謁見。王の理想。
僕たちは明日に備えて十分な準備をすることになった。
ハーティは武器の整備などは既に済んでおるらしく、セネガさんが持ってきた王宮の見取り図を頭に叩き込み緊急時の避難先、そして戦闘の優位が取りやすい位置取りを確認している。
正直真面目に騎士をやってるハーティを見るのは初めてだったので、この子はちゃんと強いんだと言うのを改めて実感した。
一方のセネガさんは、じいさんとなにやら打ち合わせをしている。
彼らは裏方の支援がメインでじいさんが魔法で陽動しつつ、セネガさんが都度見えない位置から支援を続け確実に時間が稼げるように打ち合わせている。
「大きな音は出せますかな?」
「ふむ。ならば炎の華を使おう」
「それは、どんな魔法でござるか?」
「簡単じゃよ。華の形の爆発を産む魔法じゃな」
「爆発⋯なるほど。意識をそらす上で十分なほど大きな音でござるな」
「君は、どんなことが出来るんだい?」
「拙者は暗部出身故、見えない小刀で確実に仕留めたり、死角からの暗殺など裏方向けでござるな」
なにやら物騒なことを言った気がするが、まあセネガさんがいうならそうなのだろう。
エルメロスはギルドに常駐する都合、表立って強いことを認識されてるが、そんなエルメロスさんが暗部の隊長に指名した男だ。
間違いなく、しくじることはないだろう。
それよりも、じいさんの魔法の種類が豊富だな。護衛に回った際にも有能な魔法もあった。
基本は四属性の炎、氷、風、土の4つがあっての魔法らしいが、じいさんは研ぎ澄まされたセンスで四属性をそれぞれ組み合わせたり派生の魔法を沢山持ってると言う。
まあ、それもじいさんいわく代々正規の方法を使って継承し続けた結果らしいが。
魔法の習得は古の方法では十数年かかるらしく、じいさんも魔法を覚えた頃には初老に差し掛かっていたらしい。
もっともそれ以降は魔法を使うこともあまりいけれど郊外に設けた秘密の練習場でひたすら基礎を磨いたり、技を磨くのに専念してたので人に使うのはかなり久々だと言う。
人に使うのはあくまで最終手段にして欲しい、ということ。
基本的には自衛に特化して欲しい旨を伝えた際は魔法の存在を世に知らしめるのはまだ先か⋯と少しガッカリしているようだったが、ちょうどいい舞台なのが明日の作戦決行時だろう。
じいさんが時間を稼げば稼ぐほど、魔法が失われていないことを世間は知るだろう。
それに、僕の考える方法での継承が可能なら、それを見た若い世代が殺到するだろうな。
さて、日が変わって次の日。いよいよ謁見の日である。
今日を指定したのはこの日がサブラスとスベラルの援軍の駆けつける最速日数が今日だから。
そして、なんとしても推進派との謁見の直前に予定を組まなければいけなかったから。
僕たちの謁見の後、一時間ほどあとに推進派の謁見の予定が既に入っており、それはギルドを通して確認したので間違いない。
彼らの目的は中立国であるアニュラスを乗っ取り、推進派の息のかかった国にすること。
推進派の勢力を拡大させること。
だが、それは幸せなこととは限らない。
推進派の推し進めようとしている事は、とても倫理観がまともな人間には出来ないことだ。
拒否権の無い機械化。
それをして、自分の手ごまとする。そうして勢力を拡大させ続けることで、やがて世界を機械だけで満たし、永遠と同じ時を繰り返し、管理する。
完全管理のディストピアを作るのが、彼らの目的。
そうなる前に手を打たなければ僕のみだって危ないし、世話になってきた人達がそうなるのも嫌だ。
だから止める、だから阻止する。
推進派の思う通りに描いた計画は破綻させ、実行に移す前に白紙に戻す。
そうしなければ、きっと次々と被害者が生まれてしまい、最終的に全てが推進派の手のひらの上になるだろう。
それは⋯想像するだけでおぞましい。
「アニュラス王、謁見のお時間頂き感謝します」
「よい。そなたは、記憶屋、としてサブラスからやってきたテオだな?」
「はい。記憶屋として記憶を覗き、記憶の石と呼ばれる物に保管して他者に見れるようにすることが僕の仕事です」
「ほう。記憶を保存できると?」
「はい。石として物理的に形にして、触れたものにその記憶を覗かせることが可能でございます」
「して、その力で何を成す?」
「この力を与えられたのは使命があるから、そう僕は理解しました。なので、この世界の危機を守るために力を使います」
「危機、か。今この世界の置かれている状況は理解しているか?」
「推進派との争いが続いてることは存じております」
「では、その戦争を止めると?」
「僕なら、可能でしょう」
王との話はスムーズに進むんだ。
推進派をどうしたいのか中立であるアニュラスに何を望むか。
そして記憶屋として果てに何を望むのか、みっちりきっちり王との話を進めてそして王の信頼を得た。
王は穏やかに話を飲み込こみ、そして中立である理由も教えてくれた。
「アニュラスはスーベルニカに借りがあってな」
「借り、ですか」
「我の代ではないが、この国は返さなくてはならない借りが多すぎる」
「借りを⋯返す?」
「来るべき時が来れば有無を言わさず推進派に与することになろう」
王は淡々とそう語った。
それは、スーベルニカやサブラスなどの国と国の間で取り持ったことらしい。
その時のサブラス王は納得して居たみたいだが、今のアニュラス王にとっては思うところがあるらしくそれをずっと悩んでいると。
代々受け継いできた約束事とはいえ、国の思想や王の思想は代を経るごとに変わっていく。
そうした思想の空気の入れ替えによって、国は国としての形を保ち続けてきた。
だがアニュラス王家のしきたりがある以上、現アニュラス王には中立を破ることは決してできず、どちらかに肩入れすることも立場的に出来ないと。
国のしきたりと自分の王としての矜持。
その両方に板挟みにされ、王はずっと悩み続けてきたと言う。
「テオ。そなたは機械化の先に何があると思う?」
「完全支配の人類でしょうね。行動や考えを全てコントロールできます。もちろん、その立場にある人間の思うように」
「そなたは現推進派のトップを知っているか?」
「直接は知りません。話だけは聞き及んでおります」
推進派トップであり現スーベルニカ国王の「マダスカル=デットリカ」。
技術の粋をまとめあげるトップであり、現在の機械化の思想をより深く受け継いだ男。
その技術力も確かであり彼が開発したい便利な道具は三国同盟の中でも共有されており、それを元に一般向けにしたり、軍隊用にしたり汎用的に改良されているという。
だが、そんなマダスカルには良くない噂もある。
それは、機械化を求める先に永遠の命を求め自分だけが人であり続ける神のような存在になろうというのだ。
全人類が機械化し、それを管理するならばマダスカルは神同然だろう。
故に世界はマダスカルに逆らえず、マダスカルの意のまま。
そうしたローテーションしか繰り返せなくなった人類を利用し、何かをしようとしていると。
「実はな、国民には内緒だがアニュラス歴代国王の中にはスーベルニカに自ら売り込み機械になった王もいる」
「それは、何故公表されないので?」
「当然だろう。中立を謳う我が国から自ら推進派に亡命のような形で逃げ込む王など、国民からの失望しかないだろう」
「⋯その国王は、今も?」
「恐らくな。機械化は永遠の命が得られる、そう聞いている」




