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機械の技術が発展した異世界に召喚された僕が記憶屋として成功するまで  作者: 凪笠シメジ
国渡編

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男の記憶。一致。

男の記憶を覗く。


それは深層心理に問いかけるものであり、封印されていたとしてもその上から記憶を見ることができるのだろう。


しかし、スーベルニカ関係の記憶だけごっそり無くなっていた。


情報規制のためだろうが、なんか悔しいな。


「さて……どうしたものか」


一応は深くまで入り込んで、スーベルニカ前後の記憶までは引き出すことができた。


だけど、これを渡す……のか?


「……!ナンと、コレがワタシ?」


「え、あ、そうです!」


深くまで見た記憶は、封印が無くなったらしい。


男の記憶は巻き戻され、ここ数ヶ月のものが無くなる代わりに、ヒトガタ時代の記憶が蘇ってくる。


「そうか……そうか、そうか。これがワタシの」


「名前、わかりますか?」


「ワタシ、ナルヒト」


「一致してますね。確かに彼がナルヒト=アグラパッチさんみたいです」


なんとか大事な部分の説明はしないで済みそう……かな?


男の記憶が戻ったということは、この次に注意しなければいけないのはーー


「アア、何故ワタシは機械に?」


「前後の記憶だけはどうしても戻すことが出来ませんでした」


「キオク、見たのか?」


「それが仕事なので」


「ソウダ、ヨメサンはナント?」


「元の旦那さんの性格に戻ったら一緒に暮らしたい、と」


「ソウカ、ソウカ……でも、このカラダでは」


「それは……大丈夫です。奥さんは何となく察してますから」


「アリガトウ」


そういうと男は自分の蘇った記憶を頼りに、奥さんのまつ家へ消えていった。


「これで、よかったかな?」


「モドキを元の人格に戻す、その一点においてはかなりいい成果ではないですか?」


「そうだよな。モドキになったら戻れない、ってのが常設だったもんね」


モドキの身体はもうどうしようもない。


だけど、機械の身体だとそれはそれで便利な部分もあるだろう。


「残りの人たちもやりますか」


「H13とH15の人ですね」


「H15の人に関しては奥さんの許可がないとダメだ。13番目の人から先にやろう」


「それなら私は3人分しっかり覚えてますよ」


「あの、おじさん。13番目の人の家は……」


「H13個体の人はヒラガ=マニュピスさんですね」


「ヒラガさんの家はご存知で?」


「もちろん。案内しよう」


町長のおじさんの案内の元、2人目のモドキを助ける為の訪問が始まる。


H13。


ヒラガという男の家族を訪れる。


妻子持ちだった彼はスーベルニカに戻ってから以前よりおかしな行動を取るようになったと言う。


「例えばですがどんなことを?」


「そうですね……まず、食事が無くなりました」


モドキは食べ物などのエネルギー摂取がなくても生きていくことができる新人類を掲げている。


ならば食事が無くなるのも必然だろう。


だが、ヒラガという男に関しては以前より断食をしていたというのはこの時聞いた事だ。


「旦那はオフェニス教の信者ですので……」


「なんと、オフェニス教でござるか」


あとから聞いた話だが、オフェニスというのは魔法を司るこの世界の神だと言う。


いわば魔法は彼の存在から派生した存在であり、1度は滅びた魔法の終着点は現在ではアニュラスで出会ったじいさんである。


「魔法を心酔していたんですか?」


「ええ、祈り続ければいつかきっと魔法が復活する、と言っても聞きませんでした」


「なるほど……ですが彼はきっとどこかで魔法の存在を遠いものだと思ってたのでは?」


「旦那は1度決めたことは決して投げない性格でしたので……有り得るかもしれませんが」


「魔法は実は最後の後継者を名乗る男にあっておりまして」


「まあ……!なんと……」


じいさんが魔法の終着点なのは事実であり、変えようがない。


そして、男が信じた魔法も今、この手にいつでも継承出来るようになっている。


「僕は記憶を渡したり覗いたりが仕事でして……当然、魔法に関しても継承権がある人に渡すことができます」


「あなたも魔法が?」


「いえ、僕は適性がなかったので」


「旦那は、なんとかなりそうですか?」


おそらくは彼がスーベルニカの徴兵に応じたのは魔法の存在を否定しきれないが故に機械という身体に頼りたかった、とかだろう。


そんな男にもし魔法の継承権がある、なんて言えばきっと食らいついたろうが。


今は彼の記憶を戻してしまうことが最善だ。


「奥さんの記憶から旦那のモドキに移植された脳みそに訴えかけます」


「それで……旦那は帰ってくるのですか?」


「身体は機械になってしまいましたが、以前の旦那さんに限りなく近く戻ることを約束します」


先程の男が問題なく過去を思い出し自我を取り戻した。


ならば、きっと今回のヒラガという男も戻ることだろう。


ヒラガという男の記憶を見る前に、奥さんの記憶を見せてもらった。


それはそれはもう円満な夫婦関係と子供との距離感で微笑ましかった。


そんな男が人生に疲れかけていたなど、到底信じられない。


オフェニス教徒である彼に魔法の存在を知らせたかったのもあるが……とはいえ、彼のことを救うのが先決。


奥さんの記憶を前の手順と同じように、モドキの記憶回路の近くにセットする。


そうすることで、生きた脳に直接メモリーストーンによる保存された記憶が流れこみ、男の封印されていた記憶が蘇るだろう。


「ム、ムム」


しかし、男の反応は予想と少し違った。


何故か困った様子。


「わかりますか?」


「ワタシ、フジユーしてない」


「えっ?」


男は記憶を触れたにも関わらず、拒んだ。


おそらく記憶は流れ込んだだろう。


だが、自分の意思で記憶が封印された要領域から引き出されるのを拒んだ。


生物的な反射的拒否ってことだろうか?


「キカイのカラダ、ベンリ。モドルなんてカンガエナイ」


「ですが奥さんも心配してますし……」


「ワタシハヘイキダ。ムシロケンコウダ」


男はそういって記憶の譲渡を拒む。


「困ったな……」


男が拒んでいる理由はおそらくは不自由な身体ではない、この一点だろう。


オフェニス教徒は一時期から断食すると奥さんも言っていたが、完全断食を出来る機械の身体が馴染み深い、とかだろうか?


確かに機会ゆえに断食しても筋肉が衰えたりで身体の劣化はないが……それでもそこまでこだわるだろうか?


「キカイ、セカイがカワッタヨ?」


そういうと男は永遠と機械の魅力を語り出した。


それはもう、永遠と。


曰く、男は機会の身体で不便がない今の方がいいとの事。


肉体という物に縛られていては幸福が逃げてしまう、なんてちょっと危ない発言も度々していたが、極論言うと劣化しない身体だからこそ劣化する身体を捨てられて最高。


お前に考えることに疲れ切っていたのでプログラム通りにしか動かなくていい今がかなり楽、との事。


「困ったなぁ」


「まあでも本人これじゃあ仕方ないですよ」


「今回は失敗、ということで諦めるでござろう」


初の任務失敗、結構響くなぁ……本人に拒まれた以上それ以上もそれ以下も無いのはそうなんだけど、奥さんの気持ちを考えると、少しやるせない。

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