きっと、それは。彼の覚悟。
お久しぶりです。凪笠です。
まずは、突然の失踪、ご心配おかけしました。
正直にお伝えすると、リアルの方で色々あり、筆を走らせるのが困難な状況にまで、メンタルが死んでました。
そのまま失踪も…と考えたこともありますが、この期間を充電期間、とひとつの区切りとして設ける判断をし、ちょうどリアルの方でずっと待ち望んでいたゲームが発売されるため、この気に発売までの間の時間を使って再会しよう。と、筆を再開した次第です。
長くはなりましたが、更新の方が再開する、と思ってもらえれば十分です。ほんっっっとうに1ヶ月半ほどの失踪、ご心配おかけしました!
「彼らはなんの罪のない人間たちだ!」
「それを引き合いに出してどうする?俺たち蹂躙される側だって罪のない人間だぞ?」
「だが⋯!だが⋯!」
「気持ちはわからんでもないがな。だが、やり方が違うだろう」
「やり方⋯やり方⋯?人類の救済にはこれしかないんだよ!」
人類の救済。
それは、推進派が度々口にしている単語。
だが、その意味は分からない。人類救済ということは、人類に厄災が降りかかる⋯?
だが、どうしてそれを分かるのかなどなど、様々な疑問が湧いてでる。
「スーベルニカは崇高な考えの元行動してる⋯!邪魔するのなら容赦はないぞ!」
「ふむ⋯スーベルニカの崇高な考え、とやらには興味があるな」
ヘルタは何かを焦っている?
言葉の節々から焦りを感じる。
もしかして、本来は僕は捉えられて然るべきなのか?
いや、だとしてもだ。
ここで捕まる訳には行かないしスーベルニカに捕まった異世界人の末路は知っている。
記憶の譲渡と覗き見。
その仕組みの解明のために脳を弄り回され、廃人になったあとは機械兵になって永遠の終わらない時を過ごすのだ。
そして、そうなった後で異世界に帰れなくなるということだろう。
「人は、死にます」
「それが⋯!それを克服しなければいけないんだ!」
ヘルタはそう言うと襲いかかってきた。
対応するのは、ハーティ。
この中で最もヘルタと戦うのに慣れているのもあり、率先して名乗りを上げた。
だが、先程までは完全に戦う気は無かったはず。なら、何故⋯
「昔のヘルタは平和だけを求めて力を欲する純粋な男でした⋯!それが何故、犠牲の伴う正義を実装しているのですか!?」
「犠牲を伴う⋯?馬鹿な⋯犠牲などでていない。事実、死んだ人はいないか」
「⋯ハーティ。ちょっと下がって」
僕は、あるひとつの考えを巡らせていた。
もしかしたら、もしかしたらの可能性に賭けた。
「ヘルタさん。記憶の提供を要求します」
「なに⋯?」
「僕は!記憶を覗き見るのを条件に、降伏します」
「なっ⋯!」
その場の全員が凍りついた。
それは、作戦になかった行動だ。
作戦通りならヘルタはここで倒し、確実に戦力を削ぐ予定だった。
だが、状況は変っていき刻一刻と、変わりつつあるのだ。
ハーティの言葉で合点がいった。
ハーティの知る人物像と、あまりにかけはなれているのだ。
「⋯大丈夫、考えはあるので」
僕は考えた。
何故、ヘルタがみんなの知ってる人物像とかけ離れてるのか。
考えに、考えそして、ひとつの結論にたどり着く。
もしかしたら、彼は記憶の改竄を受けているのではないかと。
彼は、ある日突然失踪し、そして推進派として目の前に現れた。
だが、その間の出来事が不透明すぎるのだ。
何があって彼が推進派になったのか。
そこの記憶を辿れば、自ずと答えは見えてくるはず。倒すのではなく、和解する。
僕は、ハーティ達の言葉と彼の言動で、そう思った。
「⋯いいだろう。だが、嘘はつくなよ」
「記憶を覗いた後、あなたにも見てもらいます」
「なぜ⋯?」
「そうする必要があるかもしれないから」
彼の額に手を当て、記憶を巡る。
巡れ、巡れ、気を張り巡らせて、意識を集中させろ。
彼の記憶をどんどん進んでいく。
そうしたらーー
彼の記憶に薄く残っている、ぼんやりとしたものが見えた。
これが、まさかこれがそうなのか?
