モドキとヒトガタ。共生の道は。
街の静けさはすぐ頭の理解に追いつかないまま失われた。
朝6時半。
早朝も早朝というこの時間に、まるでそうするようにプログラムされているかのように一斉に人が集まる。
ヒトガタも当然多いが、その中に異質なモドキが混ざっているのがすごく不気味だ。
大人がいないのではなく、子供が居ないのだ。
子供が沢山いる方が街として繁栄が続いてると見られるため見栄えもいいだろう。
だが、ここは違う。
ヒトの形をした「なにか」がインプットされたプログラム通りに動き、当たり前のように行動している。
「……ここは、モドキが沢山いるようですね」
「モドキ……?はて」
これはとぼけていない。
本当にモドキにすり変わってることに気づいていないのだ。
老人達は何も変わらないしかと言って、子供も何も変わらない。
中年までの大人だけがモドキに全員すり変わってるのだ。
それも精巧に作られた模倣品で、もはや何処に誰がいるのかすらもわからない。
「セネガさん、ハーティ……この街でのやること、決まったみたい」
呑気に畑仕事をしている場合ではないと直感でわかった。
この街を救うには、この街で何かをやるには、このモドキ達をどうにかしなきゃ行けない。
でも、彼らも元々は普通の人であり、人間だ。
人権なんてものがモドキに適応されるかは分からないが、仮にあると仮定して彼らを排斥するのは心が痛む。
子供たちも大人がすり変わって居るのに気づいていない。
子供は純粋だ。
目の前のものをなんでも本物と捉えてしまうだろう。
だからこそ許せないしだからこそ許しちゃいけない。
スーベルニカの横暴はきっとどこかで天罰が下る。
なら、それまで野放しにしていいか?
違う。彼らを野放しにするのではなく、対話を試みるか、それとも武力による制圧か。
まだ僕たちはそれを判断するステージにすらいない。
排斥して、排斥して最後に残ったものが果たしてヒトガタなのかはわからない。
ただ一つ言えることは、この不気味な街を作り出した元凶はスーベルニカであり、彼らの罪を問わなければ行けないのは僕たちの仕事だ。
「……先程の話し合いの中に出た機械に記憶を刻めるか、ここで試す必要があるみたいです」
「幸い女子供に老人は無事みたい。なら、やることは一つだよね」
モドキに記憶を戻す。
そのためには、まず誰が誰なのかを把握しなければいけない。
ひとまず、ギルドで荷物を預けた後とある女の子と接触することに成功した。
その女の子の父親はモドキとして帰ってきたが、家族はそれに気づいていない。
モドキになる前の行動パターンが全てインプットされたプログラムで動いており、「成り代わる」には十分だったのだ。
だがそれでもモドキであることを隠すのは簡単ではないだろう。
そこでスーベルニカが思いついたのはモドキ改造前のヒトガタから皮を剥ぎ取り、本物のように見せるためにガワに被せることだ。
非人道的にも程があるが、そこまでして完璧に擬態させるには理由があるんだろう。
だがどんな理由があろうと人権を踏みにじる行為を行っていいことにはならない。
なにより普通のヒトガタとして接している家族が哀れに見えてしまう。
「お父さん、最近変なところない?」
「えー、ないよ!」
子供目線では違和感に気づけないだろう。
だから、お母さんの方にも質問を投げかける。
「奥さん、旦那さんの変わったところは?」
「うーん、あるのかしらねぇ…」
しばらく考え込んだ後、思い出したかのように旦那の違和感に見える部分を教えてくれた。
「そういえば最近、お酒飲まないわねぇ」
「お酒、ですか」
「うちの主人結構なお酒好きでねぇ。一度飲むと酔うまで飲んじゃうのよ」
酒か。
たしかにモドキに酒を摂取する必要性は感じない。
モドキで間違いないだろう。
次は、本人だ。
「旦那さん、最近何してた?」
「ワタシはナニモしてないよ?」
「仕事は?」
「シゴト?ああ、お偉い国のヒトがキテネ。エンジョ金が出てるンダ」
お偉い国、おそらくスーベルニカか。
スーベルニカの人間がモドキに改造する代わりに家族が生活できるようにと援助を…?
