、いつ部屋から出たのかが不思議だった。慶司はそのことは後だと思い、食事の準備をするためキッチンへ向かった。それから少しして唯香と友香が起きてきたらしく、ダイニングへやってくると、キッチンに居る慶司を見つめた。


「慶さん、ハルカちゃんをソファで寝かせたの?」


 眠そうな声で唯香が言うと、慶司がキッチンから顔を出した。


「そんなバカがあるか。知らない間に移動したらしい。俺も朝気づいたんだ」


「一緒に寝たくないのかな……」


 唯香が心配そうに言うと、友香がため息をついた。


「龍哉たちのいびきがうるさいんじゃない? 静かなところで寝てただろうし」


「友香、少しの間だ。長い間ここに居たのならそれはないだろ」


「そっか。じゃどうしたんだろう」


 友香が考え込むようにうーんと唸ると、慶司は二人を見て苦笑いを浮かべた。


「理由なら後から聞ける。今はハルカと遊ぶことを考えてやれ」


 慶司はそう言うと、朝食をテーブルに並べ始めた。その頃になれば続々とダイニングへみんなが来た。しかしハルカの姿がなかった。それに、慶司は来る人来る人にハルカをソファで寝かせたのかと聞かれなければならなかった。その為慶司はハルカを起こしにリビングへ行くと、ハルカはソファの上でしばし呆然としていた。しかし起きたことを確認した為慶司は微笑んだ。


「起きたか? 朝飯だ」


 慶司の声を聞いてハルカは驚いたようにビクッと強張り、声のした方を向いた。


「ご飯?」


 ハルカが不思議そうな声を出して聞いたため、慶司はうなずいた。


「食べに来い。その前に着替えだ。服はいつものところだ」


 慶司がそう言うとハルカは俯き動こうとしなかった。それを見て慶司は諦めたような顔を見せた。


「そのままで居たいなら居ればいい。でも寝る時の服が無くなるぞ。それでもいいならそのまま食べに来い」


「……着替える……」


 小さな声でハルカは言うと、隣の部屋へ向かった。そんなハルカを慶司は心配そうに見送った。


 ハルカも混ぜての朝食を食べ終えると、やはりハルカは片づけを手伝った。沙羅からハルカのことを聞いていたため、慶司は仕方ないと思って少しだけ手伝ってもらい、リビングへと行かせた。


 ハルカがリビングへ戻ると、そこでは友香と龍彦が睨み合っていた。


「龍さん、正直に言って。私のゲーム盗ったんでしょ」


「どうして同じ部屋に居ながら盗人みたいに言われなきゃならないんだよ」


 怒った声で聞いた友香に、反撃するかのような不機嫌そうな声で龍彦が言うと、友香は龍彦を余計に睨んだ。


「いつもの場所にないの。昨日片づけしたのは龍さん。それに、前も私のゲームをしたいから借りたって言って盗ったでしょ」


「あぁ、あれはマジでしたかったからだよ。でもどうして今回の無いってだけで僕が犯人なわけ? 証拠はあるのかよ」


「片づけしたのは龍さんよ。どこに仕舞ったの」


 友香が足を踏み鳴らして聞くと、龍彦はため息をついた。


「友香の棚。そこ無いなら僕が知るかよ。ちゃんとそこに置いた」


「無いの。私はゲームしてないし、使ってない。他に誰が居るのよ」


 友香がわめくように言うと、龍彦は周りを見た。周りで呆れたという表情で見つめているみんなを見て、ため息をついた。


「みんなも僕を疑ってるわけ?」


「前回の件があるからね」


 沙羅がそう言うと、龍彦はため息をつき、手を挙げた。


「今回はマジで違うよ。前回こってり沙羅にも慶にも怒られて、反省した。借りる時は必ず声を掛ける。嫌と言われたら素直に引き下がる。それを守ろうって言われて、僕は守ってる。信じてほしいんだけどな」

 

 龍彦がそう言うと、龍哉が微笑んだ。


「悪いんだけど今回のことは龍に責任はないよ。龍はちゃんと友香の棚にゲームを置いてる。それに、今朝までちゃんとそこにあった」


「龍哉、それ本当なの?」


 友香が驚いた声で聞くと、龍哉はうなずいた。」


「一応部屋の荷物とかを確認することは怠らない。盗まれたものがないかを確認してるしね。その時にはちゃんと置いてあった。その後誰かが移動させてる」


 龍哉がそう言うと、唯香が隣の部屋から出てきて、沙羅の前に立つと、腰に手を当てて怒っていた。その為友香と龍彦以外にも何か起こったらしい。


「沙羅、私の服、どうして沙羅のクローゼットにあるの」


 沙羅の前に一着の服を出して言うと、沙羅は目を細めた。


「意味が分からない。どういう意味」


「この服私の。それなのに沙羅のクローゼットに入ってたの。自分のじゃない服があるときは聞こうって言ってくれたのに」


「唯香、私が着替えをするまでその服はクローゼットになかったわ」


「じゃどうして沙羅のクローゼットの中にあったの」


 唯香が怒鳴るように言うと、沙羅は頭を横に振った。


「わからないのよ。でも私が確認したときはなかったわ。着替える時に必ず確認することにしてるもの。あなたが怒りやすいことを知っているから」


 沙羅がそう言うと、唯香はむっとした顔を見せたが、沙羅がいつも気を使ってくれていることを知っているため、毎朝確認しているんじゃないかということを思い、ため息をついた。


