魔法の領域。力を束ねて。
メモリーストーンを壊すというのは頭になかったが、理にはかなっている。
あんな物理的なもの、壊さずに持っている方が的だ。
ならば、壊してしまった方がいい。
「簡単に壊せるもんなんですか?」
「そりゃあね」
メモリーストーンは軽い物理攻撃で壊せるらしい。
というのも、メモリーストーン自体は能力が未熟なやつが生み出す副産物のようなもの。
散々実験されたことらしく、スーベルニカでは既に壊すのが主流だそうだ。
歴代の異世界人はみな、実験の材料にされたと言うから、ほんとだろう。
酷い実験を沢山やられて、そして死ぬ。そんな連中ばかりだと。
前回の異世界人が現れたのは10数年前。
その時はたまたまスーベルニカスタートだったと言う。
スーベルニカで沢山能力を育てられ、研究され、その先に何も得られなかった。
故に、見限るのも早かったし、実験の材料にするのも早かったと。
2年後には機械の身体にされたらしい。
そうやって機械兵を増やし続けてきた推進派にとって、もはや倫理観という壁はないようなものなんだろう。
そこが壊れてしまってるあたり、もはや人として体裁を保つのがやっとなやつらな気もするが⋯
「では、実験で確認済みと」
「うむ。簡単に踏めば壊せる」
「そんなに脆いんですか?」
「基本は衝撃には強いよ。でも、踏まれたり落としたりっていう一点に集まる衝撃には弱いんだ」
なるほど。
防御性能という面において、なるべく壊れないような構造になりつつも、自壊する方法も持ち合わせている、という都合のいいものなのか。
ならば、壊せば問題ないだろう。
だからヘルタの記憶を読み取り、情報だけ抜いて壊す。証拠隠滅だ。
僕はヘルタの額に触れてる間に集中する意識の中、彼がどれだけハーティの事を考えていたのかを知る。
幼なじみとはいえ、ヘルタはハーティが好きなんだ。
故に死んで欲しくない。
だから、スパイになった。
彼にもまた信念があり、その信念が生きるための糧になる。
人間はそういう生き方をした時、本当の強さを手に入れる、と小さい頃から教わっていたらしい。
なんとも忍者の家系っぽい教えだ。
忍者と信念のもと主人に使え、そして散っていく。
だからこその教えだろう。
もっとも、彼が居るということは忍者の一族はある程度繁栄に成功しており絶滅する、という心配はないだろう。
そこはまあ、安心だ。
意識を集中する。
その場の記憶を見るかのように。
その土地の記憶を見るように深く深く集中させる。
意識が遠のいていくが次第に僕の意志は何科に引っ張られていくのがわかった。
引き寄せられる感覚に、脳が震える感覚。
次に意識が戻った時にはこの場に眠る記憶を読めていた。
じいさんがどこに行ったかの記憶だ。
じいさんは僕と話し終えたあとどうやらスラムの方へ行ったようだ。
ならば、きっとスラムにいるだろう。
もし居なければ、また土地の記憶を読めばいい。
もっとも、今回はたまたまのまぐれの可能性はあるが。
それでも、やらないよりは遥かにマシだ。
どうせなら、やりきった感覚で居たい。
それはきっとヘルタも同じだから、意識を集中させて出来たさっきの感覚を忘れないうちに、行こう。
「スラムの方へ行ったみたいです」
「読めたのか?」
「はい、なんとか」
「力が目覚めつつある証拠だな。よし、スラムの方へ行こう」
歩き慣れた場所に見慣れた景色。
僕はここに来てから、このスラムに何度も通っていた。
それは、子供たちと会うために子供たちの何気ない依頼をこなすため。
次第に子供たちは僕を受け入れるようになり、僕もそれに応えるようにその場に適応する。
そういえば、あのお母さんを探してた子、母親と暮らせるやうになったみたいだ。
少しづつだが、母親も会話ができるようになっているらしい。
これも、記憶の織り成す奇跡なのか、はたまたそういう運命だったのか...
ともかく、そうして人を救った経験は確実に僕に新しい力を与える糧になってる感覚がある。
先程の土地の記憶を見る感覚だって、今までのを応用したに過ぎない。
「みんな、ちょっと聞きたいけどいいかな?」
スラムに顔を出すと、僕を見かけた子供たちが集まってきた。
僕はここでじいさんが居なかったかを情報収集する。
子供たちは確かにいたよー、と教えてくれる。
だが、直ぐにその場を後にしたらしい。
向かった先はわからないが、まだ近くにいる可能性があるということも教えてくれた。
近くにいるならば探しようはある。
先程ほんの数十分前までじいさんはここに居たようだし、そこから逆算していけばきっと見つかるだろう。
あのじいさんが現状最後の鍵だ。
僕たちの切り札だ。
ここをのがしてしまえば、きっと後悔以上の感覚に襲われる。
だって、自分の命がかかってるから。
じいさんの後をおって色々行動したが、全部スカに終わってしまった。
じいさんは回り込むように、僕たちが行ったところには既に居なかったのだ。
試されてる⋯ということはないと思うが、それでもじいさんが見つからないと僕たちも困るのは変わらない。
なので、作戦に出た。それは、先に僕たちが「いる」という情報を流して先回りする作戦だ。
上手く罠にハマってくれたらじいさんとエンカウントすることが出来るはずだ。
それに、じいさんだってずっと逃げることが出来ないことは分かってるだろう。
「と、そんな作戦でどうでしょう」
「ふむ、いいな」
と、いうことで作戦決行。
僕たちは子供たちに嘘情報を流してもらい、行きそうな場所に先回りすることにした。
ある程度街中を走り回ったので行きそうな場所に見当はついているので、そこに回り込む形をとる。
この街の隅に荒廃したエリアがあるのだが、おそらくそこに先回りすればエンカウント成功するだろう。
というのもあの荒廃したエリアは昔からあるらしく、それも初代サブラスあたりかそれより前からあるらしい。
ということは、だ。
魔法の末裔の予想ができるじいさんならそこで鉢合わせるはず。
そう願って僕たちは先回りする。
ー1時間後ー
1時間ほどで例のじいさんがーー釣れた。
それも簡単に。
金魚すくいくらい難しいと思ってたが、そうでは無いらしい。
あっさりじいさんが捕まるので、僕もヘルタと拍子抜けと思ってたじいさんに色々聞くことにした。
「まず、あなたの正体をしりたい」
「ふむ⋯正体、ときたか」
「そりゃそうです。怪しいですし」
「まあそうだな。あえて言うなら、魔法じじい、ってところか」
魔法というそのワードばこの世界では失われてしまったものを表す言葉。
魔法という存在を知っているのはごく一部になったし、公には魔法は既に失われたものと公表されている。
そんな魔法を、じいさんは使役出来るというのだろうか?
魔法はいわば神秘中の神秘で、奇跡に近い領域にあるそれは、人の世が便利になっていくのと同時に継承の面倒さ等から近代的な物に打って変わっていかれた。
神秘は現代には勝てない、ということだ。とはいえ、おかしな部分もある。
じいさんが魔法を使えるなら、何故推進派は手を出さない?
それこそ、機械として再現したい領域だろうに。
科学と魔法は両立できない、ということか?




