生きながらえた老人。魔法の一族
じいさんは目の前で魔法を使って見せた。
それは、神秘に近いものだし、僕たちからしたらほんとに奇跡としか言えないものだ。
手から炎を出すし、手から氷を出すし、何も無い空間で風を起こした。
そうした魔法の扱いを彼は熟練の腕前で披露した。
そしてじいさんは問いかける。
僕たちに対して。
求めるのは力か、富か、名声か。
それはきっと魔法の在り方をじいさんに示すことで、納得させて欲しい、ということだろう。
ならば、それ相応の回答をして、納得させなければじいさんも納得しないだろう。
「僕たちは魔法に興味はありません。ですが⋯推進派との戦いの先、魔法が復権する世の中も、またあると思います」
「ふむ。その心は?」
「利便性を求めて進化した人類が、再び魔法の利便性に気づく。ならば、復権もどうりだと思います」
じいさんの見せた魔法はそれはもうほんとに思い描いてた魔法そのものだ。
なんでも出来る、というのは違う気がするが、それに近いしいことが出来てしまう。
出来てしまうからこそ、問題だったのだ。
推進派が手を出さない理由を、ヘルタは知っている。
じいさんに、それを示さねば行けない気がする。
今、この場にいるのが否定派、推進派、そして滅びたはずの魔法使い。
であればお互いの理を求め合うのはすごく自然な流れだ。
生存戦略、それは生きていくのに欠かせない要素だし、生存戦略が無ければ人類だってここまで大きくなってない。
「推進派は⋯機械化の先に全てが永遠に同じことを繰り返す理想郷を作ろうとしています」
「全てが同じ、とな」
「はい。プログラムされた365日分のスケジュールをこなすだけ。そして生きてるだけ。そんな世の中を目指して彼らは今力を蓄えています」
「それは大変じゃな」
じいさんはまだ若い、甘いというような態度を貫いている。
だが、ヘルタが示した未来は推進派の戦略ではない、ヘルタとしての意見だった。
「きっと、機械と人間が共存する世界において、魔法は人々を繋ぐ存在になる。僕は、今あなたの魔法を見てそう思いました」
「繋ぐ存在⋯とな」
「きっと魔法が解析されれば機械も魔法を使えるよになるでしょう。そうなれば、魔法を継承する「人の繋がり」こそが必要不可欠なものになる。僕はそう考えます」
「魔法が人の心を繋ぐと?」
「僕は、そう思っています。魔法の継承は手間が掛かるから、という理由で廃れたと聞いています」
「ふむ⋯」
「わしは魔法を伝える一族の生き残りじゃ。そして、わしの代で魔法は途絶えるだろう」
「それは、じいさん以外に継承者が居ないってことですか?」
「簡単に言えばそうじゃな」
魔法の継承のどうこれは知らない。でも、もしかしたらもしかするとだ。
「魔法の継承⋯出来るかもしれません」
「ふむ。魔法の継承にはその者が生きてるうちに経験した全てを継承し、教えること。それが、まだわしに出来ると?」
そうだ、僕にはこの力がある。
メモリーストーンは、形としてずっと残る。
なのであればメモリーストーンをじいさんの魔法の技術を保管して作り出すことで、魔法をこれ以降の時代に継承することは出来るはずだ。
それに、魔法が継承されたら機械である優位性というものも無くなるだろう。
神秘は人が気軽に振るっていいものではない代わりに、神秘は神秘であるほど美しい。
ならば誰でもという訳には行かないだろうが、才能が必要である以上はじいさんの経験値を記憶を保管して、然るべき人間に継承するというのは悪い話ではないだろう。
そのことをじいさんに話したら、それを条件に何を望むのかと、本題に入ってくれた。
僕とヘルタは安心した顔をお互いに確認し、じいさんに今回の作戦において足りなかった部分の話をする。
「多数の人間を相手にしつつ、時間稼ぎをすることが僕たちの目的です。時間を稼げれば、推進派の優勢を崩せるのは間違いないです」
魔法なら時間稼ぎをすることが出来るはず。
なんなら敵を減らすことだってできるし、陽動する事も出来る。
じいさん一人の安全くらいなら、保証するすべがこちらにはある。
ヘルタには頼れないが、僕にハーティ、じいさんに隠密が得意なセネガさんに護衛させる。
そうすれば、目立つのは僕とハーティで、じいさん達は徹底して時間稼ぎをすることが出来る。
そうして稼いだ時間でサブラスとスベラルの援軍が合流すれば、今回の騒動はほぼ勝ったも同然だ。
忘れてはいけないのは、ヘルタはあくまで推進派の内部から時間を稼ぐことしか望めないということ。
それも、不自然すぎる時間稼ぎではヘルタのことがバレてしまうし、難しいだろう。
少しだけ稼げればいい、そんな場面でヘルタに協力してもらう必要があるだろう。
ならばそこに行くまでの時間を稼ぐ必要がある。
その時間を、僕とハーティとセネガさんとじいさんで稼ぐ、という訳だ。
「そんなわけで、じいさんの安全は保証出来ます」
「推進派との戦いの先に何を望む?」