「わかった。じゃ今回はごめんってことにして」


「ええ。私も気が付かなかったのかもしれないわ」


 唯香と沙羅は互いを思って身を引き、友香と龍彦はゲームを探して回っていた。その様子をハルカが見つめ微笑んだ。


「おいおい、朝っぱらから喧嘩か」


 慶司がリビングへ入ってくると、喧嘩している四人を見て言った。


「慶、なんかいろいろ変なことが起こってるんだ」


 龍哉がそう言うと、慶司はハルカを見つめた。


「ハルカ、何か知ってるか?」


 慶司がハルカに聞くと、ハルカは面白そうに微笑み、慶司を見た。


「うん」


 ハルカがうなずくと、全員の目がハルカを見つめた。


「じゃ何を知ってる」


「友香のゲームはそこの棚にあるよ。唯香の服を入れ替えたのハルカだもん」


 ハルカがそう言うと、全員が目を見張り、慶司はハルカの前に立つと、ハルカを見つめた。


「ハルカ、いたずらをするならもうちょっとましなものをしろ。みんな困ることをしちゃダメだって言っただろ」


 慶司がそう言うと、ハルカは不思議そうな顔を見せた。


「ハルカがしたかったんだもん。みんなは知らない」


 ハルカがそう言うと、慶司の側から走り去るように離れると、扉近くに向かい、振り向いた。


「子供区行きたい」


「じゃ行って来い」


「やった。行ってきまぁす」


 慶司が許可を出すと、ハルカは嬉しそうに扉を飛び出していき、姿が見えなくなった。その為全員の目が慶司を見つめた。


「慶……」


「俺の頭に今嫌な言葉しかうかばねぇってどうだよ……」


 慶司がうなだれて呟くと、全員が言葉を言えなかった。



 ハルカが子供区へ向かう途中、柱の影で座り込んで膝を抱えていた。


「……悪い子だって怒ってよ……。ハルカなんて知らないって言ってほしいのに。みんなに要らないって言ってほしいのに」


 ハルカは少しの間そこに座り、悲しみに暮れていたが、すぐに立ち上がり、子供区へと向かった。


 子供区へ着くと、ハルカは行ったことのある部屋へ向かい、そこで子供たちを遊ぶことにした。しかしハルカはそこでも問題を起こした。


「ハルカちゃん、僕たちもやりたい。一人でしないでみんなでしよう」


「ハルカがしてるの。後で」


「みんなもしたいんだよ。だから見えるようにしようよ」


 ゲームを独り占めしてみんなが見えないようにしてハルカ一人で楽しむことがあった。それにほかの子たちを突き飛ばしたりしてハルカがいじめっ子みたいになっていた。それでも子供ならありえなくもない光景だった。しかし、今のハルカには、昔のハルカが持っていたものを欠落させていた。謝るということをハルカはしなくなっていた。その為周りの子供たちもハルカが変になってしまったと感じ、遠巻きになった。それを見て、ハルカはほっとした顔を見せた。


『これでみんな大丈夫……』


 ハルカがほっとした顔を見せると、姫子が首を傾げた。しかし子供たちはハルカのそんな些細な変化には気づいていなかった。その為姫子がハルカの肩を叩いた。


「ハルカちゃん」


「何?」


 ハルカが姫子を振り向くと、姫子はハルカの手を握った。


「どうしてほっとした顔を見せたの。みんなハルカちゃんを怖がってるのよ」


「そうだよ? 知ってる」


「どうしてほっとしたの。一人になっちゃうのに」


 姫子が心配そうな声で言うと、ハルカは嬉しそうに微笑んだ。


「みんな怪我しないでしょ?」


「それはハルカちゃんが突き飛ばしたりしなかったら怪我しないわ。ごめんなさいって言って、みんなと遊びましょう」


「要らない。ハルカ一人でもいいもん」


 ハルカがきっぱりとそう言うと、姫子はハルカを驚いた顔で見つめた。


「お部屋戻る」


「ハルカちゃん……」


 姫子がハルカの手を取り、引き留めるように足を止めさせた。


「ハルカちゃん、何があったの、とは聞かないわ。でもどうしたの。楽しく遊んでいてたのに、急に一人がいいなんて……」


「……どうせ一人になるんだもん。友達なんていらない」


 ハルカがそう言って走って部屋を出て行くと、姫子が衝撃が強く目を見張って動けなくなっていた。その為子供たちが姫子の周りに集まり、手を引っ張った。


「姫子先生、どうしたの?」


 子供の声が聞こえ、姫子はどうにか微笑んだ。


「何でもないの」


「ハルカちゃんなんか変。急に悪い子になってる。どうして?」


 子供たちが呟き、みんながうなずくと、姫子は頭を横に振った。


「わからないの」


「急に変になったから怖い。普通に遊んでるときは良いのに、急に怖くなる」


「うん。急に変になっちゃう」


「ハルカちゃん、悪い子になるの?」


 子供たちが口々にハルカを心配している声を上げた。それを見て姫子は嬉しそうに微笑んだ。つながりは、すぐには消せない。それを姫子はハルカに知ってほしいと思っていた。


 ハルカは子供区から出ると、エレベーターで遊び始めた。ある一定の階で移動用エレベーター一基をずっと止めているからだ。四基あるうちの一基をハルカが遊びに使っていた。移動にはロスが生じ、誰かに見つかる可能性はとてつもなく高かった。その為程々のところで止め、ハルカが立ち去ろうとした時、異変を聞きつけた陽二がハルカの居る場所へ来たため、ハルカは慌てて立ち去ろうとした。しかし陽二はハルカの仕業だと気づいていたのか、ため息をついた。