「ヘルタといったな?」
「⋯なにも吐かないぞ」
「吐く必要などない。余には貴様の力は有り余る。だから、こうさせてもらう!」
彼は、推進派に捕獲されていた。
それは、アニュラスでの出来事だった。
彼はサブラスから旅立った後、アニュラスへ来ていた。
そして、アニュラスで彼に出会った。
推進派のトップである、マダスカルに。
彼はマダスカルのカリスマに引かれ、一時的な護衛を名乗り出ることになった。
そして、ことは起きた。
マダスカルの前に上級上位をはるかに凌ぐ、超級の魔物が現れた。
そして、彼は敗れた。
敗れた彼を、マダスカルはスーベルニカへ連れて帰った。
そして、彼が目覚めると同時に拘束していた彼に対して様々な拷問をした。
それは、スーベルニカが最も欲しがる情報であり推進派の根幹に迫るもの。
異世界人の記憶、だ。
だが、彼はもちあわせていなかった。
忍びの里には確かに異世界人の記憶はあるのだが、彼は口を割らなかった。
そして、マダスカルは考えた。
彼の力を利用しよう、と。
彼の実力を求めているのはどの口も同じでむしろ、先にとった国が優勢に立つとまで言われるほど。
だから、彼が気絶するのは好都合だった。
「君にはこれまでの記憶を捨ててもらう。我がスーベルニカに使えるヘルタとして生まれ変わるのだ」
「⋯拒否したら?」
「拒否権などない」
そして、彼の記憶は深層心理の奥底へ封印された。
深層心理の封印。
それは、自衛のための最終手段であり防衛手段。
きっと、心の中になにか大事なものをしまい込んでしまうこと。
彼は、自分の心を守った。
それはスーベルニカという国の野望や思想から自分を守るため。
自分が自分であり続ける、という確固たる意思が無意識にそうさせたのだ。
やがて、彼はヘルタとしての人生を歩み始める。それは歪なものだった。
都合の悪い部分の記憶だけが封印された。
そして、幼い頃の経験などはそのまま。
つまり、子供の頃の記憶があるけれど、大人になってから数十年分の記憶が無い、という一種の強制退化が起きたのだ。
そして、それは彼を洗脳するには都合が良かった。
それは、大人は思考がある程度ある中で子供はまだ思考が固まりきっていない故に、洗脳がしやすいのだ。
スーベルニカは、そこをもちろん見逃さなかった。
彼の記憶が封印されたことを確認すると、すぐに行動に移した。
スーベルニカの技術班はすぐさま彼を洗脳した。
それはすごく簡単で、やりやすかったという。
だが、そこの記憶を彼は封印していなかった。
まるで、いずれどこかで役に立てるかのように。
普通はこういう洗脳直後の記憶というものが封印されて然るべきだ。
それは、不都合がないように洗脳側が直前の記憶をいじるから。だが、ヘルタは違った。
直前の記憶だけ鮮明に覚えていたのだ。
そして、前後の記憶は朧気というこれまた不思議な状態だった、
「・・・っ!」
「な、なんだ・・・?」
「ヘルタさん・・・あなた、これまでどうやって生きてきたんですか?」
「なに・・・?」
僕はすぐさまこの状況を1番打開できる人間に、咄嗟にすぐ生まれ落ちたメモリーストーンを投げた。
彼なら直ぐに記憶を覗き、僕のして欲しいことが分かるはずだ、と賭けに出たのだ。
(時間を稼ぐ…そうすればきっと、なんとかしてくれるはず…!)
「俺の記憶の何を見た!?」
「あなたにはーー13歳から24歳の記憶が抜けてるんです!」
「は・・・?何を言う。俺は、ちゃんと記憶はある!」
噛み合っていない会話。
何故だ?
彼の記憶は確かに見た。
そして、前後の記憶からすっぽり抜け落ちている、というのも確認した。
だが、彼はしっかりと「存在しないはずの記憶」をはっきりと記憶しているんだ。
「僕の力が・・・欠陥品だとでも?」
「かもな」




