閑話7~9。男の独白。
スーベルニカという男の野望は程遠い未来はでは無いのだろう。
スーは頭がいいから、すぐにそれを叶えてしまうだろう。
だけどそうなったら世界はどうなってしまうのか。
人類をひとつにまとめた存在にする……それはもはや人類なのだろうか?
「でも具体的にループってどうやって証明したんだ?」
「スーベルニカが今こうして科学の力で成り立ってる経緯、それは知ってるね?」
「うん。魔法派から勝利して今の地位だろ?」
「そう。ではもしもその前に科学の痕跡があれば?」
「まあ、魔法の前に科学が広まってた、ってことになるのか?」
「そう。魔法の前に科学が発展していたと証明すればいい」
そういうと、地層の話を始めた。
まず、地層というのは数億、数千年かけて出来上がるものであり、この大地はそうやって長い年月をかけて領地を広げてるのだと。
その説明は、凄くわかりやすい。
だけど、それだけでは証明できない。
「私はね、とある島にて地層の研究をしたんだ」
「それってでも科学ではなく歴史学だろ?」
「そうだね。だけど、私は思うんだ。歴史があるからこそ科学という存在は成り立つのだと」
「……お前の科学は歴史が先に来ると?」
「Exactly。故に地層の調査から入ったわけだ」
ひたすらに地面を掘っていく作業なのかと思ったが、そこは科学の国。
機械の力で人間が何年もかけなければ不可能なレベルの地層の掘り進めが行われたと言う。
この世界において今まで地層まで研究した人間は居ない。
スーが最初の人間ということになる。
それ故にスーの研究に興味を示す人間はスーの研究に金を落とし、捗らせた。
主に科学を便利に使ってる国などからの支援だ。
筆頭の支援はスベラルという国らしいが。
「スベラル王は私の研究にかなりの興味を示していてね。サブラス大図書館の一部の資料を借りてこちらに送ってくれたんだよ」
「サブラスとスベラルへ元から仲のいい国、だもんな」
「そこの歴史資料にはね、魔法が繁栄する前の情報がないのだよ」
「……もみ消された、って言いたいのか?」
「いいや違うね。人類は1度どこかでリセットされてるんだ」
考えが壮大すぎてたまにスーのことがわからなくなる。
スー曰く、異世界人が来たタイミングが正確では無いという。
というのも、この世界の歴史において異世界人は最初に魔法派が無理やり開けた異世界とのゲートを通して……って流れが伝わってるが、それ自体がまず間違いなのだと。
スーベルニカの目標は高く、鋭く。
全ての厄災から人類を救う。
「ループで保存されない技術を持ち越すためにも人類はひとつになって『人類である』という前提から逸脱すればいいし、その為に私が悪になるならそれでいいだろう」
「自分が悪でもいいと」
「そう。悪でもいい」
ループすればするほど人類は「その先の未来」を失う。
あるかもしれない未来を失うことは、尊さを捨てるようなもの。
「地層調査で見つかったのは技術の痕跡だけではなくてね」
「ほう……」
「魔法の痕跡もあったんだ」
「魔法の痕跡?」
「魔法は継承のために色々手段があったみたいでね。石版が見つかっている」
魔法の継承は石版にその力を保存し、それに触れさせることで継承させる方法や、魔法を直接触れさせて継承する方法など様々な方法があったらしい。
そのうちの一つが、石版での継承。
「石版が見つかった以上、少なくとも魔法と科学は1度どちらが上かをやったことになる」
「石版は科学の痕跡より下の層に?」
「そうなんだ。下の層にあったが故にループしている証拠になる」
言ってる事の理屈こそわかれど、やはりループしている、という事実は少し複雑だな。
人類はそれが発展する事に捨てられることになるということだし。
発展した先に世界にとって不都合な未来が待っている……ということだろうか?
「石版に触れさせて……っての、異世界人が絡んでると思わないかい?」
「……!たしかに……能力に似てるね」
「それはすなわち異世界人がもっと昔からいた事の証明なのだよ」
もしそれが本当なら、一体何人がこの世界で死んだことになるんだろう。
突然知らない世界に連れてこられて、ループに巻き込まれて死んでいく。
異世界人にとってもいい話ではないから何が起きても文句は言いようがないだろう。
「地層の調査はまだ続いてるんだ?」
「うむ。思ったよりもこれがしぶとくてね。地層というのは下へ行くほど固くなるものだよ」
「それはまあ経年の積み重ねとかだろうし」
「だけど辞める気は無いよ。ループの証明は世界を救うことにも繋がるからね」
スーは本気だ。
本気でこの世界をループから脱出させて救おうとしてる。
だけどなんだろう。この虚しさは。
スーの覚悟はわかるが、その先に持っているものに虚しさや寂しさを覚えた。
先日、私の理解者であったヒグチが死んだ。
生前の約束により、彼がいた痕跡をこの世界に残すため、私はヒグチを名乗ることにした。
ヒグチ=スーベルニカ。私の新しい名前である。
ヒグチは本当によくやってくれた。
私の事を理解しただけでも偉いのに、私の良き理解者として居続けてくれた。
彼の死因はこの世界に適合できない故のウィルス性の病。
異世界人特有の病らしく、研究が足りずに治すことはできない。
治療方法が確立されていないがゆえの悲劇ではある。
だが、ヒグチの死は無駄ではない。
生前の契約通り、彼の脳みそは生きてるうちにモドキの初期型に移植され、今こうして私の護衛に着いている。
初期型故彼の人格が残ってしまっているが、それでもモドキの研究の礎に慣れたのはでかいだろう。
「よろしく頼むよ、プロトタイプくん」
「記憶を読みますか?」
「今はいい。それよりもだ」
私の目標を知る人物は居なくなってしまったが、だからといって歩みを止める私ではない。
居なくなってしまったなら、もはや誰にも知られることなく野望を実現しよう。
そのためにも…私の雲隠れはバレてはいけない。
「マダスカルの様子はどうだ?」
「特に異常なし。スーベルニカ国民からの評価も高いです」
「ふむ…ならば問題ないだろう。マダスカルが目立てば目立つほど私の目標を知る人間は近づかないし、そして私の目標の成功率が上がるからね」
世界をひとつに。人類を1つに。
そんな野望、バレてしまったら止められるかもしれないからね。
このままマダスカルを表立って王として祭り上げ続ければ私も自由に動けるというものだ。
「いいのですか?国王」
「私は国王という地位にこだわりはないよ。そんなことなら研究をしたいからね」
「わかりました」
異世界人が居たということは転換点だったということ。
その転換点が何だったのかはまだ分からない。
もしかすると、モドキを完成させる。
それ自体が転換点だったかもしれないがね。
「ああ…美しいよ、ヒグチ…」
世界はいずれ私の思い通りになるだろう。
それまでは…しばしのお別れだ。