「ハルカ、待ちなさい」


 陽二がハルカを捕まえ、廊下の角へ連れて行くと、ハルカは陽二を見つめた。


「エレベーターで遊ばないんだ。あれはとても大事なものだ。それをハルカのおもちゃにしちゃいけない」


「楽しいんだもん」


 ハルカが嬉しそうに言うと、陽二は頭を横に振った。


「楽しくてもダメなものはダメだ。遊んではいけない」


「ケチ」


「ハルカ」


 陽二が怒ったような声を出すと、ハルカは駄々をこねるように体をゆすった。


「ケチ! 遊んでるだけなのに」


「もっと何か違うもので遊びなさい。エレベーターで遊んではいけないんだ」


「……遊ぶものないもん」


「部屋に戻ったら何かあるだろう」


「……戻りたくない」


 ハルカが小さな声で言うと、陽二はハルカの肩を掴み、しっかりと顔を見つめた。


「ハルカ、悪い子じゃないだろう。ちゃんと良いことと悪いことを理解できる賢い子だっただろう」


「知らない! ハルカは悪い子だもん。みんなに嫌われる悪い子だよ!」


 陽二に叫ぶように言ってハルカは駆け出して行った。その為陽二は深いため息をつき、壁を殴った。


「ハルカ……そうじゃない。まだ君を信じているんだ。闇の住人じゃないんだ。悪いことをしなくてもいい。ハルカがハルカのままならそれでよかったんだ……」


 陽二は痛みを堪えるかのように呟くと、その場から立ち去った。


 ハルカはその後もいろいろな人にいたずらを仕掛け、驚かせていた。それを楽しむハルカは、子供だから多少なりとも許されていた。いたずらをするハルカを怒るものは少なかった。それも、人見知りの激しかったハルカが、誰構わずいたずらを仕掛けるのだから、ハルカが普通の子供になったのだと誰もが思ったはずだ。しかし、現実的に言えば違った。


 ハルカは一日いたずらに時間を使い、みんなに迷惑をかけ続けていた。それでも楽しむハルカの顔を見て、大人たちは一緒になって笑ってくれていた。それをハルカはどうとっていいのかわからなかった。本当なら怒って責めてほしかったのだから。


 夜になり、ハルカが部屋に戻ってきて一緒に過ごすが、昨日と同じだった。お風呂も一人で最後に入りたがり、就寝も一緒にするが、翌朝起きてみればソファで眠っている。一人で居たいと願っているんじゃないかと慶司は不安になっていた。


 ハルカが戻ってきて二日目のこの日もハルカは部屋の外に出て迷惑をかけ続けていた。昨日と同じでエレベーターを動かなくさせたり、扉をいろいろ閉めてみたり、少し規模を大きくしていたずらをしていた。周りの大人たちもまたハルカがいたずらをしているとしか思わず、時々「もうやめておけよ」と注意してくれるだけだった。ハルカはそれでもいたずらを止めず、楽しんでいたずらを続けた。自分はこれだけ悪い奴なんだとみんなに知ってもらおうと行動していたのだ。しかし誰もわかってくれる人はおらず、ハルカは柱の影に座り、廊下を見つめた。色々な人が行き来する廊下に居れば、いろいろな話が聞けた。途切れ途切れだが、ハルカは大人たちの話を聞き、いたずらを考えていた。ハルカが一日をそんないたずらに使い、面白おかしく過ごし、夜を迎える。そうやって三日を過ごし、深夜、ハルカがベッドから出て、毛布を持ち部屋を出ようとしたとき、慶司が目を覚ました。


「んっ……ハルカ、どこに行くんだ」


 慶司が起き上がり、ハルカが扉から出て行く時に声を掛けたが、ハルカは気づかなかったとでも言うように扉を閉めた。その為慶司が後を追うと、ハルカはソファ近くに座って毛布をかぶろうとしていた。


「ハルカ」


 慶司が起き上がり、部屋から出てきたことに気づいてハルカは慶司を見つめた。


「そんなところで寝なくていい。ベッドに行こう」


「ここがいい」


「ハルカ」


「ハルカはここがいいの!」


 急にハルカが喚くように大声で言うと、慶司は目を完全に覚ました。その為ハルカの表情を見て心が痛んだ。


「ハルカ……」


「ハルカはここで寝たいの。ベッドなんて嫌だ」


 今にも泣きそうな顔でハルカが喚くように言うと、慶司はハルカをじっと見つめるしかできなかった。


「どうしてここで寝ちゃダメなの? ここで寝たら悪い子なの?」


「そうじゃない。みんなで寝よう」


「ハルカ一人でいいもん。一人で寝れるからここがいい」


 ハルカがそう言うと、慶司は心の中にあった一つの疑問が解決したと思った。その為慶司はハルカを見つめて悲しそうな表情を見せた。


「ハルカ悪いことしてるのにどうしてみんな怒ってくれないの? ハルカみんなを困らせてるのに、どうして怒らないの。どうしてダメだって叩かないの? ダメな事してるんだって怒って言ってくれたらいいのに。どうしてみんなハルカに怒らないの」


