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告白 -アフターストーリー-

掲載日:2011/02/25

「へぇ、そんな感じだったんだ」


 時刻は夕方、壁にかけた時計から18時を知らせる鐘が鳴る。

 冬へと移行していくこの季節は、夜の肌寒さが目立ちだす。高校生になって二度目の文化祭も近くなり、学校では準備に精が出ている。


「そうなの! パパったら意地悪言って……」


 そんなある日の夕食前のひと時。私、山城未卯やましろ みうはリビングでお母さんの話を聞いていた。

 その内容は、お父さんとの馴れ初め。お父さんとお母さんは高校時代から付き合い始めたらしいので、少し、興味がわいた。昔のことを話すお母さんは、30代後半という年齢を感じさせないほど若々しかった。


「でも、そんなところも好きなんだけどね~♪」


「……はいはい」


 前言撤回、“若々しい”ではなく“幼い”。頬に手を当てながら照れるお母さんを見て、私は若干辟易しながら軽く流した。


 両親は、世間一般で言うおしどり夫婦だ。私の前でよくいちゃいちゃするし、出勤前のキスも定番になっている。お父さんは少し恥ずかしがっているようだけど、お母さんの頼みは断れないようだ。別に嫌がっている様子もないから、満更でもないみたいだけど。

 お父さんは現在出勤中。一般的な株式会社で課長をやっている身なので、帰りは遅いことが多い。


「それにしても、お父さん遅いね」


 時間自体は遅くもなんともないのだが、今日は……一応、特別な日だから。

 私はもちろん、お父さんにとっても、お母さんにとっても。


「大丈夫よ」


 その言葉に振り返ると、何でも分かっているかのようなお母さんの笑顔。その顔の意味が分からず、私はついキョトンとしてしまう。


「何でなのか、分からない?」


 私の表情を見透かしてか、そう尋ねられた。

 お父さんもそうだけど、人の心を勝手に読むのはやめてほしい。そんなに分かりやすいのかな、私。


「うん、何で? 遅くなることのほうが多いでしょ?」


「そうね。一応パパもお仕事だし、いろいろあるんでしょうしね」


 疑問をそのまま口にすると、あっさり首肯された。

 どういうことなのか尋ねる前に、お母さんが「でもね……」と続ける。なので、私は素直に次の言葉を待つ。


「でもね……パパ、出勤する前に言ったでしょう? “絶対に19時までには帰る”って」


「それは、そうだけど……」


 確かに言っていた。「だるい」とか「めんどくさい」が口癖のお父さんが「絶対に」なんて言ったから、驚いた記憶がある。

 でも、言うことなら誰でもできると思うんだけど……。


「ふふ、未卯は信じられない? パパの事」


「いや、信じる信じないじゃなくて……その……」


 私が口ごもると、お母さんはただ「大丈夫」と言った。







「パパは……ゆーじは、言った事は曲げないよ。それこそ、絶対に」







 そう言ったお母さんの顔は眩しくて、綺麗だった。

 同時に、玄関のドアが開く音がした。


◇◇◇


 お父さんが帰ってきてから数分後、私たちは食卓にいた。お父さんも部屋着に着替え、席に着いている。

 四人がけの机にはお父さんとお母さんが隣り合って座り、私がその正面に座る。テーブルの上にはご馳走が並べられており、私の好きなから揚げやポテトサラダもある。きっとお母さんがわざわざ用意してくれたのだろう。


「さて、それじゃあ奏、始めようか」


 お父さんが不意に切り出す。料理に目移りしていた私は視線を上げ、二人のほうを見る。


「うん♪ せーの……」


 お母さんも笑顔で返し、二人一緒に私のほうを向く。

 そして……




「「未卯、誕生日おめでとう!」」




 二つのクラッカー音に、部屋が包まれた。


「ありがとう。お父さん、お母さん」


 そう、今日は私の誕生日。17歳になった私としてはクラッカーはやめてほしかったけど、二人の幸せそうな顔を見ると、別にいいかと思えてくる。別に嫌という訳ではないのだから。


