ディストピア。推進の先に。
その後の任務も軒並み失敗。
モドキになった人達はその便利性からモドキの身体を十分に堪能してしまっている。
何故そうなったのか。
簡単だ、元々そういうふうに仕組まれていたから。
H13個体はたまたま当たりを引いた、という感覚に近いだろう。
あの人がたまたま未練が残っており、自我が復活した、そんなところだろう。
「記憶の宿るのは脳みそ……って結論でいいのかな」
「おそらくは。その力は本人が覚えてない記憶も呼び起こせるのでござろう」
つまりどれだけ記憶を消しても僕後からなら復活できるってことか。
「便利なのか不便なのか……」
「忘れないことが重要ならば便利でござろう」
それにしてもだ。
問題はそこでは無い。
無所属を謳うこの国においてここまで推進派が幅を利かせてしまってる以上、もう無所属を貫き通すのは無理に近いだろう。
そうやって人間は便利さ等で簡単に心を奪われてしまうものだ。
「どうしようか、これから」
「魔法継承の人材は欲しいでござるな」
「まだこの街でやれそうなことがないか色々当たってみますね」
ハーティは残りの仕事、セネガさんは機械達の構造を完全に把握すること。
僕は……なにしよう。
「テオ殿、モドキからこんなものが」
「これは?」
「おそらくは銃の類いでござるな」
「銃……そっか、この世界にもあるんだ」
「腕に多少の筋肉は必要でござるが護身用としてはこれ以上と無いほど便利でござろう」
そう、便利なのだ。
銃は特に誰にでも使えるように調整されてるから、素人が当てようとしなければ問題なく使えてしまう。
だからこそ僕のいた世界では銃を禁止する国もあったし、平然と向ける国も様々だった。
だが、この世界はもはやモドキとヒトガタが同時にいる以上、その銃の威力は元の知識のそれではないだろう。
モドキを殺せるだけの性能の銃なら、ヒトガタなんて形も残らず吹き飛ぶだろう。
「魔法も剣術も無理ならこれしかないか……」
「練習するなら街角の誰も世話しなくなった木がいいでござろう」
「ありがとう、そうするよ」
いよいよ、僕も護身用にこう言ったものを使わないといけないフェイズなのか?
自分の命を守るために銃を手にした僕は、大事な時にミスしないように銃の扱いを手とり足とりセネガさんに教えてもらう。
この世界の銃は撃つ際に相手の体温を検知し勝手に補正する機能が付いているので、僕のいた元の世界のものより明らかに誰でも使えるを強調している気がする。
手ぶれ補正をかけるようなものだけどもしモドキに使うならモドキには体温がないため補正はあまり受けれないだろう。
逆を言うと、ヒトガタが相手ならかなりの効力が望める。
剣よりは明らかにマシだけど、銃だって反動はそこそこ大きいし、なにより弾倉があるとはいえ1回1回の弾のリロードには時間はかかる。
扱いに長けている人間が今この場にいる訳では無いので、町外れの場所でこうして訓練あるのみだ。
「お兄ちゃん、それなぁに?」
「ああ、これは危ないものだよ」
どうやら何かしてるという情報が独り歩きしたようで、子供が何人か僕にそれはなに?と聞いてきた。
もちろん彼らに持たせるのは危険ゆえに遊ばせたりはしていない。
「君、お母さんやお父さんは?」
「ママはおうち!パパはどっかいっちゃった!」
「どっかいっちゃったのかい?」
おそらくはスーベルニカの事だろう。
人さらいとかそういう物騒ではなく彼らはあくまでこの主張を重んじるようで、本人が行きたくないといえばスルーした可能性はあったかもしれない。
「パパいなくて寂しいかい?」
「うんー!この街ね、ロボットさんが沢山いるの!」
子供視点ではモドキはしっかり認識できているらしい。
子供は見えるものにベタベタ触りに行くようだし意外とバレやすいのか?