「今のハルカに怒って何の意味がある」


「ハルカは怒ってほしいの。罰がほしいの」


 ハルカがそう言うと、慶司はハルカの側に座り、ハルカをじっと見つめた。


「罰を与えるほどハルカは俺たちにひどいことをしたのか。何をした」


「困らせた。物を隠したりした。エレベーターとかいろいろ遊んだもん。それなのにどうして?」


「かわいいもんだ。そんなもんでみんなは怒らない」


 慶司がそう言うと、ハルカは慶司を突き飛ばし、床の上に倒した。


「どうして!」


「子供の遊びだ」


 慶司がそう言うと、ハルカはぐっと手を握りしめた。


「子供……。じゃハルカが何をしてもいいんだよね。子供だもん」


「ハルカ」


 止めろと言いたそうに慶司がハルカを呼ぶと、ハルカは慶司を見つめた。


「ハルカは悪いところの子供なのに、どうして優しくするの。ハルカを叩けばいいのに、ハルカを怒ればいいのに」


「誰もしないんだ」


 慶司はそう言ってハルカを抱きしめようとしたが、ハルカは慶司の腕から逃げるように立ち上がると、慶司から数歩離れた。


「嫌だ」


「ハルカ」


「ハルカは……慶たちと一緒に居たくない。慶たちと同じところに居たくない。ハルカは一人がいいの。一人になりたいの」


 ハルカがぐっと手を握りしめて言うと、慶司は頭を横に振った。


「ダメだ」


「ハルカは一人がいいの! みんなと一緒に居たくない」


 ハルカは喚くように言うと、隣の部屋の扉が開き、喚き声を聞きつけたみんなが出てきた。眠そうな顔でみんなが出てくると、ハルカはぐっと手を握った。


「何してるの。三時だよ……」


 唯香がそう言うと、出入り口の扉の鍵が急に開き、陽二が部屋に入ってきた。その為ハルカは身をこわばらせた。


「陽二……」


 慶司が陽二を見て声を掛けると、陽二は全員が起きていることに気づき苦笑いを浮かべた。


「思わぬ事態だ」


「何がだ」


「全員起きているとはな……」


 陽二がそう言うと、ハルカの側に向かい、ハルカの腕を取り、その前に座った。


「エレベーターで遊ぶなと言っただろう」


「楽しいから遊んだの」


「それでもダメなものはダメだ」


「知らない。ハルカが楽しい事してるの」


 ハルカがそう言うと、聞いていた全員が目を見張った。私欲のためにハルカが動いていると気づいたからだ。それも多大な迷惑をかける方法を使って……


「ハルカ、闇の住人の子供だと聞いたからと言っても自分が闇の住人の子供だという証拠はあるのか?」


「……」


 ハルカが黙り込むと、陽二はハルカをじっと見つめた。


「親の名前も、居場所も、生まれた場所さえわからない。それなのにどうして闇の住人の子供だというんだ」


「あの人たちはハルカがそうだって言ったもん」


「だからって信じなくてもいいんだ。ハルカは慶司たちと共に暮らし、白へ戻っただろう」


「違うもん」


 ハルカが白へ戻ったことを否定すると、慶司たちが目を見張った。


「ハルカ、慶司たちが何をしたんだ。尋問班は慶司たちを苦しめているとしか言っていない。慶司たちに迷惑をかけているとしか言っていない。それなのになぜ拒絶する。どうして信じてあげないんだ」


 陽二がそう言うと、ハルカは陽二を見つめたが、その目は睨んでいるようにも見えた。


「ハルカはスパイなんかじゃない! お外に友達もいない、慶に連れて来てもらって、初めてお外に出たのに、みんながハルカが悪い奴だって決めつけたんだ! 違って言っても怒られたし、知らないって言っても信じてくれなかった。誰もハルカを信じてくれなかったんだもん! 慶たちもハルカが違うって思ってくれてると思ったのに、ハルカが連れて行かれるのを黙って見てたんだ。慶たちはハルカを捨てたんだ。ハルカは要らないんだ。みんなハルカを信じてくれないんだからハルカなんて要らない!」


 ハルカが喚くように言うと、慶司たちは目を見張り、ハルカを見つめた。


「慶司、尋問班にひどく傷つけられている。白から黒へと変貌させてしまった。何も信じようとしない。何も聞こうとしない。悪いことばかりして捨てられるようなことをする」


 陽二がそう言うと、慶司は目を見張った。


「違ったんだ。ハルカは違った。それを謝りたいのに聞き入れてくれない。何もできなくなっている。だが戻してやりたい。普通だった頃に……」


「陽二……」


「頼む。ハルカを白へ戻してくれ。苦しめることも傷つけることもわかっている。傷つくことも承知だ。だから頼む……」


 陽二は苦しそうな声で言うと、慶司は陽二の肩を叩いた。


「ハルカ、わかっているんだろう。自分が馬鹿なことをしているんだと。知っていてやっているんだよな」



 慶司がそう言うと、陽二も含め全員が目を見張った。


「姫子さんが言ってたぞ。子供区の子供たちの部屋に行った時、みんなに嫌われるような真似をして、安心した顔を見せたってな。自分が闇の住人の子供だから、迷惑をかけないよう遠ざけたんだな。もし本当に自分が悪い子供なら、傷つけるかもしれないからな」