「未卯も今年で17か」


「うん」


「17かぁ……早いわねぇ」


「そうだな」


 二人はそう言って、目を閉じた。昔を懐かしんでいるのだろうか。

 でも二人とも、ごめんなさい。そろそろおなかが限界です。


「む。奏、そろそろ食べよう。腹が減った」


 そんな私の真意を知ってか知らずか、お父さんがそう言った。私は心の中でこっそりとお礼を言う。


「あ、そうね。それじゃあ……」


「あぁ、ほら未卯も」


「あ、うん」


 私たちは手を合わせる。

 そして、食事に対して感謝を込めて。




「「「いただきます」」」




◇◇◇


「ふぅ……」


 時間は過ぎて、現在22時。私はソファの上で本を読んでいた。


 楽しい食事はあっという間に終わり、たくさんあった夕食はすべて無くなった。その後、お父さんが買ってきたケーキを食べた。ホールケーキを切り終えた際に、お母さんが「あ、ロウソク!」とか言って直径2cmのロウソクを持ってきたりしたけど、一応無事に誕生会は終わった。

 その当の本人は、寝室で熟睡中。家にあった赤ワインを飲み、寝てしまったのだ。お父さんが苦笑しながら、お母さんを部屋へと背負っていった。


 その時、リビングのドアが開く音がした。見ると、お父さんだった。


「お母さんは?」


「あぁ、大丈夫だよ。ぐっすり寝てる」


 お母さんはお酒に弱い。それこそ、お猪口いっぱいで酔いつぶれてしまうほどだ。それなのにお母さんはお酒が好きで、事あるごとに飲もうとする。それではさすがにまずいので、私とお父さんとで説得して家以外では飲まないように言った。本当は禁止しようとしていたのだが、家でならお父さんが対処できるからと言う事で解決した。


 そこでふと、私はお父さんに聞きたいことがあった。


「ねぇ、お父さん」


 本を置いてお父さんのほうを見ると、手帳を開いていた。明日の予定確認をするようだ。


「ん、何だ?」


 お父さんは顔だけこちらに向ける。


「今日は、良かったの?」


「何が?」


「何がって……お祝い」











「今日は、二人が付き合いだした日でしょ?」











「……奏から聞いたのか」


 お父さんは軽くため息をつき、そう呟いた。


 何の因果か今日、つまり私が生まれる約20年前のこの日。私のお母さんがお父さんに、山城奏が山城優司に告白した。それから付き合い始めて、現在に至る。

 これは確かに、お父さんが帰る前にお母さんから聞いた話だ。


「お父さん、お祝いするつもりだったんでしょ?」


「……まぁな」


 私の位置からうっすらと見えるお父さんの手帳には、今日の日付に花丸がしてあった。それも、二つ。それがどういう意味なのか、さすがの私でも理解できる。

 今日はお父さんにとって、二つの意味で大切な日だったのだ。


「とはいえ、奏がああなることは予想できたさ。また明日にでも、お祝いするよ」


 そう言ったお父さんの笑顔も輝いていて、幸せそうだった。いや、実際のところ幸せなのだろう。二人を見ていると、心底そう思う。






 私は、どうなのだろう






「なぁ、未卯」


 突然、お父さんに話しかけられた。

 顔をそちらに向けると、お父さんはこちらを見てはいなかった。再び手帳に視線を落とし、確認作業を始めていた。リビングは静かで、時折聞こえるペンの音以外は全くの無音だった。


「何?」


「好きな人はいるのか?」


 お父さんは、いつもと変わらない調子でそう言った。詮索するようにというよりは、本当になんとなく、といった具合に。


「……さぁ、どうだろうね」


「そうか」


 私がはぐらかすと、案の定詮索してこなかった。本当に興味本位だったのだろう。


「もしいたら、どうするの?」


 私も、興味本位で聞いてみた。


「別に」


 お父さんもまた、淡白な答えを返してきた。こういうのを似たもの親子と言うのだろうか。そんなことを考えていると、お父さんが「ただ……」と続ける。私は再びお父さんの方に顔を向ける。




