王宮世話係。スベラル王家の記憶。
翌日、準備が完了したので早速アドニスタの所へ向かう。メンバーは僕とギルメイ。
ギルメイの情報を元にアドニスタの住処を目指す。
本人とは接触出来次第事情を説明し、記憶を覗かせてもらう。
もしも、有効そうな記憶があればそれをメモリーストーンとして形にし、持ち帰る。アドニスタさんには身を隠しスベラルに合流してもらう。
そして、ギルメイを説得してもらう。彼ならばギルメイも納得し、心を開くだろう。⋯記憶を見る限り、ではあるが。
記憶の中のギルメイはかなりアドニスタに迷惑を掛けていた。何から何までお世話になっており、頭が上がらないだろう。
アドニスタ自体スベラル王家に使えたのはそこまで古株ではないが、前国王とギルメイのお世話係を通して王宮内での立場も悪くなかったと言うし。
それにギルメイという男はこう見えて単純だ。アドニスタがちょっといい風吹かせればホイホイついて行くだろう。
⋯まあ、確証は無いが。
だがそれでもやらないよりは遥かにマシだろう。
移動は距離がそこまである訳では無いため、徒歩だ。
道中魔物と遭遇する可能性はあまり高くないらしい。
それに、アドニスタの住処の近くはアドニスタが暮らすために魔物払いの結界が貼られている。
死ぬ可能性はあまり無いだろう。安心していける。
ギルドで食料と水分の確保をした後、城下町の門を潜り、外に出る。
スベラルの領内は緑が生い茂っており、かなり自然が多い印象だ。
というのも、スベラルという国は推進派こそ否定派だが、元々は自然の保護のために活動を大きくしていた保全派に属する国だったと言う。
それは、前国王の時は特に顕著で、ギルメイ曰く兄は自然を愛し、魔物にすら歩み寄ろうとしていた聖人との事だ。
もっとも、そんな男がなぜ推進派に魅入られてしまったのかは疑問だが。
「アドニスタは俺を見て怒るだろうか⋯」
「そんなの今から気にしてたら持ちませんよ?」
「あ、ああ。そうだな」
ギルメイはやけに大人しい。未だに無言で国を出たことを気にしているのだろう。
ギルメイが国を勝手に抜け出してから王国内はそれはもう大混乱。
前国王は捜索隊まで派遣しようとした程だ。だが、それは未遂に終わった。
アドニスタが手回ししたのだ。
アドニスタはギルメイならば国のピンチの時に必ず戻ると確信があったのだろう。
彼のことは放っておくように国王に進言したとも聞いている。
と、ここまでは王国内でも聞ける話だ。
僕たちがこれから会う男は、それ以上のことを知っている。それ以上のことを見てきている。
スベラルとサブラスの睨み合いを止め、友好な関係に戻そうという当初の僕たちの目的からしたらそんな国の色々を知っているアドニスタは切り札に近い。
国王とて人であり悪い噂がもし広まれば王という立場を捨てなければいけなくなるだろう。
揉み消し続ける、なんてのは出来ないのだ。
スベラル領内の平野を抜け、サブラスへの道沿いに、森があった。
話ではそこにポツリと小屋を建て、身を潜めているらしい。
ギルメイはある程度結界等の知識はあり、判別だけならできると言う。それを頼りに場所を探す。
森の浅い所には反応がなかった。
もう少し深いところに行ってみる。
そうしたら、ビンゴだった。少し木々で入り組んだ森の少し深いところ。
そこで小屋を見つけた。
情報と合致しているしおそらく、ここだろう。
「さあ、覚悟決めてくださいよ」
僕はそういいつつ、小屋の扉に手を伸ばし、ノックした。
この世界には呼び鈴なんてものは無いので、ノックするのが中へ居る人へ来客を知らせる合図になる。
そして、ノックを聞きつけ扉が空く。
そこに立っていた男に、ギルメイは反応した。
「あ、アドニスタ⋯ほんとにアドニスタか?」