「っ……」


 ハルカが俯いて悔しそうに唇をかみしめると、慶司はハルカの前に座った。


「ハルカ、俺たちは気づいていないんだ。いつハルカを傷つけたのかも、何がハルカを傷つけたのかも。教えてくれないと分からない」


「言いたくない」


 ハルカが慶司を見つめてはっきりと言うと、慶司は苦笑いを浮かべた。


「そうか」


「……罰をくれたらいいの。ハルカはダメな子だって……」


「できないんだ。暴力でハルカを従わせたりしない。暴力でハルカを苦しめたりはしない」


「ハルカはそれがいいの!」


 大声を出してハルカが言うと、慶司は頭を横に振った。


「できないんだ。ハルカが強制的にやれと言っても拒否したい。尋問班とは違う」


「……じゃハルカを知らない振りして」


 ハルカがそう言うと、慶司は目を見張り、ハルカの腕を握った。


「無視しろって意味か」


「うん」


「馬鹿を言うな。どれだけ傷つけると思ってる。そんな事誰ができると思う」


「してほしいの」


「無理だ。やらない」


「いけず!」


 ハルカが叫ぶように言うと、慶司はため息をついた。


「……俺たちがハルカを傷つけたって事だけでもわかったのなら進歩だな」


 慶司はそう呟くと、立ち上がり、陽二を見た。


「初めの内に知らせておいてくれ。どれだけ俺たちが心配したと思ってんだよ」


 慶司が陽二に苦情でも言うように言うと、陽二は困った顔を見せた。


「ハルカを変貌させるようなことをさせたのはこちらだ。誰がいつどこでそれをしたのかも分からない以上、ハルカを見守ってハルカがすることを見ているしかできなかった」


「まぁいい。さてと、完全に目、覚めちまった。ハルカ、眠くないのか」


 陽二の返事にあいまいに答え、慶司はハルカに問いかけた。ハルカは毛布に包まり、ソファの上で慶司たちを見つめていた。


「知らない」


「質問の答えになってねぇぞ」


「……」


「まぁいい。眠たい奴らは眠りに行け」


 慶司はそう言ってハルカの側に座ると、陽二を見つめた。誰一人として動く人はおらず、全員がその場に残った。


「陽二、他にはねぇのか」


「悪いことばかりするだろう」


「知ってる事だ」


「見つけられていない」


 陽二が悔しそうな声で言うと、慶司は隣に居るハルカを見つめた。ハルカはウトウトと眠そうに船を漕いでいた。その為慶司は微笑み、静かにハルカを見つめた。静かな事に安心したのか、ハルカがこてっとソファによろけて転び、そのままスヤスヤと寝てしまった。それを見て慶司は微笑んだ。


 ハルカに起こったことを陽二から聞き、陽も登らぬ時間だというのに、みんながリビングでハルカを見つめて呆然としていた。


「寝不足になるぞ」


 慶司が呆然としているみんなに言うと、沙羅が慶司を見つめた。


「衝撃的すぎでしょ。ハルカがそう思ってるなんて……」


「でもしかたねぇ。そう思わせちまったって事だ」


 慶司がそう言って決意したかのような顔を見せた。


ハルカが目を覚ますと、唯香と仁がソファに寄りかかるようにして毛布を肩からかけて寝ていた。絨毯の上ではテーブルを脇に寄せて開いたスペースで龍彦、龍哉、友香が寝ていた。


「なに……してるのかな……」


 ハルカが驚いた顔で寝ているみんなを見て呟くと、ソファの背もたれの一部が沈み、ギュッと変な音を鳴らした。その為ハルカが慌てて振り向くと、慶司がそこに座っていた。


「起きたか」


「……」


 唖然となったハルカは、口をぽかんと開けて慶司を見つめるしかできなかった。その為その変な顔を見た慶司は微笑んだ。


「何だその顔。変な顔してんじゃねぇぞ」


 慶司がそう言ってハルカの頭を撫でると、ハルカは怯えることもなく、びくつくこともなく普通に撫でられた。それを見た慶司は少しでもハルカが自分たちに対して恐怖心が和らいでいるのではないかと思えた。


「みんなハルカの側で寝たいって言ってベッドへ戻らなかったんだよ。俺も沙羅も眠れなかったしな。みんな、心配してんだぞ」


「どうして?」


 ハルカが不思議そうな声で聞くと、慶司は微笑んだ。


「大事だって事だ」


「わからない」


 ハルカがきっぱりとした声で言うと、慶司は微笑みかけた。


「ならわかるようになるしかねぇな。ちょっとずつ覚えて行けばいい。お前を白に戻すために、俺たちはまたお前と戦う気があるからな」


 慶司がハルカを見てそう言うと、ハルカはぐっと手を握りしめ、唇をかみしめた。その為慶司はそんなハルカを見てため息をついた。


「苦しめることになることもわかってる。でもな、お前は悪くなかったんだ。ならそれを改めることもする。放置できるほど、お前との仲は浅くねぇからな」


「放っておけばいいのに……」


 ハルカは少し怒っているかのような声音で言うと、慶司は首を傾げた。


「できねぇんだ。俺はハルカと一緒に居たいからな。悪さをするハルカでもいいが、分別できるハルカの方がいいから俺は戻れるよう手伝うって事だ」


「戻りたくない」


 ハルカが慶司を見つめてそう言うと、慶司は頭を横に振った。


「ダメだ。白へ戻るんだ」


「……嫌だ」


「駄々をこねてもいいが、後から分かることだ。だから今は否定しててもいい。いずれ分かってくれ」


 慶司はそう言うと、ハルカの頭を撫で、立ち上がった。その為ハルカは俯き、痛みを隠すように表情を隠した。それを慶司は横目で見つめていたことをハルカは気づいていなかった。


 それから少しして全員が目を覚まし、各々自分がどこで寝ていたのかわかっていないのか、呆然とした顔で数秒居ると、ソファの側で寝ていた二人はハルカを探し、絨毯の上で寝ていた三人は慌ててソファを見た。ソファで寝ているはずのハルカの姿が無かったため、慌てて立ち上がった五人に、ダイニングとリビングとの間にある壁に寄りかかっていた慶司が微笑んだ。


「起きたか。おはよう。ハルカならダイニングだ」


 慶司の声が聞こえ、五人は慌てて振り向き、ダイニングへと駆け込んだ。椅子に座り、ハルカは一人で遊べるおもちゃを持って遊んでいた。それを見た五人はほっとした顔を見せ、慶司を見た。