「お父さんはろぼっとさんかい?」
「うん!パパもぼっとさん!」
その後話を聞くと、どうやらこの子は1度断られているH15個体の子供らしい。
「ママ、なんか言ってたかい?」
「なにもー!パパを頑張って助けたいって!」
子供は純粋だ。きっと親の言うことはなんでも聞いてしまうだろう。
時に残酷な決断だって子供に強いることはある。
そうして決断した先に不幸があるのなら、僕はそんな不幸はいらない。
「パパ、元に戻って欲しいかい?」
「うん!」
この子のためにも、もう一度しっかりと奥さんと話をつけなければいけないな。
セネガさんとハーティに合流の合図を出し、もう一度H15個体の奥さんの元へ。
合流後すぐにあの時の奥さんの元へすぐさま駆けつけた。
もう一度考え直して旦那さんのことをしっかり結論を出して欲しいと。
「旦那は戻りますか?」
「記憶が戻り身体は治りませんが以前の旦那さんには戻るとは思います」
やはりネックなのは機械の身体に1度写ってしまえば生の肉体は防腐処理して保管しない限り腐ってしまうことだ。
肉体の劣化はどうしても変えられないし、身体を動かす重要な器官である脳みそを失ってしまえば心臓が動いてようがなんだろうが死んだようなものだ。
H15個体の元の身体も……
そもそもモドキは生だった時のガワを使って限りなく人に近づけている。
故に触れ合い体温を感じたりしない限りは気づくことはまず不可能。
しかし子供は純粋であるため見破る可能性はある、と……
「先程奥さんたちの子供に会いました」
「まあ、ネモが……なんて?」
「パパは機械のままだけど昔に戻るかもと言ったら喜んでました」
「そう……」
数分の沈黙の末、奥さんは1つの決断をして僕たちにその決断を伝える。
「私の記憶で戻るなら、夫を元に戻してください」
「もちろんです。そういったモドキにされてしまった人たちを元の性格や人格に戻すために僕たちは来たので」
人間時代の記憶が奥底の深層心理に刻まれている限りきっと元の人格や性格は取り戻すことができるだろう。
それもすこし都合がいい気がするが、実際問題それで元に戻ってる人がいるのだから仕方ない。
「では、記憶をお預かりしても?」
「どうぞ」
奥さんの記憶に触れ、旦那と子供と三人で遊んでる姿や結婚した時の記憶など……深層心理に訴えかけるような記憶を中心に奥さんから記憶を抽出する。
これで戻ってくれればありがたいかま、もうひとひねり必要だろうか……
「子供の方も預かってみては?」
「そうだね。その方がいいかも」
今回は奥さんと子供2人の記憶をH15個体に譲渡することになった。
H15個体は倉庫に戻るとすぐさま記憶を渡せるような状態になっていた。
「ありがとうございます」
「こやつは少々頑固で厄介じゃぞ」
「元の性格が、ですよね?」
「うむ」
しかしモドキになっては頑固とかそういうのは無くなってしまう。
だからこそ、記憶を彼に譲渡した際の反応がとても大事だ。
彼を救うことができるのか……それだけが心配だった。
この街は既に終わっているようなものだが、見捨てるかと言われたら間違いなか見捨てない。
ディストピアというものは僕の元いた世界におけるSFジャンルの一つだが、荒廃した世界や機械による人類の制服などがそれに該当する。
要はどうしようも無い世界のことをディストピアと言ったりするのだが、この世界は生憎だが機械と生身のヒトガタが入り組んで跋扈する世界でありさらにはそこに魔法というファンタジーも加わってくる。
幸いにも魔法は現在ではほぼ絶滅状態であるが、それでも存在自体が消えた訳では無いから、機械と魔法が共存することは無いとはいえ大変なことになるだろう。
というか、機械が魔法を使えたら絶望しかないだろう。
この世界の魔法の理屈が空気中に発生しているマナを使っている原理だとしても、人間が居なくなればマナは勝手にどんどん溜まるらしいし、マナが溜まりすぎると人体に悪影響だともいう。
それはを克服できてしまう機械化は、ある意味では相性がいいのだろうが……