「⋯?⋯!」
中から出てきたその少し老けた男はギルメイの顔を見ると、途端にギルメイの元へ駆け出した。
そしてギルメイの前で膝まづき、涙した。
「あ、ああ⋯ずっと、ずっとお待ちしておりました。ギルメイ様⋯」
「その、迷惑、掛けたよな」
少しだけぎこちない会話がなされたあと、アドニスタは小屋の中へ僕たちを案内した。
そして、ギルメイとアドニスタ双方が落ち着いた時、僕から事情の説明をした。
「アドニスタさん、ギルメイさんが戻った以上、僕たちは打って出ます」
「ということは⋯ギルメイ様、国王におなりに?」
「まあ、そうなるな」
それを聞いた時のアドニスタの安堵した表情は忘れられないだろう。
ずっと慕っていた人間が、ずっと国王になることから逃げ続けてきた男が、少しだけ逞しくなって帰ってきたのだ。
お世話係としてはこれ以上ないほど嬉しいだろう。
だが、喜んではいられない状況であることも同時に説明する。
「ギルメイが国王になるためには一手足りません。今のままでは逆賊で終わり、ギルメイさんも顔がバレています。そこで、貴方に協力してもらいたい」
アドニスタは少し不思議そうな顔をしていた。
一世話係だった立場の自分に何ができるのか、という顔だ。
そんな彼に、僕は自慢げに話す。
「僕は人の記憶を見て、それをメモリーストーンと呼ばれる石に保存する力があります。もし、アドニスタさんが許可をくれれば、その記憶から国王が不利になる情報を流すことができるでしょう」
信用はできないだろうし実際にメモリーストーンと記憶の覗き見を彼の前で披露する。
ギルメイのここ数日の記憶を覗き、メモリーストーンにしたのだ。
それを見て、完全に信用、という訳では無いが嘘は言ってないと理解して貰えたらしい。
そして、本人も少しだけ話をして貰えた。記憶を見る際にどの辺の記憶か参考に、ということだ。
彼が語ったのは、前国王の死の付近の話。そして王宮を追い出されることになった経緯についてだ。
国王の死後、王宮内はそれはもうくらい空気だったと言う。そして、国王を継ぐ予定のギルメイは不在。
臨時の国王を立て、ギルメイ帰還を待つことを王宮内の誰もが納得し、誰を国王にするかという話がでた。
そして、そこで問題だった前国王の側近をしていた大臣は自分の部下である男を指名した。
頭のキレる男だと。王としての力は申し分ないと。
だが、賛同した全員が嵌められた。大臣は都合のいい男を擁立したのだ。
前国王を支持していた王宮内の人間は皆、その新国王によって前国王を陥れ、推進派に鞍替えさせたと濡れ衣を着せられ、追い出された。
特に酷い扱いだったのがずっと傍で支えていた前国王の右腕と呼べる男と、アドニスタだ。
この二人は国王を誑かした張本人として国外追放を言い渡された。
だが、アドニスタは王宮で信用されていた。右腕と呼ばれていた大臣の男は裏から、アドニスタは近くから支えて欲しいと前国王派だった王宮の人間が尽力した。
アドニスタは領内の人気の少ない所に小屋を立て、ギルメイの帰りを待つことになったという。
追い出された皆、口を揃えてギルメイならばそのうち帰ってくる、と信頼していたのだ。
もちろん当の本人は全然そんな気なかったし、そこまで信頼されてたことに気づいていない。
この話を聞き、ギルメイは少し心が揺れ動いたのか、アドニスタに王宮に仕えていた者たちの話を聞いていた。どれだけ信頼されていたかを。
そしてアドニスタは答えた。王宮内に兄弟を比べて評価している人間など居なかったと。
兄には兄の。ギルメイにはギルメイの王のあり方があるのだと皆信じていた 。
ギルメイは顔色を変え、僕に言った。
「アドニスタの記憶を持ち帰ろう。俺は⋯国王になるよ」




