僕の役割。世界の声。
エルメロスとハーティは僕を見つめ、僕からの説明を待っている。
これは、言い逃れは出来ないだろう。
説明するしかない⋯だが、証明出来るだろうか。
自分の記憶はメモリーストーンに出来ない。
それに、記録には『譲渡』とあった。それは、明確に記憶を譲った、ということ。
覗いた記憶を別の人にその人の記憶として渡した、ということだ。
それが出来ていたらこの説明にも苦労はなかったが、あいにく僕にはそこまでの力のコントロールは無理だ。
まだ、こちらにきて馴染んでない上に力だって未解明な領域だ。難しい。
言葉で伝えるしかない。だけど、信じてくれるだろうか。
「⋯その通りです。僕は、異世界から呼ばれました」
「異世界⋯にわかには信じがない。だが、お前のもっちからは失われたそれに近いんだろう」
エルメロスはそう言うと建国記のとあるページを開き、僕とハーティに見えるように突き出し説明した。
ここにある記録は間違いなく正真正銘国が守ってきた力であり、秘匿してきたもの。
それ相応のバレたらまずいものが載っている。だからこそここで保存されていると。
王家以外は入れない故に、細工することは出来ない。
つまり、事実しか載っていないのだ。
建国記の情報では異世界から来た男は不思議な力を使い、初代王をサポートした。
それが記憶を操る力であり、僕と違い彼は譲渡することや土地に眠る世界の記憶の閲覧すら出来た僕の上位互換だ。
だが、次のページにはこうも記される。
彼の力が悪用されれば、この世界に危機が訪れるだろうと。
記憶の力は如何様にも出来る。滅びた文明の記憶すら読めるだろうと。
土地に眠る戦いの記録。
そこにはきっと失われし技術などもある。
今よりも、遥かに強い力。
悪用されないように、彼を国で全力で保護すると。
その一連の文章を見せた後、エルメロスは言った。きっと当時と同じことが起こり得ると。
スグマという男は異世界から呼ばれた後、元の世界の記憶を頼りにこの国の技術を進歩させた。
直接的な技術を教えた、とかではなく彼が持ちえる知識と記憶から技術を有する国、スーベルニカがそれを再現し、スーベルニカは独自の力を得ていった。
そしてスグマという男の持ちえる知識を全て彼らは無理やり奪い、後の時代に技術を伝えたと。
⋯要するに、スグマという男は世界の危機を救うと同時にこの世界の未来に根深い闇を置いていった。
「俺は思う。この時、スグマを使ってスーベルニカが得た知識。それが、モドキの技術ではないかと」
「それは⋯どうなんでしょう」
「テオ。もしお前が異世界の人間なら、モドキに近い存在や知識を要してるのではないか?」
その鋭い指摘に僕は反論できなかった。
アンドロイド。
人造人間。
機械。
元の世界にはSFというジャンルで発展してきた未来のあったらいい技術というふうに、現在ではとてもじゃないが実現はできないがいずれ出来るだろう、というものを題材にした作品は多くでまわっている。
そして僕もそれらは読んだことがあるし、見たことがある。事実なのだ。
「⋯知ってます。でも、僕たちの世界でもその技術はまだ確立されてないんです」
「ふむ⋯では、空想の技術だと?」
「はるか未来に起こりうるだろう技術の進化を想像したものです」
「ふむ⋯なるほど」
エルメロスは結論づけるのは早いが、そういった知識を得たスーベルニカがもしそれを実現させていたのなら、スグマという男はこの世界における重罪だと断じた。
「でもエルメロス。スグマって人は利用されただけでしょ?」
「それも⋯わからんな。だが、推進派の核に迫れば重要な情報が出るかもしれん」
「ねえ、エルメロス⋯ここの資料、持ち出すのは?」
「無理だな。国が厳重に保管するものだ」
僕にまだ人間以外の人間から記憶を抜き出す方法は持っていない。
正確にはそこに至るまでの力の覚醒をまだ遂げていない。
だから、記録するのは無理だ。
「なら、私はその本の内容をさっきまで見ていました。記憶がぼんやりしないうちに、この資料のコピーという形で記憶として持ち出すのは可能ですか?エルメロス」
「なるほど⋯メモリーストーンは触れなければそれがなんの情報がわからない。擬似的にその方法でコピーすれば咎めるやつは確かに居ないな」
「なら、テオ。私の記憶を保存し、この資料の情報を持ち出しましょう。きっと、役に立ちます」
ハーティの提案は抜け道に近い方法だ。
確かにメモリーストーンとしてコピーを持ち出せば咎める人間はいない。触れなければなんの記憶かわからないからだ。
まあ、その代わり常にこのでかい石を持ち歩く、という欠点はあるが⋯
だが、確かにその方法でならここで得た知識を保存しておくことが出来る。
この先の旅で必要になるかもしれない情報を持ち帰ることが出来る。
「なら、少し待ってください。もう少しだけ見たい部分があるんです」
「それはハーティに任せよう。テオ、一個試して欲しいことがある」
エルメロスはそう言うと、ポケットからロケットを取り出した。
ペンダント、言った方が通じるか。
エルメロスはそのペンダントを握り、僕に問う。
このペンダントのもつ記憶を読み取れるか試して欲しい、と。その顔は極めて真剣だった。
「これは、俺の親友から譲り受けた⋯正確には俺の親友の遺品だ」
「遺品、ですか」
「こいつは表向きには事故ってことになって死んだが、少々不可解な死に方でな。お前の力があの資料の通りの力と似た者なら、このペンダントからやつの記憶を見れるはずだ」
人以外のには一度魔物に試したが、それはあくまで脳みそという触媒が記録している情報を読み取って見たまでに過ぎない。
本人が鮮明に覚えてないものでも、脳が記録し続けている情報であれば見ることは可能だろう。
だが、無機物になると話は変わる。
試したことは無いし、成功する保証もない。
失敗すれば、僕はエルメロスに失望されるだろうか。
不安を抱えつつも、僕はいつもの要領で記憶を読めるか試してみる。
意識を集中させ、ペンダントに集中する。
⋯当然、何も起こらない。僕では無理らしい。
何度か試したが、全て不発。
記憶を読み取ることは出来なかった。
「ごめんなさい、エルメロスさん。無理みたいです」
「そうか⋯」
「あの⋯もしかしてその親友の死はエルメロスさんの⋯」
僕はハーティに聞こえないようにするため、少し濁した言い方でエルメロスの耳元で呟く。
帰ってきたのは、その通りだ。という返答だ。
彼は親友の死の真相を探るために暗部になった、ということだ。
不可解な死。
そこがちょっと引っかかるが、知られたくない情報は人には沢山ある。
あまり踏み込んだ話題はしない方がいいだろう。
そう思っていると、エルメロスからいずれお前に俺の記憶を全て見せる。
そう約束した。
いずれ、というのはおそらく僕の力が覚醒したら、ということだろう。
スグマ=ハジメと同じ領域にまで僕が踏み込める保証は無い。
だが、資料には可能、と一言だけ書いてあったそれを今は頼るしかない。
資料は抜けている情報やもっと詳細に書いて欲しかった情報が沢山あったし、それは意図的に隠された、とも言える。おそらくスグマという男の持っていた力はこの世界の何かに関わるものであり、危険なもの、ということかもしれない。
「あの、おふたり!ここ、ここ見てください!」
そこに建国記はここで終わるが、我が国は今後王になる人間にその生涯に至るまで全ての記録を残すようにさせよう。
後世にもしスグマと同じ力を持った人間が現れた時、その行く道の参考にして欲しい。
それは、初代サブラス王の儚い願いだった。




