正当な王位継承者。小心者。
エルメロスの話は続くとニコラとハーティを改めて呼び出し、全員での緊急会議。
ハーティもただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、発言に慎重になっている。
一方のニコラは、何が来ても受け止める、と言いたげな様子。
そんな中、ソワソワしてる人が一人、ギルメイだ。
先程から様子がおかしいような事ばかり言っていて、まるではぐらかそうとしているかのように、露骨だ。
エルメロスの発言の度に被せるし、重要なことが言われそうになったら被せるだろうし正直めちゃくちゃ嫌なやつに見える。
「ギルメイさん⋯落ち着けないのなら記憶、覗いて共有しますよ」
「そ、それは⋯すまん」
僕の脅しに屈したのか、妙に大人しくなった。
そして、ギルメイが落ち着いたのを確認し、エルメロスはやれやれと口にしたあと、事の顛末を説明し始める。
ギルメイは実は逃げ出した王族の人間であること。国が今王族であるギルメイを擁立しようと本人を探していること、当の本人は乗り気じゃないことをありのまま全てを話した。
そして、ギルメイはしょんぼりしている。そんなにバレたらまずかったのか。
いやまあ、王族というのがバレたら色々大変なこともあるだろうが、今はそんなこと言ってる事態ではないし。
緊急を要する事態のため、本人にはこのまま大人しくしててもらおう。
「ギルメイさんがこのまま国に残って王位を継がなければ戦争は避けられないと思いますよ」
「そ、それはそうなのだが⋯」
「目的を忘れないでくださいね。自分たちが戦争を止めにここに居ること。そして、テオくんには本来貴方に繋がる物を探してもらう予定だった、ということになるんでしょうが」
冷静に、端的に事を伝えるエルメロスからは知的な雰囲気を感じた。
ギルドのブレーンと言ったところか。
もっとも、実力も折り紙つきということで今回同行している。
「あの、僕からもいいですか?」
「テオくん、記憶覗いたんだろ?」
「はい。だからこそなんですが」
ギルメイが迷っていること。
兄と比べて自分には政治の力が無いこと。
そして、大臣の裏でのやり取りを知ってしまった為、余計に悩んでしまったことを伝える。
もっとも、本人はさっきから黙りこくってしまってるのだが。
「ふむ⋯コンプレックス、ですね」
「そんなハッキリ言うなよ、かなり重要な事だぞ」
コンプレックス、という言葉に反応するようにそれまで黙っていたギルメイが口を動かす。
しかし、本人の悩みもわかるし王になればサブラスや他の国とも色々執り仕切る立場になる訳で。
エルメロスと違いあまり知識方面の自信が極端にないギル名にとっては死活問題なのだろう。
もっとも、この会議は本人を納得させるというフェイズに突入しつつある。
話し合いはずっと続いた。
ギルメイの処遇についてでありサブラスにとっても重要なこの議題に、ハーティは少しだけ乗り切れないように思えた。
はたまた、何かをずっと考えて居るのか。
周りと目配せし、ソワソワしているようだった。
おそらく、ハーティは少し立場的に自分が必要なのか口出ししていいのか、というのを気にしてるんだろう。
「ハーティ、何かあるなら俺たちに話せ」
「でも、エルメロス⋯」
「なんでもいい、思ってることは話せ。そのための会議だ」
エルメロスの言葉に何かを受け取ったハーティは先程とうってかわって何かを決心する顔で発言をする。
「一度、ギルメイさんのメモリーストーンを共有するべきでは?打開策はそこにあるかもしれないですし」
大事なことだった。
⋯というか、エルメロスは大事なことを黙っていたギルメイに対して怒りを隠せなかった様子だし、少し冷静ではなかったので完全にその事が頭から抜けていたのだろう。
ハーティの発言で我に返ったエルメロスは取り乱していたことを謝罪してギルメイは押しに押されて観念したのか、メモリーストーンを荷物から取り出し、全員に共有した。
そこからの話はスムーズだった。
ニコラ、ハーティ、エルメロスとそれぞれメモリーストーンに触れ、ギルメイの記憶を覗く中で、全員が口を揃えて発言した。
