スーベルニカの闇。その先の絶望。
スーベルニカで彼が受けた拷問は計り知れないがだからといってその悲しみを共有してくれとも言わない。
彼に求める全てにおいて、僕は彼を許そうと思う。
「スーベルニカと手を切ってください」
「なんだと…!?」
「あなたは元々スーベルニカにいるべき人ではないはずです」
機械化推進派はその根幹にはきっとなにか大きな野望があり、彼は巻き込まれただけ。
今の段階ではそうやって言い訳することが出来る。
だが、もし彼が断れば…その時は本当に取り返しがつかなくなるかもしれない。
そうなる前に、彼には手を切って欲しいんだ。
「くっ…!なにか、なにか溢れてくる!」
彼の記憶の根幹を見たことでまた、彼の中に呼び起こされる記憶があったらしい。
彼もまた、戦っているんだ。
「それはきっとスーベルニカに封印された記憶です」
「これ…が…?僕は…スーベルニカを壊滅させようと…?」
忍びの一族ならば、隠密行動は得意だ。
彼はきっとその中でスーベルニカの大元を叩く気でいたはずだ。
それが失敗し捕まり、拷問を受けたならば…
「まだやり直せるんです。ここであなたが引いてくれれば、スーベルニカに勝つ算段はいくらでも立てられます」
説得するしかない、彼を。
「お願いです、私からも手を切ってください、そうお願いします!」
ハーティも彼を助けたいその一心だ。
ここにいる全員が彼を敵と見なすのはもう難しいだろう。
彼もまた、被害者だから。
ヘルタの呼び覚まされた記憶は3つ。
ひとつ、スーベルニカへ忠義を尽くす以前の記憶。
ふたつ、自分の生い立ち。
みっつ、スーベルニカのホントの目的。
「僕が……間違っているというのなら……スーベルニカの目的もまた、間違っている……?」
「その目的、教えてくれませんか?」
ヘルタは少し戸惑いつつも、その表情はどこか悲しみに満ちていた。
それもそのはずだ。
スーベルニカの目的を崇拝していた彼もまた、間違いなくヘルタという男だから。
混濁の中に確かにあるのは、スーベルニカに忠義を尽くす前の自分。
そして、忠義を尽くした自分のふたつの相反する記憶が、彼の頭を掻き乱した。
どちらが正しい自分か、どちらがホントの自分か。
だけどどちらもほんとで、どちらも自分で。
だからこそ、彼は僕たちにその目的を口にした。
「スーベルニカは、機械化した人類の運営をする事で、同じヒビを繰り返す……ってのは、お前たちも知ってるよな」
「はい。それが間違っているからこそ、止めたいのです」
「だが、その奥にあるのはもっと……邪悪なものだ」
彼いわく、表向きは機械化人類の運営。
だが、もう1つの目的ーーそれは、人類をひとつにすること。
1つの個として永遠の時を共に過ごすこと。
スーベルニカの思想は、絶対的な運営された日々。なれば、ひとつの個体になってしまえばそれは簡単に永続してしまう。
故に、記憶は要らない。
故に、感情は要らない。
何故なら、ひとつの種として運営されて行くのだから。
「人類を……ひとつにする?」
「そうだ……人類を実質的に滅亡させる、それがスーベルニカの目的だ」
「そんな……なんてことを」
人類をひとつにする。
それが、スーベルニカのホントの目的でありそのために、スーベルニカのトップには自我を残す。
彼を自我として確立させるのだのだが、そこまでして人類をひとつにするメリットは?
「目的はわかったけど、そうする理由が分からない……」
「スーベルニカは科学の国だ。おそらく、本当に必要なのは人の持つ脳みそだ」
「脳みそ?」
「脳みそをこの世界の全人類のものを集めたなら、きっと1億を超えるだろう」
「それを集めて……どうすると?」
「それほどの数の脳が集まれば、スーパーコンピューター3台分相当の演算力を発揮するだろう」
「では……真の目的はその演算力……?」
「おそらくは……」
果てしない目的で狂った目的。
言いようは様々あるが、スーベルニカの持つ思想の先に待つのは果たして繁栄か、絶望か。
この世界の科学はとある人間の異世界からの介入で変貌した。
初代の異世界人だ。
元々アニメや小説で見るようなほんとに西洋チックな異世界だったり文化発展が機械の介入しない異世界だったりしたのだが、異世界人特有の能力である記憶の受け渡し。
これが、悪さをした。
初代の異世界人は今のスーベルニカ前身の国にて、この力を披露した。
その結果、異世界からの知識がこの世界にもたらされた。
機械というにはお粗末な物しかこの世界には無かったのが、一気に僕たちの故郷である地球の現代文化に近いところまで発展を遂げた。
だが、生活に便利をもたらすもの。
それに加えこの世界を侵食してしまうものまで、ありとあらゆる技術が発展した。
結果的にこの世界における機械化に反対する声も上がる。
それが、現代のヒトガタへの機械化反対運動の元になった組織だ。
すぎた力を持つ人類はいずれ滅びる。
それはこの世界に伝わる絶対の禁忌、らしい。
実際、魔法が栄えたこの世界の古の文化は魔法の発展と利便性の向上から一度滅びた。
それは避けようのなかったことだと言う。
魔法で滅ぶってそんな馬鹿な。
なんて思うだろうが、本当だ。魔法を研究していた魔法研究会はある時を境に、魔法の持たない人間を一掃する危険思考に染まった。
代を重ねる毎に「それが当たり前」という風潮が染み込んでいくからだ。
そして、とある代にて、魔法の使えない人類への差別行動が起きた。
そして、全面戦争へ突入した。
最初は魔法側の優勢だったが、次第に人類は魔法に頼らない武具や道具の研究を続けてきた「利便道具の研究家」のとある男のひとつの発明でひっくり返る。
魔法の反射だ。
鏡のような性質をもつその道具で、魔法を反射できる、そう判断した非魔法側はこれを大量に生産し、防具に組み込んだ。
結果、魔法側は魔法を封じられ、一気に劣勢となる。
そして、勝った側である非魔法側がこの世界を掌握。
魔法は衰退の一途を辿った。
それが、この世界の現在である。
そして、歴史は繰り返す。
「勝者側」の勝利の一員である、道具の発展による危機を察知した人達による反逆が起きた。
思考はいずれ伝播する。
そう言い残した人がこの世界に居るが、それが当たってしまった感じだ。
利便道具を開発する、ここまでは良かった。
だが、異世界人の来訪、機械の急速な発展。
それは、危険思想が伝播するのになんら違和感のない事象だった。
曲がりなりにも勝者である側が衰退の原因を作るとは、因果というものはわからない。