だがそうまでして家族まで含めてつなぎ止めたい理由はなんだろう。
奴隷として使う…とか?
いや、さすがにないな。
「以前のお仕事は?」
「イゼン…?ワタシは生まれたバカリダヨ」
完全にモドキとして記憶などを抜かれているようだ。
ああ、可哀想に…
「奥さん、ご主人の前の仕事は?」
「ええ、畑でしたわねぇ」
「やはり畑…ですか」
「最近は畑も力仕事でねぇ。主人、歳だから困ってたのよねぇ」
動きにくい老人を改造している、ということか?
いや、それにしては…
モドキとなった老人は先程から頑なにプログラム通りの動きだけをやろうとしているし、子供や奥さんのことなどお構いなしかのように動いている。
食事も取らなくなったらしいが、そこで違和感がある訳ではなかったと言う。
元々が少食の人間な上、最近ではこの街はどこでも何かしら口にできるように配慮されている。
それはモドキになったら食べれなくなるから慈悲で、ってことなのだろうか?
だとしたらすごく悪趣味だな。
「どう思います?」
「元々無所属なんでしょ?なんでスーベルニカが」
この街をおかしくする必要はあるのだろうか?
それとも、スーベルニカにはほかの目標がある?
ならば何故大人の男だけを狙うのだろうか。
女子供には目もくれず、ひたすらにオトナの男だけを狙う。
周到な準備をした上で今街にいるヒトガタのほとんどがモドキに変えられてるとしたら…それに誰も気づかないし興味が無いだろう。
「他にも旦那さんと同じようなことになってる人が?」
「そうねぇ、最近はみんな主人みたいに同じことばっか繰り返してるのよぉ」
間違いなく男はみな改造されている。
男だけを改造する理由はあるのだろうか?
「これは調べてみる必要がありますな」
街の一番偉い町長はハズレにある少し寂れた館が住居らしく、そこにいけば何かわかるかもと教えてもらった。
ギルドでも違和感は感じなくはなかったが、いまはそれはいいだろう。
どちらかと言うと、町長がこの事実を知っているのかが大事であり、最優先だ。
もし町長も噛んでいる案件だとしたら、相当なことになってしまう。
「スーベルニカが人類を管理しようとしている、ってのは本当みたいだね」
「管理してなんの得があるのでしょうか…」
サブラスとスベラルから距離があるとはいえ、どちらかと言うとスーベルニカよりもその二国が管轄のこの街でこれは宣戦布告、とも捉えられるだろう。
「戦争がしたい…訳ではないんだよね、ほんとに」
「ヘルタはそう言ってましたが…」
大規模な戦争はこの世界の転換点で必ず起こっている。
魔法の排斥の戦争だったり、建国戦争だったり…
次は機械と人間による戦争なのか?
だが、それだとヒトガタ側圧倒的に不利だ。
こいつらは動力源のある限りずっと動くし、硬い体で攻撃も生半可なものでは通らない。
そんなヤツらと戦争したら、間違いなくヒトガタ側敗北だ。
「ハーティ、魔法って才能なければだったよね?」
「ええ、まあはい。」
「ギルド需要、あると思う?」
「彼らの生業は狩りなどですからね。使える魔法なら需要はあるかと」
「よし…わかった」
今回はこの街のギルドでお試しだが魔法継承の為のメモリーストーンをいくらかで貸し出しするようにしてみよう。
冒険者達は魔法という古の文化に食いつくだろう。
それで魔法が継承出来てるのを確認できれば、じわじわとヒトガタ側の勢力が魔法で力をつけ、戦える人間が増える。
そうなればヒトガタ側が圧倒的不利で戦う条件からは外れるだろう。
試してみる価値はある。
事実、ハーティやセネガさんは魔法を覚えてから少しだけ楽をできるようになったと言っている。
今はまだ畑仕事を手伝うくらいの魔法の練度だが、鍛錬する時間さえ確保できてしまえば恐らくはもっと魔法って感じのものを使えるようになるだろう。
「ハーティの目標は水で槍を作ることだったね」
「はい。リーチが自由な槍なんてあったらあるだけ嬉しいですからね」
水の方は攻防に優れるだろう。
一方で土は防御に優れるのだろう。
あまり攻撃に転用するイメージがわかない。




