未開の土地で。サブラス王国へ
その日は野宿した。
現代日本においてはあまり馴染みのないものだが旅のある世界だ。
野宿くらいはするものなのだろうと不思議とすぐに受け入れられた。
「それは?」
「簡易的だが魔物避けだな」
「そんなに簡単でいいんですか?」
ニコラはそういうと手元のキットで簡単な魔物避けを作った。
どうやら竜のようなウーパールーパーのような形をしているこの不思議な置物は、低級の魔物が上位魔物と勘違いして勝手に避けていくようになるものらしい。
魔物はバカだが、生存本能はちゃんとあり、自分より上の者に逆らえば命がない、とちゃんと理解している性質を利用しているものらしい。
小型のドラゴンも数は少ないがいるらしく、形だけでも似ていれば低級魔物避けとしては十分らしい。
もっとも、この付近には低級魔物ばかりだから、こういう物を持っておかないと命がない、という話だが。
「ニコラ、長いんですか?旅人としては」
「まあ俺は元ギルドメンバーだからな」
「ギルドとは?」
王国ごとに旅人や冒険者を雇うギルドが存在し、そこの所属になればある程度金銭面の援助などが受けられ、安全に旅や冒険が出来るようなシステムが確立されているらしい。
会社のようなもの⋯⋯と思えばいいんだろう。
この辺の地元はサブラス王国だからニコラは元はサブラス王国直属のギルドの所属、ということになるんだろう。
生きていくには十分すぎるくらいの高待遇だったのだが、ニコラは例のモドキが出始めたあたりからなにやらきな臭い話が出回り始めギルドは一時的に依頼等を凍結したらしい。
そこで支援等援助を受けられなくなった以上は自分で稼いだ方が早い、と見切りを付けて独立したという流れらしい。
低級魔物の肉はある程度の需要があるらしく、ニコラも最近はそれを売ることで生計を立ててるとか。
産地直送だと、仕入れ金等ないから元手が全部はいるという現代の仕組みに近いんだろう。
だが、大きな依頼をする冒険者もいるらしく、そういう人たちは軒並み別の国へ移籍してしまったという。
この世界における冒険者の依頼は上級魔物の討伐や、王族の護衛など、金銭的には結構稼げる依頼が多いらしく、そういった依頼を凍結されてしまったのであれば他の国でそういう依頼を受けた方が生きる上では仕方ないのだという。
「低級魔物の肉は一般の市民にも流通するからな。希少性はないが、継続的に供給される方が嬉しいってこったね」
「ニコラは大きな依頼は受けないんですか?」
「へっ、ああいうのはパーティー組んで受けるもんだぜ?あんまし人との関わりがない俺だと厳しいね」
ギルドとは言いつつも横のつながりはしっかりあるようで、ニコラは所謂孤立組という括りの人間だったらしい。
よくパーティーを組む人は固定のメンバーとパーティーを組むらしく、ニコラはもれなくそこから溢れてしまったのだと。
コミュ障⋯⋯この世界でも生きていくのが辛いのか。
「さて、サブラス王国まで後少し。ここの平原を超えたら門が見えてくるぞ」
「もうヘトヘトです⋯⋯」
「王国についたら宿を取る予定だが一緒にどうだ?」
「相部屋ですか?」
「まあそうなるな」
まあ少なくとも。
知らない人と相部屋をするよりかは、まだ出会って少ししかたってないとはいえニコラといる方が安心だろう。
しばらく歩いた後、目的地であるサブラス王国に到着した。
そこはまるで中世のヨーロッパのような外観で、まさしく城というのに相応しい立派な建物だった。
それだけに、僕の格好は少し似つかわしくないのだが。
ニコラは宿があるからと先に宿の方へ行ってしまったが多分少し見てまわれ、ということだろう。
僕は初めて訪れるこのサブラス王国を少し散策することにした。
まず、中央広場。
ここには大きな噴水があり、近くには銅像が立っている。
こちらの世界の言語はまだ読めないのだが、これが立派な偉人の象であることは想像にかたくない。
にしても⋯この世界の言語を学習する方法はあるのだろうか?異世界転移なんて他に例がないだろうし、こっちの言語で詳しく載っているものがあれば最高なのだが⋯
と、公園で考え込んでいると声をかけられた。
年端もいかないだろう少女だ。
「あなた、なにしてる?」
「えーっと⋯」
言葉は何故か通じる。
書けないけど喋ったら通じる、という状況だ。