「ただ……いるんなら、頑張れよ」




 お父さんの表情は変わらなかった。一切こちらも見ていなかった。

 ただ、私は驚いていた。


「頑張れって……どういう、意味?」


「そのままの意味だ」


 お父さんは私の問いに対して、あくまで淡白に返す。


「俺が今から言うのは経験論だ。聞き流したければ聞き流せ」


 そう前置きをおくと深く息を吸い、吐く。

 そして語りだす。お父さんの、山城優司の恋愛観を。


「“好き”という感情は、持っていても仕方ない。あの人のことが好き。そう想い続けることで相手に伝わるんなら、告白なんて大層なイベントは必要ないからな。大切なのは、その“好き”って想いをどうやって相手に伝えるかだ。世間一般ではラブレターとかが定石なんて思われてるが、俺はそうは思わない。要は、当人が一番想いを伝えられる方法をとるべきだって事だ」


 私はいつの間にか、お父さんの話に聞き入っていた。ソファから起き上がり、体制が前のめりになっていることに気づく。

 でも今はそんなことよりも、お父さんの話が聞きたかった。


「奏は、ただまっすぐに自分の気持ちを伝えてきた。当時の俺は捻くれてたから適当にあしらってしまったけど、奏の気持ちはものすごく伝わってきた。だから、奏のとった行動は正解だったんだろう」


 お父さんはそこで一息間を入れる。そして私の方を向いて、再び話し始めた。


「みんながみんなそうしろとは言わない。俺が言いたいのは、どうすれば自分の想いをより上手く伝えられるかってことだ。奏には奏の方法、未卯には未卯の方法があると思う。だから、もし告白しようと考えてるんなら、もう一度その辺を考えてみてくれ」


 言い終えると、お父さんは再び手帳に視線を向ける。




「まぁ、あくまで仮定の話だけどな」




 その時のお父さんの言葉は、今まで聞いたどの言葉よりも白々しかった。


◇◇◇


「はぁ……」


 現在、私は自分の部屋にいた。

 考えるのは、さっきのお父さんの言葉。


「私には私の告白、か……」


 私の右手には今、ラブレターがある。それは私が3日かけてやっと完成したもので、便箋いっぱいに書かれた超大作だ。明日の朝にでも下駄箱の中に入れておこうと思っていた。


「……」


 でもさっきの話を聞いて、躊躇いが生じた。






 私は、彼のことが好きだ



 その気持ちに偽りはない



 でも、でも……



 このやり方は、自分らしい?






「……うん、そうだね。そうだよね」


 そう思ってからの私の行動は早かった。









 私は、ラブレターをビリビリに引き裂いて、ゴミ箱に捨てた。









 あれだけ時間をかけたのに、名残惜しくはなかった。


「そうだよね。こんなの、私らしくないもんね」


 他の誰でもない自分に言い聞かせながら、私は机についた。そして再び便箋を取り出して、手紙を書く。

 さっきみたいな長文とは違い、今回は二文だけ。それも、簡単に。






『放課後、屋上で待ってます

        2-A 山城未卯』






 直接伝える。

 お母さんがそうだったように。私の気持ちを、想いを、直接伝える。

 お母さんにできたんだ、娘の私ができない道理はない。


「想うのは誰でもできる、大切なのは伝えること……」


 お父さんの言葉を思い出して、反芻する。うまく伝えられるかとか、緊張したりしないかとか考えてしまうけど、不思議と不安はなかった。一つの事実が、私の背中を後押ししてくれる。怖くなんかない。


「私にだって、できるよね」


 だって、私は……






「私は、お父さんとお母さんの娘なんだから」






 20年近く前にお母さんが見ていた景色が、私にも今、見えた気がした。


どうも、検体番号10032です。

この度はご一読いただき、ありがとうございます。


前作の『告白』からのその後という形で書きましたが、いかがでしたでしょうか?


感想・ご意見お待ちしております。修正点やおかしなところがあれば、遠慮せずに教えてください。参考になりますので。


それでは。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 親子の絆と愛情・・・ 前回よりさらにしんみり来ます!! [気になる点] この場合、「直系」じゃなくて「直径」です
[一言]  はじめに訂正。15~6行目の『お父さんは恥ずかしがっているよだけど』となっています。  正しくは『いるようだけど』ではないでしょうか?    改めましてあくまでです。  作品、拝見させて頂…
2011/02/25 19:33 退会済み
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