「おはよー」


 唯香の間の抜けた声を聞き、慶司はハルカの肩を叩いた。


「メシ食うぞ。服着替えてこい」


「はぁい」


 唯香を先頭に五人が移動していったため、慶司は少し嬉しそうに微笑んだ。


「慶、準備できたわよ」


 沙羅がテーブルの上に朝食を並べると、ハルカがパッと明るい表情になり、全員そろっていないのに朝食を食べようとした。


「ハルカ、待て。全員そろってからだ」


 慶司がハルカの表情を見ただけで気づいたのか、すぐにハルカの手を取り、朝食に手を付けさせないようにした。その為ハルカは不満げな表情で慶司を睨んだ。


「お腹空いた!」


 ハルカが怒鳴るように言うと、慶司は苦笑いを浮かべた。以前のハルカならこんな駄々をこねなかったからだ。それも今は自分を怒らせる口実を作るために悪さをする。怒られないために引きこもりがちだったハルカが、怒らせるような行動をとるようになったのは良いものの、行き過ぎている面を改善しなければならない。その難しさを慶司は少しずつわかり始めていた。


「みんなを待ってからだ。それがこの部屋でのルールだ」


「ルールは破るためにあるんだって言ってたから、ハルカはルールを破るの!」


 じたばたと暴れるハルカが言うと、慶司はため息をついた。


「誰がそんなバカなことを言ったのか知らねぇが、ルールは守るんだ。守れないところだけ破ればいい」


「お腹空いたのに我慢できないからハルカは破るの!」


 慶司の言葉にハルカは今がそうだとでも言いたげに言うと、慶司はハルカの手を放そうとしなかった。

「ダメだ。言ったな? 改善することをするんだ。これだけは伝えて置くが、叩かないという条件はこれから先守れない時もある」


 慶司がそう言うと、ハルカは暴れるのを止め、慶司を見つめた。


「ハルカが誰かを深く傷つけ、謝らなかったり、反省しなかったりしたら叩く可能性がある。反対にハルカだって俺たちに暴力を奮うかもしれないからだ」


「慶はハルカを叩くの? 沙羅もみんなも?」


 ハルカが不安そうな声で聞くと、慶司はうなずいた。


「そうだ。だが絶対じゃない。ハルカと戦うためだ。ハルカも、一緒に居たくないと思う俺たちと戦わなきゃならない。わかるよな?」


「うん」


「ならいい。やりたくないけどやらなきゃ仕方なくなったんだ。暴力だけはしたくねぇんだけどな……」


 慶司が悲しそうな声で言うと、全員がダイニングへ入ってきたため、慶司はテーブルに並ぶ食事を見て沙羅を見つめた。


「食べるか」


「食べましょう。みんな座って」


 沙羅がそう言ってみんなを席に座らせると、ハルカを見つめた。


「それじゃハルカ、お待ちかねの朝食よ。食べましょう!」


 沙羅が手を合わせて言うと、ハルカは大急ぎで食べ始めた。その様子を見ていたみんなは唖然としたが、ハルカの行動一つ一つを観察することにした。もう一度ハルカと笑い合って暮らしていきたいからだ。


