7 青ひげ王女危機一髪(地面に刺さってYMCA)
ヒロシは、再び王族の護衛についていた。
ベルティーナと新型玉座という、でかい荷物を乗せた馬車は、ドワッフル族の集落を目指している。
二百頭の馬で牽く、長さ二十メートルの馬車の最高時速は、三百キロを超える。
バスローブ姿でソファーに身を沈めるヒロシは、美顔ローラーで顔をコロコロしている。
ベルティーナは、ソファーの上に置いた玉座で正座をしている。
厚さ十五センチの天井を頭で突き破った彼女の上半身が、馬車の屋根から飛び出している。その姿は、さながら『青ひげ王女危機一髪』。
そんな青ひげ王女は、時速百五十キロで流れゆく景色を堪能している様子だ。
口に飛び込んできた枝葉を、ベルティーナはおいしそうに食す。
風圧のおかげで、顔面がゲテモノっぽくなっているベルティーナは、「あばばばぁ~」などと、一人でわめきちらしている。
王女うるせぇ……。
森に近づいていることを察知したヒロシは、頭上ではしゃぐベルティーナに注意を促す。
「王女殿下。屋根から王族の顔を出さないでください。どうせなら、中から開ける扉から顔を出せ! オマエが引っ込めば、時速二百キロは軽く出る! というか、俺の大事な馬車を弁償しろっ! 保険は? ねえ、保険入ってる?」
返事がない。
ベルティーナがおとなしくしているのは気になるところだ。
昼寝でもしているのかと、ヒロシは話しかけずにいた。
馬車はひた走る。
適度な揺れが心地いい。
森にさしかかったころだ。
ギャフッという声がしたかと思えば、ベルティーナの姿が、こつぜんと消えた。
馬車の天井に穿たれた穴から、ヒロシが顔を覗かせる。
地面にベルティーナはいない。
後方の上空を見上げると、ベルティーナは木の枝にぶらさがっていた。
「天日干しされたコアラみたいになってるじゃん。だから、危ないって言ったのに」
「ヒロシさま、危ないとは一言も……。ほぼ罵倒でした」
近くにいたメイド一号が、光よりもはやいツッコミをいれてくる。
「どうせ聞こえてなかったでしょ。それはいいけど、どうするかな。アレ……」
放置しようと思ったヒロシだが、残念な王女を救出しようと、重い腰をあげた。
「緊急停車っ!」
戦場で部下を鼓舞する指揮官のように、ヒロシが力強い声で命令を下す。
「オーダー! 緊急停車っ!」
メイド長が、ヒロシの命令を復唱する。
続けてメイド一号・二号へと、ヒロシからの指令が流れてゆく。
一八号へと伝わるころには、緊急停車が、筋肉注射に変わっていた。
「アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)作動!」
メイド長のひと声で、馬車の床が開く。
二十名のメイドが一斉に足を出し、ブレーキをかける。
ABSは、ブレーキをかけた時に車輪がロックするのを防ぐための装置だ。
足を出したり、引っ込めたり。
メイドたちの見事な足ワザにより、馬車はスムーズに速度を落としてゆく。
絶妙なタイミングで、馬車の後部からパラシュートが放たれる。
推進力の落ちた馬車は、完全に停止した。
「馬車は定員オーバーぎみだ。玉座とお姫様はここに置いていこう」
「玉座を放出します! このド畜生がぁ!」
重量およそ二百キロの玉座を、メイド長が馬車の外へぶん投げた。
「ヒロシさま。玉座の“おまけ”である王女が、顔から落ちて地面に刺さりました。ちなみに、地面は石です。追加情報! 王女のパンツの色はピンクです! 繰り返します。ピンクです!」
双眼鏡を片手に、メイド長が涙ながらに実況をしてくれる。
「路面に刺さった王女が、『Y』みたいになっています。『Y→M→C→A』の順で動かしています……。ヒロシさま。急いだほうがよろしいかと。今度は『S→O→S』に……」
「Mってなに?」
「M字開脚ですね。いったん休憩をはさんだようです」
「じゃ、Aは? 折れたの? 王女の脚……」
「木の枝を脚にはさんだようです。ちなみに、地面に刺さった王女さまは、現在、ベルティーナのティーナ(下半身)しか見えていません」
メイド長が、ノリノリで実況を続ける。
「続報! Y形態を維持したまま、王女さまが地面に吸い込まれています。脚をパカパカと開閉しています。トチ狂ったアリジゴクに見えて仕方ありません」
「わるいけど、メイド数人で王女を“収穫”しといてくれる?」
道幅が狭いため、馬車をUターンさせる余裕がない。
ヒロシの馬車は後退が可能。だが、地面に生えた王女の収穫は、清掃担当のメイドに任せ、前進することにした。
「徐行モードで出発!」
ヒロシが号令をかけると、メイド全員の足が一斉に引っ込んだ。




