ハーティとテオ。記憶屋と護衛人。
なんだか、重要すぎる情報を立て続けに提示されてとても頭が痛い⋯エルメロスはやはりか。
と冷静だったが、ハーティも心中では結構ビックリした情報の連続だっただろう。
それはそうだ。僕が異世界人であるのもそうだし、歴代でも召喚されていた過去があると。使命を背負った人間だと。そんなの予想つかないし、予想する方が無理だろう。
そういえば、ニコラがお前にはきっと使命があるって言っていたな。知っていた⋯?
まさか⋯
と、ニコラのことで思い出した。
彼は今何をしているのだろう。
エルメロスに聞いてみたら、知らないと帰ってきた。
ギルド側でもニコラが復帰した記録はないらしい。
放浪の旅に出た、ということだろうか。
彼は謎が多いから、きっと自由気ままに旅をしているんだろう。
それに、いずれまた会うと彼は言っていた。
ならば、旅をすればどこかで再開することもあるだろう。
ならば特に気にすることでは無い気がしてきた。
ひとまず今後の方針はエルメロス含めハーティとも出来た。
宿に戻り、もっと正確な方針を決めるべきではあると思う。
一旦ここで解散、そう言って僕たちは別れた。
疲れた僕たちはそのまま真っ直ぐ宿に帰宅した。
部屋に戻るとハーティは即ベッドダイブを決めた。なんでこんなことになったの~!
と叫びながら、足をバタバタさせている。どうやら結構衝撃だったらしい。
まあ、スベラルでの一件もあった直後にこれだもんな。
一般人出身のハーティには世界が変わって見えたに違いない。
かくいう僕もこの世界における見方が変わった。
この世界では技術は元の世界より発展してないだろうとそう思って居たからだ。
モドキだって、何かのきっかけでたまたまそこに行き着いただけだとも思ってた。
だけど、違った。
彼らは歴代召喚者から無理やり異世界の知識を引き出し、それを利用して発展してきた。
いわゆる、チートだ。
本来のものでは無い異物を取り入れた進化。
それはきっと世界から嫌われる行為であり、犠牲になった異世界人が報われない。
自分たちの世界の知識で異世界が滅びた、なんて彼らが聞いたら卒倒するだろう。
自分たちのせいだと攻めるのだろうか?
だが、先人たちが残した知識は大きく、僕たちのこれからを決めるに値するものだった。
僕たちの運命を決めるものだった。
「はあ、みんな冷静でしたね。テオも何故そんなに冷静なんですか?」
「ビックリですよ、僕も。異世界人があんかにがっつり世界の方向性に絡んでるなんて」
「ならどうして⋯」
「僕は元の世界に帰るのに必死、それだけですよ」
帰るのに必死でその言葉に偽りはない。
だがあんな結末を知ってしまうと、不安が勝つ。
「その⋯帰れます、かね?」
「ほかの異世界人みたいに、なんてのはごめんですよ」
「ですよね⋯よし!私がきっと守ります」
僕の不安を感じ取ったのか、決意を新たに固めたハーティだった。
守るだけならギルメイはエルメロスよりもハーティが適任だとエルメロスは言っていた。
それは、純粋な戦闘だけに特化したエルメロスとギルメイと違い、ハーティは護身に特化した戦闘スタイルであり護衛には適任だろうとのこと。
でも僕、ハーティのことよく知らないんだよな⋯ギルメイはエルメロスはすぐ素性をバラしてくれた。
だけどハーティは過去にお兄さんが死んだことくらいしか知らない。
もっとハーティと仲を深められたら信頼関係が築けると思うんだけど⋯
どうにも取っ付きにくい感じがある。
なんか拒絶されてる感じがあるし。
「ねえ、ハーティ。護衛するならもっとハーティのこと知った方がいいと思うんだけど」
「確かにそうですね⋯記憶でもみますか?」
「いやもっとこう、信頼するための⋯というか⋯」
ハーティはどうにも不器用だ。
会話になかなか入れなかったり、突然発言したと思ったら突拍子ないことだったり。
いわゆるコミュ障なのだろうか。
だけどそこを踏み込むのはちょっと躊躇われるな⋯性格的な部分だし⋯
もっと別の部分でなにか無いか。好きな食べ物とか、好きなこととか⋯あ、そうだ。
「ハーティの趣味は?」
「筋トレです!テオもやりますか!?」
妙に食い付きがいい。
聞いて欲しかったらしい。
脳筋⋯とまでは行かないが、結構その、筋肉関係のことは好きらしい。
鍛えるのが好きなのかな?
ハーティは筋肉の話をされて嬉しかったのか、私の腹筋触りますか?!
と少し声を荒らげて聞いてくる。
いや、流石にと断ったが、息を荒くしてじゃあ上腕は!?
太ももは!?
ふくらはぎは!?
と、妙に身体を触らせようとしてくる。
もしかして、ハーティは変態なのだろうか?単に筋肉が好きなだけなのだろうか?
わからない、ハーティがわからなくなった!!!
「と、失礼しました。ちょっと熱くなりすぎましたね」
「いや、冷静になってくれてよかったよ」
「さて、今後の方針を決めるべき、ですよね」
「ですね」
ハーティは筋肉に興味を無いことを悟ったのか冷静になる。先程のは取り乱していてあれだったのか⋯
ハーティに酒を飲ませるのはやめよう。
そもそも酒飲めるのか?
まあ、どちらにせよ酔わせるのは危険かもしれない。
「ひとまずはギルドで依頼をこなしつつ、力をもっと使いこなせるようにしようと思ってます」
「数日ほどあればギルドへ依頼が来ると思いますよ。この街は広いといってもギルドからの情報はすぐ伝わりますから」
情報源はギルドだ。
故に情報は全てギルドから。
広まるのも集まるのも全てギルドだ。
今回スベラルでの一件はすぐ広まったらしく、記憶を操る力はすぐに国民の知るところとなるだろう。
依頼はすぐ。それはそういう意味だろう。
記憶を必要としている人がどれだけいるかはわからない。
だけど、その依頼がなければ僕も生きていけな
い。
だから、きっと依頼が来るとそう思ってないとやっていけない。
記憶に関する依頼ならなんでもござれだ。人探し、もの探し、人に思いを伝えたい。そんな感じのものならござれだ。
ハーティには依頼をこなす時に護衛として常に同伴してもらう。危険があれば守って貰えるようにだ。
推進派のスパイはサブラスにも紛れ込んでいる。
それがスベラルで得た情報であり、常に警戒しなければいけないだろう。
そこはエルメロスが対応してくれているが、すぐに見つかるとは思えない。
推進派は身を隠すのが得意だ。どれだ誰かって確定させるのは至難の業だ。
推進派と接触経験のある人間がたまたま依頼に来て情報を仕入れる、くらい奇跡が起こらないと発見するのは無理だろう。
もっとも、そんな奇跡起こるか分からないが。
ハーティも護衛しながら常に目を輝かせるという。
スパイの記憶の中の推進派の姿はあの作戦にいた全員に共有した情報だ。
怪しい黒ローブがいればすぐさま警戒するとハーティは約束した。
心強い用心棒ということで、僕はハーティに安心して命を預けることになる。
不満は無いし、問題もない。だからこそ、ハーティにも自分のことは大事にして欲しいと思う。
自分の命優先だ。
「きっと命を狙われる時はハーティも一緒です。無理だけはしないでくださいね」
「そんな訳には行きません。資料を読む限り、テオはこの世界を救う。なら、天秤にかけるのは私の命だけで十分です」
忠誠心というか、騎士道精神というか⋯ハーティには頭が上がらない。