少女は僕が少し困り果てた顔をしていたようで、それで声をかけたのだろう。
「あなた、不思議な格好」
「ああ、これはちょっとね」
確かに、こちらの世界に来てから自分の世界の格好故に少し目立つか。
この辺ニコラに相談して何とかした方がいいだろう。
少女はこちらをじっと見つめた後、ぼそりと呟いた。
「あなた、不思議な感じがする」
「えっ?」
少女がそう言って僕の手を握った時、それは起きた。
「うっ!」
強烈な頭痛。
そしてーー突然溢れ出す見たことの無い記憶。記憶の中の女の子はーー
嘘だ、目の前のこの子?何故、どうして
「今、何が起きたの?」
「僕にも、わからない⋯でも、君にそっくりな子が誰かと話してるところだった」
「それ、詳しく教えて」
少女の言葉に甘えて、僕は今見た記憶を少女に全て話した。
そして、ひとつ大きな可能性が出てきた。
それは、少女の小さい時の記憶だと言う。
少女は確かにその記憶の通り、両親と旅行帰りの荒野で会話をしていたと。
そこで、機械になった人と関わる国についての話をされたという。
「これがキミの記憶だとして、どうして僕が?」
「わからない。でも、私も見られてる感じがした」
少女曰く、僕に触れた時、僕に記憶を覗かれた感覚があったのだろという。
そして肝心の僕は、流れ込むように溢れ出るぞの記憶に戸惑い、そして頭痛がした。
突然多量の記憶が流れ込んできたーーということだろうか。だが、詳しいことはわからない。
もし、記憶をほんとに見たとしたら、この少女の力なのだろうか?
だが、少女はそんな能力はないという。
記憶⋯は確かに見た。だが、その力の詳細はまだわかりかねる。
とりあえず、少女の前を後にしてニコラと合流することにした。
冒険者であるニコラであれば、多少ともこの力に対して知識があるはずだ。
故に、ニコラと合流し、知識への解を求めることにした。
ニコラが居るのは少し歩いたところにある、街角の宿。
一般の冒険者が手軽に利用できる宿のようで、サブラス王国の中でも安い部類の宿らしい。
もっとも、サブラスの冒険者たちお墨付きの宿だから、安いのも納得である。
また、冒険者には割引が適応されるらしく、ニコラもそれを利用するためにこの宿にしたと言っていた。
この世界のお金、ギルらしい。
宿の料金は約30ギルで、元の世界との物価差がどれだけか分からないが多分3000円くらいなのかな?
と思う。
証拠に野菜などの物価は大体2ギルくらいが相場だ。
少なく感じるかとも思うが、日本円換算の予測で200円くらいだ。
納得の値段といえばそうだろう。
さて、ニコラのいる部屋は事前に知らされているため、すぐに分かった。
宿の2階へあがり、廊下の角の部屋。そこにニコラの宿泊する部屋がある。
コンコン、と扉をノックし、反応を確認してから部屋に入る。
「おう、戻ったか」
「あの、ニコラ。聞きたいことが」
僕は先程の一連の出来事を包み隠さずニコラに話した。
だが、ニコラは少し苦い顔を浮かべ、検討がつかない。
とそればかりだったのだがどうやら、この世界では一般的なものではないらしい。
記憶が読める、という部分を聞いた時ニコラは色々試した方がいいんじゃないか?とアドバイスをくれた。
記憶と言ってもこの世界には色々とあるらしく、世界の記憶、と呼ばれるものを保存しているものこそがサブラスの図書館なんだという。
世界の記憶とは。
土地などに記憶されているものであり、この世界にはそれを可視化させる技術こそないが、ある程度記憶を予測することで発展してきたのだと言う。
そして、ほんとうにもし世界の記憶が読めるのであればお前はこの世界を救えるかもしれない、とニコラは言っている。
いきなり世界を救う、なんて話をされて気が遠くなるが異世界に来た理由を探しつつ、そういう活動をしてもいいのかもしれない。
そして、世界の記憶を読み込めるのであれば何かしら分かるかもしれない、とニコラは言ってくれた。
もちろん。
やり方は分からないし、本当にできるかはわからない。
だけど、やってみる価値はあるんじゃないか?と。
このサブラスの図書館にはある程度昔のヒトガタが使っていた能力と呼ばれるものや、魔法と呼ばれるものについての痕跡が残っているらしく、ニコラはその辺を中心に調べてみるといいかもと教えてくれた。
ひとまずは図書館でこの力の在り方を調べようと思う。