かくいう僕も、きっと同じ事を口にしていただろう。
全員が、「アドニスタさんに会いに行こう」そう発言した。
アドニスタさんはギルメイや前国王の世話係をしていた男だ。もしまだ王宮内に彼がいるのであれば、話はかなり早いだろう。
それに、アドニスタさんから推薦があればギルメイも自信をつけてくれるかもしれない、という期待込みだ。
「アドニスタか⋯手紙は兄上が死んだ時の報を俺に知らせた時以来音沙汰はない」
「とりあえずギルメイさんは謝る余裕があるならさっさとアドニスタさんの情報を集めるのに足を使ったらどうですか」
先程とは違い、冷静になったエルメロスからの厳しい一言。
流石のギルメイもこれには堪えたのか、一人宿を後にし、探してくる、と一言残して出ていった。
もちろん、アドニスタさんのことはギルメイがいちばん詳しいはずだ。足取りを追う手がかりには見当がついているのだろう。
サブラスを出た時はたくましかった背中が今では猫のようにしょんぼりしてしまったのを見守りながら、僕たちはアドニスタさんが見つかったあとのことを話し始める。
もちろん、本来の目的を遂げるための貴重な一歩だ。本人に国を治める気があるかどうかは関係なく、目的を果たすまでグッと近づいたこの好機は逃すべきではないだろう。
会議はスムーズに、かつ迅速に進んだ。
目的を達成するためにもう少しのところまで来ているから、全員気合いが入る。
当面の目的はアドニスタを探し出してギルメイを国王として擁立した後、サブラスとは和平なりを結び、戦争から遠い位置にスベラルとサブラスの関係を置くことになるだろう。
推進派のスパイは少し気がかりだが、少なくともサブラスに戻る頃にはいい知らせを国のギルド経由で国王に一報入れることができるだろう。
そして、僕の国での立場も少しだけ上がるかもしれないと淡い期待もあるが、今回に関してはギルメイの方が目立った活躍をするかもしれないし後は様子見だ。
「逃げたりはないよな?」
「まあこの状況で逃げたらどうなるかわかりませんからね」
そんな会話をしている中に、突然ハーティが口を挟む。
「あの、私追いかけてもいいですか?」
「ん?ギルメイさんをか?」
「そうです」
ハーティは少し複雑な顔を浮かべながら提案した。理由としては少しだけギルメイの立場にシンパシーを感じるということで放っておけないかららしい。
まさか、ハーティも王族じゃないよな?
「それはいいが⋯シンパシー、というのは引っかかる」
「あ、そこは平気ですよ。ただ単に私もサブラスに居る兄妹にコンプレックスがあるだけだすので」
「へえ、ハーティちゃん兄妹いるのか」
まあ、なにか気になれば後でいくらでも記憶を見せてもらえる、はずなので今はハーティの意思を尊重し、ギルメイを追いかけさせる方がいいかもしれない。
エルメロスとニコラはこうなるか、という顔をしていたが。
「エルメロスさん、ハーティさんは追いかけさせた方がいいと思います。気になるなら後で無理にでも記憶覗いてほんとかどうか確かめるだけですし」
「まあ⋯一理あるな。嘘かどうかはテオが判断出来るからな」
「そんなにいい記憶じゃないですよ!」
ハーティは少し顔を赤らめながら、なにか覗かれては困る事があるのか、とツッコミ待ちのような態度だった。
話がまとまると、ハーティはギルメイを追いかけ、宿をすぐに出ていった。
ギルメイ程の大男ならば、ギルド等に目撃情報はすぐに行くはず。
それに、もしスベラル側がギルメイの帰郷を知っているならば国総出で居場所を探すはず。
ということで暫くはほうっておいて平気だろう。ということになった。
「さて、テオには少しやって欲しいことがある」
「僕に?」
「少し気がかりだったのでな。スパイだったヤツは今ギルドに身柄を預けてある」
エルメロスさんはてっきりスパイをボコして野放しにしたと思っていたが、ギルドに引き回し身柄を拘束させていたらしい。
そして、僕に頼みというのはことがすんだ後、土産話として朗報を持ち帰れるようにスパイから少しでも情報を引き出して欲しい、というものだった。
もちろん僕もスパイに関しては気がかりだったので、断る理由は無く、快諾した。