機械ではマナに干渉する手段が無いため、残念ながらモドキにされた人たちは魔法の適性がゼロということになる。
図らずしも、推進派が台頭することになった魔法の才能がゼロの人達のような感じだ。
魔法はマナを肌で感じ、マナをイメージ通りに体内で生成させ、発生させる。
その過程があることにより、機械では無理ということだ。
「みんな嫌がるね。戻るの」
「一度楽をしたらめんどくさい方に戻りたくない、というのに似てるでござるな」
それはそうだ。
モドキになればヒトガタの時に不便だったものが全て解決する。
飲まず食わずでも平気だったり、海などでふやけたり体温の上昇がなく死ぬリスクがなかったり……
オマケに本体のコアが生きてれば何度も再生可能という便利すぎるものが付いてくる。
この世界に人間が推進派を否定するものが居るのはそういう人としての生を実感する機会が失われることを危惧して、というのもあるだろう。
生きてることに価値がある。肌で感じるから意味がある。
人というものはいつだって肌で感じて生きてきた。
機械になれば進化すらも難しくなるだろう。
人の進化に科学が介入してしまえば、それはもはや強制されたかのように窮屈になってしまう。
そんな人生は僕は嫌だな。
「一度ギルドに戻りましょうか」
改めて今後のことを話すことにしよう。
倉庫の整理を手伝っているときだった。
というより、モドキの心臓部についてセネガさんと調べている時のことだった。
「ん、んん?」
「どうしたの?」
「これは……」
見本のモドキの部品をそれぞれの部品に解体して行く時のことだった。
「ここにクリアランスがあるのは少し妙でござるな」
「んー、この部分って何が詰まってるの?」
「この部分はいわばデータのやり取りをする受信機の役割でござるな」
受信機の役割、ということはおそらくはスーベルニカへこの個体を通して常に見ているぞ、的なことだろう。
もっともこれはモドキの取り扱いを覚えてもらうための見本品のモドキなので、そういった回路は搭載していないが、本来であればここにスーベルニカに繋がるものが……
「H15とH12の個体は特にセキュリティが厳しい、とかないよね?」
「それは問題ないでござるな」
ハーティが指示書の通りに分解するセネガさんにその部位の構造を伝える係をやっていたのだが、そこでも1つの気づくことがあったと言う。
「これ……ここです、ここ」
ハーティが何やら分解図に違和感のある場所を見つけたようで、セネガさんが部品を一つ一つ分解していき、その疑問が浮かんだ部分をいじる。
「む、確かに……」
脳みそが移植されてる、にしてはプログラムに忠実だし感情や性格などがわからないのはモドキ数体を通して僕たちも知っていたが、問題なのはここの部品に小さい部品が組み込まれている事だ。
チップのようなもので、それは心臓部分にひとつと、そしてもうひとつは……
「脳みそに直接、じゃないよねこれ?」
「いや、おそらくは構造的に……」
分解してみて判明したのだが、なんとスーベルニカの技術班は脳みそという唯一の生身部分に手を加えてるらしく、脳の信号伝達に使う神経に無理くりチップを埋め込んでいるらしい。
「これは取り出したらまずい、よね?」
「流石に脳に直接でござるからな……」
「町長さん、既に使えない個体とかは居ないですか?」
「む、故障して全く動かない個体ならいるぞ」
流石に脳みそが生きてる個体に対してこのチップを引き抜くのは人権的にも倫理観的にもまずい、ということで廃棄が決まっているモドキの個体でそれを直接確かめることにした。
「データチップがスーベルニカで作られてるものならヒントがあるかも」
「なんならチップを回収して中身を見るのもありでござるな」
「中身、見れるの?」
「エルメロス殿からこちらを預かってるでござる」
そういって取り出したのは小型のデバイス。
「これにちょうど使えそうなチップでござるな」
機械を否定する立場とはいえ利便性から積極的に使えそうな物は取り入れる、というのがエルメロスの方針だが、今回はその方針が役に立ちそうだ。
しかし、このチップの中身がまさかあんなことに繋がるとは……