「人が人である、安心して暮らせる世界に僕はなって欲しい」
「俺は、技術を悪事に使えないような、そんな平和な世の中にしたい。技術自体に罪は無い。だが、今の推進派は力に固執している。それではダメだ」
ヘルタは推進派の内情を語る。
今、推進派は機械化を進める派閥と、あまり乗り気でない派閥で別れてるらしい。
それも、技術同盟三国間でもバラバラということだ。
そんな状態で、乗り気でない奴らに本気を出させるための作戦、ということで乗っ取りが計画されたらしい。
ならば、それは止めなければならない。
このままアイツらを野放しにすると、この世界の終焉になってもおかしくない。
「なるほどな⋯わしからの条件は安全の保証ではなく、魔法の継承の有無だけじゃ」
「じいさんの記憶を覗けば、継承は可能かは試さなきゃ分かりません。でも、じいさんの継承した時より遥かに楽になると思います」
「そうか⋯そうか。それは、推進派の悲願でもある、そうじゃな?坊主」
「推進派は奇跡を人工的に起こすことで、魔法を使役しようと研究を重ねてきています。ですが、肝心の魔法をあいつらは見たことがない。直接解析しなければ、奴らの思う通りにはならないかと」
「ふむ⋯秘匿は可能なのかね?」
「僕たちが保管する期間は問題ないと思います。幸い、サブラス大図書館での保管も可能かと」
「わかった。協力しよう」
魔法じいさんの協力を得ることに成功した。
じいさんの悲願は自分の代で途切れてしまう魔法を後世にもっとたくさんの人に継承すること。
だが、今の継承儀式では一名に継承するのが限界だ。
それは、生涯を通してじいさんが直接魔法を教えなければいけないから。
だが、じいさんの魔法を使った際の記憶など諸々が僕の能力で保管されれば、より多くの人に継承が可能だ。
そうすれば、魔法はもっと当たり前の昔みたいな世界に戻るだろう。
そんな世の中が来れば、機械では無いことにもメリットが生まれ、推進派の意見を折るキッカケになるかもしれない。
僕たちの立場を復活されられるかもしれないのだ。
魔法に必要なマナは幸いこの世界には溢れかえってるらしい。
むしろ魔法の全盛期に比べて魔法が使われなくなったことによって有り余ってるから、いずれは魔法を使わなければマナが濃くなりすぎて新しい病気とかを生み出すきっかけになるともじいさんが言っていた。
僕はこの世界に来た時に使命を与えられた⋯
そんな気がする。
魔法の継承がそのひとつなら、元の世界に戻るきっかけかもしれない。
じいさんの説得に成功し、そしてヘルタはそれを見届けて自分の居場所に戻った。
形は違えどヘルタは同志だ。彼は、信頼できる。
じいさんの力を借りて、実行日の作戦をずらす。そして、推進派にこちらの実力を見せつけ、寄せ付けないようにする。
そうすることで中立はなくなってしまうが、アニュラスの安全と国民の保全は完結するはずだ。
国王との謁見は明日。明日僕たちの命運が決まる。死ぬなら死ぬし、生き残るなら生きる。
そんな単純な生存戦。僕たちはそんな中に首を突っ込んで、無事生きて帰ることを強いられるだろう。
ならば、生きてみせる。意地でも生きて、この世界の混沌を鎮圧して、役目を果たしてみせる。
そのための力だし、その為に力を振るう。この力は人を救うものであって欲しいし、そうあるべきだ。
記憶は人の根幹であり、記憶があるからこそ人は人でいられる。
もし記憶がなくただ命令されたことを実行するだけの機械の様な人ばかりになってしまえば、それはもはや生物の生存戦略ではないだろう。
それは、きっと別のなにかであり人間ではないだろう。
故にこの作戦はヒトガタの全てを出すための戦い。僕たちが時間を稼げば稼ぐほど、ヒトガタの地位も上がる。
宿に着くと僕はセネガさんとハーティにじいさんを紹介した。
そういえば、名前聞いてなかったね。
「ガネラス=ベレじゃ。以後よろしく」
「ハーティ=スペルベットです。一応はテオくんの護衛ということになります」
「セネガ=プロイトでござる。拙者はガネラス殿の護衛に回ると聞き及んでおりまする」
「僕とガネラスさん、それぞれに二人が一人ずつ護衛についてくれます。目立つだろう想定の僕にはハーティ、裏で目立たつ暗躍するなら最適なセネガさんがガネラスさんの護衛です」
セネガさんが暗部であることは事前に伝えていたので、そこは大丈夫だろう。
むしろ、そんな大層な人間が護衛してくれることを少し嬉しいと言っていた。
自分にはもはや価値がないと思っていたであろうじいさんは今回の一件で自分の生きてきた意味を後世に伝えることが出来る、だから戦う覚悟をしてくれた。
その意思に応えたい。
期待に応えてじいさんの魔法を別の誰かに継承する。
そうすることで、人が人の姿であることの優位性を証明していくのだ。
もちろん折衷案を推進派が提示してくればその都度国のトップが考え、受け入れるか判断する。
僕はそれがホントかどうかの言わば嘘発見器になるだろうな。




