サブラス暗部部隊。その名はエルメロス。
ハーティを見守った後、僕とニコラとエルメロスはスベラルギルドを訪れて居た。
もちろん、スパイの記憶を見るためだ。
ギルドではエルメロスが追って処分を出すので留置しておいてくれ、と言って留置されているらしい。
可哀想だが、まあ仕方ないだろう。
ここで推進派の情報を少しでも得られれば、今後の目的の指針にもなるし、かなりの収穫になるだろう。
「さて、お前は推進派に雇われた、ってことでいいんだよな?」
「そうだ、言っただろ、さっきも」
そういうと、嘘はついてないな、と確認した後エルメロスは僕に引き継いだ。あとは任せると、言わんばかりに。
僕は引き継ぐと、ゆっくりとスパイの男の額に触れ、記憶を覗き始める。辿るなら、そうだな、去年あたりから始めよう。
意識を集中させていらない情報はどんどん流して行き、必要な情報だけ得れるようにする。
記憶を覗く僕には早送りのような感覚があり、止まった時点からの部分の記憶がメモリーストーンに保存される。
そうして産まれたメモリーストーンは何度も使用でき、尚且つ永久に残る⋯と、推測している。
極論、これを突き詰めれば人類の記憶を全て保存する図書館のようなものだって作れるだろう。
まあ、プライバシーの関係とかでそれは不可能だろうが。
さて⋯何者かと接触しているかのような映像が流れてきたので、そこで集中を緩め、その辺の記憶を覗く。
男は何やら金を貰ってなにかの情報のようなものを得ていた。
話をしている相手は全身黒ローブで顔も見えないし、手袋やブーツでガッツリ身バレを防いでいる。
徹底した怪しい雰囲気だし間違いないだろう。
だが、会話の内容までは少しぼんやりしていた。
もう少し意識を集中させ、会話に耳を傾ける。
「⋯スベラルの国王を推進派に引き入れろ。そうすればお前の家族は晴れて推進派の最新技術でモドキになるだろう」
「ああ、助かるよ。俺の嫁、身体がうごかなくてな」
そのあたりで意識が途切れた。
意識的に、必要な情報を得た、と思ってそこで記憶を読むのを辞めてしまったのだろう。
だが、前後の会話を見る限り、これ以上引き出せそうな情報はおそらく無い。
徹底した身バレ防止による情報の秘匿で、どうやら推進派は足がつかないように完璧にしているらしい。
「ふう⋯」
一息つくと同時にメモリーストーンが形成された。エルメロスはすぐさまそれを拾い上げ、記憶を確かめる。
⋯だが、思った以上の情報は当然無かった為、エルメロスも呆気に取られていた。
「お前、本当にこれだけか?推進派との接触は」
「ああ、そうだよ。あいつら徹底して自分の身を隠すんだ。足がつかねぇように偽名まで使ってよ」
推進派の足は掴めそうに無いがだがこの男が推進派に手を貸した理由は、家族を取引として持ち出されたから、というのは情報としては大きいだろう。
「お前の家族、病気か?」
「脳に障害があってな。動かねぇんだ」
なるほど、嫁の姿が変われど、推進派に取り入って機械化されれば、また動く嫁を見ることが出来る、ということか。
男の立場を考えれば、嫁とまた笑って過ごす、なんてのは藁にもすがる思いだろう。
「ふむ⋯聞きたいことは聞き出せた。お前を解放しよう」
「ほ、ほんとか!?ありがてぇ!」
「だが、推進派とはもう接触しないのが条件だ」
「て、てめぇ!嫁を人質に取ろうってか!」
「そうではない。よく聞け」
そういうとエルメロスはサブラスの大図書館に意識を取り戻す方法が保管されている可能性があること、推進派は素性が分からない以上、何をしてくるか分からないため嫁を含めてサブラス王国で面倒を見ること。それを告げた。
スパイだった男はそれを聞き、少しだけ戸惑った様子だったが、条件を受け入れた。
安全を保証される、というのは誰しもが安心する材料としては必要だ。
男は嫁の状態が良くなること以上に身の安全を心配した。
だからこそ、治る可能性と身の安全を両方保証するエルメロスの提案した条件は、男にとって悪いものではなかった。
そしてエルメロスはまたひとつ条件を付け加えた。
「君は一度推進派と接触がある。それを、利用させてもらう」
「あんたらの指示があれば接触しろ、と?」
「話が早くて助かる。推進派とこちらが接触することもこの世界の今後を決めるには重要なことだ」
サブラスは推進派の考え方次第ではいつでもことを荒立てることを表明している。
それ故にまずは接触を図ることが重要、と考えているようだった。
「あの、エルメロスさん。ギルメイさんもでしたが貴方も隠し事、ありますよね。いくら何でもサブラスの為にそこまでいちギルドメンバーがするとは思えない」
それを聞いたエルメロスは数秒沈黙した後、まあいいだろうと言葉を続ける。
「俺はサブラス王宮の極秘の情報組織のメンバーでもある。それは記憶をのぞけば証明可能だろう」
「暗部⋯みたいなものですか?」
「早い話、そういうことだ」
国のために動く暗部組織に近いものに属するが、素性を知られたらまずいので普段はギルドのメンバーとして活動している。ということらしい。
今回ニコラの話を聞き、すぐにエルメロスは国王の判断を後に任せ、乗ってきたと言う。
それはなにやり推進派と接触を図る機会かもしれない。
あいつらの目的が分かるかもしれない、という思いもあったからだろう。
「エルメロスさんは否定派⋯なんですか?」
「俺は⋯中立で居たいな、今のところはだが」
それは意外だった。
サブラスの人間は極端に憎み、全員が全員推進派に対する否定派だと思っていた。
だが、暗部に所属している身でありながらあくまでもエルメロスは中立だという。
「俺はあくまであいつらの目的だったり動向を探るだけだ。全ての判断は、サブラス王やほかの国王に任せておけばいい。そこに、俺の思想などあってもなくてもかわらない」
確かに、国の暗部として動くもの、としては偏った思想で私情塗れの人間よりは遥かに仕事がしやすいだろう。
だが、参ったな。
王族出身と暗部の人間⋯か。
思ったよりすごい人たちに囲まれてしまった。
自分の力を加味しても、今回の状況次第では僕の身柄は完全にサブラスの思うようになるだろう。
縛られるのは嫌だが、こちらだって身の安全が何よりだ。もし、死にそうになったら真っ先に逃げることだけ考えた方が良さそうだ。
「さて、聞きたいことは全部聞いた。そして暗部としても貴重な駒が手に入った。この後はどうする?」
「一先ずニコラと合流しましょう」
「そうだな。だがスパイからの情報についてはまだ話さないでくれ」
「どうしてですか?」
「メモリーストーンはこちらで保管し、一度サブラス帰国時に王に判断を委ねようと思う」
国王がもし危険と判断してもしなくても、情報はすぐさまギルドへ共有されるだろう。
いずれは絶対、と言うやつだ。
それよりは、情報の精査をして、然るべき人間に判断を任せる。
まあ、国を内密に守るものとしては妥当な判断だろう。
それに、エルメロスはどこかニコラを信用していないようだったし、下手に情報を渡してなにかされたら困るという理由も恐らくはあるだろう。
「それと、暗部だというのは内密に頼む。顔が割れたら活動に支障があるのでな」
「それはもちろんです」
一先ずはニコラと合流し、あわよくばギルメイ達が戻っていれば次のフェイズに入ろうといったところだ。