「ハルカ、のど詰めるぞ」


 慶司が急いで食べるハルカに言うと、ハルカは首を傾げた。


「がっつくな」


「ふぇいき(平気)」


 ハルカが食べ物を口に含みながら言うと、慶司はため息をついた。その為ハルカは、慶司の皿に乗っていたハムを一切れ盗み食いをした。それを慶司が見て深いため息をついた。


「ハルカ、いい度胸だ。朝から俺を不機嫌にさせるなんて仁以来だ。覚えておけよ」


 慶司がそう言うと、ハルカは嬉しそうに微笑んだ。


「うん。慶が隙を見せたのが悪いんだもん」


 ハルカがそう言うと、慶司はハルカを見つめて疲れた顔を見せた。


「そうだな。それよりハルカ、言う言葉があるだろ」


「何?」


 ハルカが不思議そうな声で聞くと、慶司は空になった皿を指さしていた。その為ハルカはポンと手を叩いた。


「ごちそうさまでした」


 ハルカがそう言うと、慶司はため息をついた。


「違うだろ。人様の食べ物を食べたんだ。なんて言うんだ」


「ごちそうさまでした。だよ?」


 ハルカが不思議そうな声で言うと、慶司はハルカの目をしっかりと見つめた。


「目の前でやられるとは思わなかったが、懐かしい感じだな」


 慶司がとても優しく、懐かしそうに言うと、沙羅たちは目を見張って慶司を見つめた。


「慶……」


 沙羅が声を掛けると、慶司は微笑んだ。


「俺もバカだったんだなって痛感する。懐かしいぜ。ハルカ、ごめんなさいって言わないつもりなんだな」


 沙羅にそう言い、慶司はハルカに謝らないのかと問いかけると、ハルカは嬉しそうに微笑んだ。


「うん。だってハルカが食べたかったんだもん」


 ハルカはそれはもう自我を通すかのように言うと、慶司はハルカの肩を掴んだ。


「よく分かった。ハルカ、教育的指導をされても文句なしだ」


 慶司が厳しい声で言うと、ハルカは叩かれると思ったのか、慶司から逃げるように椅子から遠ざかった。その為慶司はそんなハルカを見て微笑んだ。


「すぐに逃げるな。謝らないからって叩くとは限らないぞ。それに、俺はそんな小さなことでは叩かない」


「でも怒ってる」


 ハルカがそう言うと、慶司は嬉しそうに微笑んだ。


「そりゃそうだ。ハルカが悪いことをして謝っていない。それなら怒るだろ」


「……」


 ハルカは慶司を見つめて黙り込むと、慶司はハルカから視線を逸らした。


「ごめんなさいって言える子供になったはずだなハルカ。もう一回きっちりみっちり覚えたいのなら教え込んでやる。どうしたい」


 慶司がハルカを見ないで言うと、ハルカは慶司を見つめて黙り込んだ。その為慶司はハルカを見つめた。


「知ってるって怒鳴るつもりなら諦めろ。今のお前にその言葉を言う資格はない。知ってるならやればいい。やってこそ知ってるって怒鳴る資格があるんだからな」


 慶司が厳しいことを言うように言うと、ハルカは慶司を睨んだ。その為慶司はそんな春カを見つめ肩をすくめた。


「俺を睨むな。全部尋問班の部屋に落としてきたお前が悪いんだ」


「ハルカをそこに行かせたのに、ハルカが全部悪いみたいに言うのは嫌だ! 行きたくなかったのに、行かせたんだよ!」


 ハルカが怒鳴るように言うと、慶司はハルカを見つめた。


「そうだったな」


「ハルカが全部悪いみたいに言わないで! ハルカをこうしたのは慶たちだもん!」


 ハルカはそう言うと、慶司たちを睨み、テーブルの上にあるコップを掴むと沙羅たちが座る方へ投げつけた。それは壁に当たり、けたたましい音を立てて割れた。割れた破片で怪我をする人はいなかったが、ハルカが癇癪を起した。その為沙羅たちはびっくりした顔でハルカを見た。


「どうしてみんなでハルカが悪い子だって怒ってくれないの! 良い子で居たってハルカは悪い子になるんだよ。みんなが後でハルカは悪い子だって知ることになるのに何でいい子をしなきゃならないの。みんなに嫌われるのにどうして!」


「ったく……ハルカ、好きにしろ。怪我したら言うんだぞ」


 慶司は食べ終わったのか立ち上がると、ハルカに皿を渡した。その為ハルカはそれを壁に投げつけた。皿はけたたましい音と共に粉々に割れてしまった。


「テーブルの上の皿なら割ればいい。好きにしろ。それでお前の中にあるものが収まるなら何枚でもな。でも収まらないと気づけば止めておけよ。後悔するのはお前だ」


 慶司はそう言うとハルカの様子を見るために違う壁に寄りかかった。食べ終わって様子を見ていた沙羅たちも立ち上がり、ハルカから少し離れた。その為ハルカは見守られる中テーブルの上にある皿やコップを壁に投げつけ続けた。しかしハルカは空しさだけが広がっていくことに気づいて手を止めた。


「みんながハルカが今していることを間違いだって知っているんだぞ。それに怒って何かに当てつけても独りよがりだ。だから素直になればいい」


 慶司がハルカの背中に向けて言うと、ハルカは振り向いた。


「ハルカをこうしたのは慶たちだもん! ハルカは悪くないっ!」


 ハルカが地団駄を踏むかのように言うと、慶司はため息をついた。


「謝ろうとしている俺たちの言葉さえ拒絶するお前にどうやって謝ればいいんだ」


「知らないっ!」


 ハルカは駄々をこねるかのように喚き、慶司を睨んだ。その為慶司はもちろん沙羅たちもそんなハルカを悲しそうな目で見つめた。


「じゃ好きにしろ」


 慶司が突き放すかのように言うと、ハルカがビクッと強張った。しかし、ハルカはそんな慶司に怒ったのか慶司の前へ歩むと、手を握りしめて、慶司の胸を殴った。


「馬鹿っ!」


 ハルカが大きな声で慶司に言うと、胸を数回殴り、慶司を睨んだ。


「ったく……謝らせてくれないのは誰だ。話を聞いてくれないのは誰だ。ハルカ、お前だろう。話を聞いてくれないのなら、話を聞ける状態になるまで俺は見守るしかねぇんだ。だから好きにしてくれと言ったんだがな……」


 慶司がハルカに問いかけ、呟くように言うと、ハルカは慶司の胸を何度も殴り、俯いた。


「はぁ……。突き放されたくないのなら元のハルカへ戻ればいい。黒になったお前でも俺は別にいいけど、この塔の中じゃ難しいだろう。ハルカ、俺たちがお前に負わせた傷がなんなのか今はわからない。陽二から一応尋問班のしでかしたことは聞いたが、それ以外にもあるんだろ?」


 慶司がハルカの頭を見て言うと、ハルカはコクンとうなずいた。その為慶司はハルカの背中を撫でた。


「俺たちがしでかした事に対してはもう少し待ってくれ。その間暴れてもいいからな」


「……慶、ハルカがスパイじゃないって信じてくれてるの?」


 ハルカが小さな声で問いかけると、慶司はハルカを見て目を丸くした。


「ハルカ、そんなに友達多かったか? 初めてここに来た時、知り合いなんてここに居なかっただろ。

外の連中と連絡の取り方さえ知らないだろ。そんな奴をどうやってスパイだって思うんだよ」


 慶司が呆れたと言わんばかりにそう言うと、ハルカはぐっと手を握りしめた。


「尋問班が何を言ったのか俺は聞いてない。でもお前をスパイだと決めつけて否定したことは容易に想像できる。忘れろとは言わない。でも信じてくれ。俺たちはハルカを仲間だと信じてる」


 慶司がそう言うと、ハルカは慶司の側から数歩離れ、みんなを見つめた。ハルカの表情がどこか悲しそうに見えた。


「ハルカを信じてくれるのならどうして驚いた顔したの! どうしてハルカを簡単に渡しちゃったの。どうして止めてって言ってくれなかったの。みんな……ハルカが連れて行かれるのを黙って見てたんだよ!」


 ハルカが悲鳴のような悲しい声で言うと、慶司たちはハルカをじっと見つめ、ハルカの言葉を聞き入った。その様子を見てハルカは頭を横に振った。


「どうして何にも言ってくれなかったのっ!」


 ハルカが怒鳴るように言うと、慶司は深いため息とともに額を押さえた。その表情はとても悲しそうで、後悔しているかのように見えた。


「そりゃそうだな。あの時俺たちの顔を見てお前がどう思ったかなんて簡単にわかるわけだ」

 

