失われた秘宝
ここは王城のとある一室。
二十代中頃のきらびやかなドレスに身を包んだ女性の前に、
三十代前後とおぼしき、身なりをきっちりと整えた、召使いのような女性が慌てた様子で、ドレスの女性に話しかけていた。
「な、な、なんやてぇ〜!!ちょっともっかい言うて??」
「あ、はい…王妃様。昨晩王城に何者かが忍び込み、王家に代々伝わる秘宝が盗まれてしまったのです…」
王妃様と呼ばれた、それでも見た目はまだ二十代中頃かと思われる女性は、手に持った丸いそれを、危うく床へと落としそうになった。
「王家に…代々伝わる…秘宝…やて…??」
「は、はぁ…」
「秘宝ってなんなん?」
王妃様は、まだそこまで王城のことを実は知らなかった。何せつい数ヶ月ほど前に、婚約者であったカイン陛下に正式に妻として迎えられたばかりだからである。
ちなみに王妃が手に持っていた丸いそれとは、たこ焼きであった。
え、たこ焼き?異世界でたこ焼き?あ、そうなんだね。そういうのもありなんだね。アリらしい。
そして、新米王妃に報告をしに来ているのは、王妃専属の女官、セシリアである。
「王妃様。秘宝とは、あまり公には言えないのが秘宝と呼ばれる所以ですので…なのでお耳を拝借…」
セシリアは王妃の耳元でコソコソと小声で伝えた。
「うそ〜ん!!そんなんが秘宝!?マジかいな〜!どんだけ〜!!」
まぁまぁ軽い王妃である。まぁ…元々この王妃は、異世界より数年前に転移されたという、ごくごく普通の平民なんですけどね。
というわけで、そろそろお話の本題に入る前に、このバリバリ関西弁の、二十代中頃で何故か王妃になったという、たこ焼き大好きな女性の紹介をしましょうか。
彼女の名は…王妃サトリーヌ!!
え、知らない?まぁそんなに有名ではないからね。
◇ ◇ ◇
「まぁ一応話はわかったわ。その例の秘宝が、なんかよーわからんけど、謎の侵入者に盗まれたっちゅうことやね?」
「はい、その通りでございます。あの…そのお手に持ったたこ焼きはいつお召し上がりに…?」
セシリアはサトリーヌの持つたこ焼きが凄く気になるようだ。
「もぉセッちゃん、細かいこと言わんといて〜。このたこ焼きは、ホンモノのたこ焼きやなくて、この前カインちゃんにプレゼントしてもろた、たこ焼き風アクセサリーやねん」
あぁ、そうですか。もう説明するのもあれですね。
「そ、そうでしたか。話を戻しますが…昨晩何者かに秘宝を盗まれまして。もちろん王家に伝わる物が盗まれてしまったことも問題ではあるのですが、それ以外にも少々厄介なことがございまして…」
「厄介なことってなんなん?」
「はぁ…先ほどお伝えした秘宝の力がとても危険であること。あともう一つは、これは私の推測ですが…秘宝を盗んだ者は、王城内部の者であることです」
セシリアはため息をつきながら話す。
「な、な、なんやてぇ〜!!」
もうオーバーリアクションはいいですよ。
「秘宝の力ってなんで危険なんやっけ?」
「王妃様…先ほども言いましたが…ゴニョゴニョでございまして…」
「あぁ〜、そんな感じね。あっ、なんかその力ってウチがここに転移してくる前の世界で、そういう力を持ってる男の子がおったわ!」
「王妃様!しーっ!でございます!誰が聞き耳を立てているかわかりませんから…」
セシリアは本気でサトリーヌに苛ついていそうだ。
「あ、ごめんごめん。んで、犯人は王城内部の人間っていうのは、なんか理由はあるん?」
サトリーヌ王妃は、実はサスペンス大好きな女の子だったので、そういう推理というか、考えるのが大好きなのだ。ただの野次馬大好きということもある。
「それは…まず秘宝が置かれている財宝室は王城内部の地下二階にあるからです。そこは城の内部からでしか入れませんし、鍵もかかっています。あと、王城に入るための門は、日が暮れる前に必ず固く閉ざされますので」
「んー…まぁ普通に考えたら、昨日の晩の内に外部から城に入って、なおかつ地下二階の財宝室に入って、鍵を開け、その秘宝を盗むのは無理っちゅうことやね」
「左様でございます」
サトリーヌは手に持ったたこ焼き…風のアクセサリーをほっぺたに当て、しばし考えた。
「うーん…せやなぁ…」
「サトリーヌ王妃様…?」
しばらくしてサトリーヌは口を開いた。
「お昼ご飯何にしようかな、と思ったんやけど」
「ズコー!!!」
セシリアは口に出しながらズッコケた。こいついい加減にせえよ、と心の中では思ったが。
まぁでも、憎めない性格であるのと、セシリアもサトリーヌが王妃になる前からの付き合いなこともあり、仕方ないと諦めつつ、自分もお昼ご飯のことを考えた。
前代未聞のたこ焼き王妃サトリーヌ。
王妃になってからわずか数ヶ月で、
いきなり舞い込んできたトラブル。
果たしてこれは何かの陰謀なのか?それとも…?