 慶司が小さな声で言うと、沙羅たちが慶司を見つめた。


「慶……?」


「ハルカ、言い訳だと思ってくれていい。説明させてくれ」


 慶司がハルカにそう言うと、ハルカの前に座り、目を見つめた。


「あの日、俺たちは朝から出かけたな? 仕事へ向かった。そこで小野という爺が居たんだ。小野は闇の住人の幹部だ。その小野という人間と出会い、そこで白の塔にスパイがいると嘘をつかれた。だが仕事に行った先でありえないことも多々起こっていて、俺たちはそれを信じてしまった。そんな話を聞かされた後で、お前にスパイ容疑があると知ったんだ。驚いたことは事実だ。あり得ないと、信じたくないという思いもあった。だが、もしもを考えたんだ。お前が、外との連絡方法を本当は知っていたのなら、お前を殺さなきゃならなくなる。それを否定したかったんだ。だからあいつらに俺は渡した。その後沙羅たちと必死にスパイが居ないか探し回った。情報を集めてお前じゃないという証拠を陽二に見せようとした。時間がかかったことと、何の説明もしなかったことは、傷つけただろう。苦しめただろう。俺たちを信じられなくなることも、疑うことも十分理解できた。そう言う意味だったんだな」


 慶司がハルカの目をしっかりと見つめて事情を説明すると、ハルカは慶司を見つめ、服の裾を握った。


「ハルカを疑ったの?」


「疑う余地がないだろう。でも、陽二がOKを出し、尋問班が動いていれば拒否できないんだ。拒否した場合、ハルカは取り調べを受けるまでもなく死刑になる。殺されてしまうってわけだ。それを阻止したいから俺は尋問班へ渡し、時間を稼いだ」


「……でもハルカは……」


 ハルカが何かを言いかけ、言葉を詰まらせると、沙羅がハルカの側に座った。


「ハルカを苦しめたのは分かってるの。それに、早く戻って来てほしかったの。だから必死になったのよ。尋問班が何をするかなんてわからないから……。ハルカが戻って来てくれて本当にうれしいの。でもね、ハルカは変わってしまっていたの。それがどうしてなのかわからなかった」


「……ハルカはどうしてこんなにつらいの? どうして苦しいの? どうしたらいいのかわからないっ」


 ハルカが涙を浮かべてそう言うと、慶司がハルカの頭を撫でた。


「尋問班に否定されたことを俺たちに教えてくれ。お前が生きていくことを否定されたのなら、取り戻して行こう。強制されたのなら、戻してやる。ハルカが苦しむことは、俺たちも一緒に苦しんでやる。だから戻れるようになろう」


 慶司がそう言うと、ハルカは慶司に抱きつき、大声で泣いた。その為見守っていたみんなが抱きしめ、やっとハルカと前に進む一歩を踏み出そうとしていた。


 ハルカが泣き止んでから落ち着くまで時間がかかったが、その間に割れた皿やコップの掃除をして、リビングでくつろごうとしていた。ハルカを囲み、みんなでテレビを見ていると、ハルカがリモコンをポチポチと押して画面をクルクル変えた。その為見ていたみんながハルカを見つめた。


「ハルカ、見たいテレビが無いとしてもそうやって遊ぶな」


 慶司がそばに座っていたため、ハルカの手からリモコンを奪い、沙羅に渡した。その為沙羅はみんなが見ていた番組にチャンネルを合わせ、テーブルの上にリモコンを置いた。


「面白くないもん」


 ハルカが不満そうな声で言うと、慶司はハルカを見つめてため息をついた。


「何したい」


「……遊びたい」


「何して遊びたい」


 慶司がハルカに問いかけると、ハルカは黙り込んだ。その為慶司はハルカを見てすっと真剣な表情を見せた。


「ハルカ、俺たちを困らせて悪い子だって証明したいならやめておけ」


「どうして?」


 ハルカが慶司を見つめて首を傾げると、慶司は微笑んだ。


「悪い子になることは難しいぞ」


「簡単だって言ってたのに。困らせたり、怒らせたりしたら悪い子だって言ってたよ」


 ハルカが不満そうな声で言うと、慶司はハルカの頭を撫でた。


「すべてが悪いことじゃない。困らせたり、怒らせたりしても、その中にはいいことだってある。だから悪い子になるのは本当に難しいんだ」


「……じゃどうやったら悪い子になれるの」


 ハルカがそう言うと、慶司は微笑んで、ハルカを見つめた。


「ハルカには無理だ。教えないし、悪い子にもさせない」


「慶のいけず!」


 ハルカがムスッとした顔で言うと、ぱこっと胸を叩いた。その為慶司はハルカを見て微笑んだ。


「悪い子にならなくていいんだ」


 慶司がそう言うと、ハルカはムスッとした顔のまま慶司を見つめていた。


 慶司たちとの間にあった亀裂は少しだけでも埋まったが、ハルカが闇の住人であるかもしれないという思いは、ハルカの中からは消えていなかった。そのためだろう、悪いことを仕出かし続けた。友香と言い合いの喧嘩をしたり、龍哉の荷物を隠したり、唯香の服をゴミ箱へ入れて怒らせたり、龍彦のゲームをお風呂に浸けて使えなくしたりいろいろと問題を起こし続けた。それもハルカのせいだと言われても、素知らぬ振りをして逃げ回るため、慶司と沙羅がみんなをなだめてハルカに白状させていた。それでもやはりハルカの悪行は終わることなく、ひどくなる一方だった。しかし、ハルカを叱れる者などいなかった。ハルカ自身が思って行動しているとしても、それを思わせているのはこの場所だと知っているからだ。それでもハルカにとって叱られない事が辛くて仕方なかった。だからこそ行動に出てしまった。


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