6・5 おまけ2(謁見その2『このド畜生がぁ!』)
ヒロシとメイド長は、むだに広い謁見の間に来ていた。
再びこんな場所に来られるなんて、夢のようだった。
というのはウソで、内心、ヒロシは面倒くさいと思っているようだ。
なにかやらかした?
ベルティーナ王女の替え玉事件で呼び出されたとか?
ヒロシは不安に苛まれながらも、城内の華やかな景色に目を奪われていた。
というのもウソっぱちで、はやく帰りたいと思っている……らしい。
「ピロシ、よく来てくれた」
考えごとをしていたヒロシに、ハミデール国王が言葉をかけた。
国王は、無駄な装備を搭載した玉座に鎮座する。
ひじ掛けに装着されたバックミラーで、クルっとしたヒゲを整える。
王族は後退などしないとかなんとか、ベルティーナ王女の言葉を、ヒロシは思い出していた。
あいもかわらず、ヒロシは小粒の宝石を大量にデコレーションした、和風のヨロイを身にまとっている。
ついでに、ピンクの兜を被っている。フルフェイスのため、ヒロシの顔は良く見えない。
メイド長の装いも、ヒロシに負けてはいなかった。
V字サスペンダー型変態水着+エプロンx2という服装に、目出し帽。
帽子の上から『2002』という、変なメガネを装着するという徹底ぶり。
例えるなら、『要らないのに変なテンションでお土産を買った変態メガネイド』だ。
変態メガネイドは、不安そうな面持ちで国王の様子を窺う。
替え玉の件、いや、正確には逃走した件でこっぴどく叱られると思っているのか、ヒロシは俯いたまま黙り込んでいる。
ヒロシに変わって、変態メガネイドが言葉を発しようとした時だ。
ハミデール国王が、先に口を開いた。
「勇者ピロシ。娘が世話になった。いろいろな意味でな!」
国王の表情は、どこか穏やかだ。
「その変態……いえ、王女さまの姿が見えないようですが……金髪ドリルで穴でも掘っているのでしょうか?」
安堵した様子の変態メガネイドが、ヒロシに代わって返答した。
「新型玉座の改造をすると言ってな、自室に籠りっぱなしだ」
「新型ベルティーナ・スレイヤーを試したかったのですが、残念です……」
変態メガネイドは、『ベルティーナ・スレイヤー・マークⅢ(アダマンタイト製)』を開発していたのだ。
「ベルティーナ・スレイヤーと言ったかな?」
国王は不安そうな表情で、変態メガネイドを見やる。
「聞き間違いです。ベルマーク・スゴイナーです!」
「いや、ベルティーナ・スレイヤー……」
「言ってません……」
変態メガネイドが、かぶせ気味で否定。
「いや、ベル……」
「そんなことより、国王陛下。イヤな予感しかしません。ベルティーナ王女のことです……陛下の玉座のように、“変な装備をてんこ盛り”にしないといいのですが……」
玉座の変な装備に目をやる変態メイド。
首がヘロヘロと動く、どこかの大統領を模した微妙にこわい人形。
ひじ掛けについている、変なボタン類……。
変態メガネイドは、異彩をはなつ『ESC』と記されたボタンを押したそうな顔をしている。
“緊急脱出用”のボタンらしい。
「押すでないぞ、ゼッタイ押すでないぞ?」
前振りだろうか。国王が慌てて注意を促す。
「ええ、脱出用は押してはいけません……ゼッタイ押してはいけませんともっ!」
そう言いながら、変態メガネイドは不敵な笑みを浮かべる。
「どうしたピロシ?」
ヒロシが無反応なことに、国王は違和感を覚えたようだ。黙りこくっているヒロシの顔を、細めた目で見ている。
「ヒロシさまは、お疲れのようです……って、アレ?」
ヒロシの顔を覗き込んだ変態メガネイドは、異変に気付いたらしい。
ヒロシと思っていた人物は“人魚”だった……。
「国王は気づいてないようです……」
人魚が耳打ちをする。
「人魚姫。ヒロシさまは、いまどこで何をしているのです?」
「光る泥ダンゴ・フェスティボーに顔を出すから、あとはヨロシク! って……」
「あのド畜生がぁ!」
「メイド長、どうします? この状況……二人で土下座します? ブラック柳徹子さんのマネで……」
「しばらく国王陛下を泳がせてみましょう。面白そうなんで」
変態メガネイドの親指を立てる。
変態メガネイドの提案に、人魚が無言で大きくうなずいた。
ヒロシを近くで確認したいのだろう。
ハミデール国王が動き出した。
赤い絨毯の張りついた十段ある階段を、ガッタンゴットンと玉座ごと下りてくる。
地面に到達した国王は、巨大な宝石がくっついた杖で床をコンと突く。
「ピロシ。来てもらったのは、ほかでもない――」
声を出すとバレしてしまうため、偽ヒロシ(人魚)は一言も発しない。
「お断りします!」
変態メガネイドが、ヒロシの言いそうな返答をする。
咳払いをすると、国王が繰り返す。
「来てもらったのは――」
「だが断る!」
人魚は思いきり声をだしてしまった。
「ピロシ……声が高くないか……」
「ブラック柳徹子さんのマネです……」
人魚は、ふたたび声をだしてしまった。
「似てねぇっての!」
変態メガネイドが、新型ベルティーナ・スレイヤーで人魚の後頭部を思い切りド突く。
吹き飛ぶ兜。
露出する、人魚の長い髪。
ハミデール国王が、人魚(偽ヒロシ)の顔を二度見する。
「って、人魚やないかいっ!」
ハミデール国王は、やっと替え玉に気付くのだった。
「痛いの痛いの、飛んでいけやっ!」
変態メガネイドが、光の速さで『緊急脱出ボタン』を押下。
天高く打ちあがる国王。 勢いそのままに、天井にぶっ刺さる。
「撤収っ!」
変態メガネイドの号令で、人魚も動き出す。
転移魔法が使えない変態メガネイドは、時速80キロでダッシュ。
変態メガネイドが、逃走に成功したのは言うまでもない。
人魚にいたっては、硬い床でのバタフライ。
進まない体。顔面強打……。
全力を出しているようだが、人魚の時速は1キロ。
「このド畜生がぁ!」
取り残された人魚が、咆哮する。
彼女の顔面は、試合終了直後のカンガルーっぽいボクサーのようだ。
「ピロシ! おまたすぅ~!」
騒ぎを聞きつけたベルティーナが、床を頭でぶち破って現れた。
ダウンジング(ヒロシの探索)を開始するベルティーナ。
自身の金髪ドリルを『↑↑←→(上上左左)』と顔を動かし、人の気配がないか確認する。
「まだ下を見てなかったのよさっ!」
ベルティーナは、金髪ドリルを下に向け、地面に視線を落とす……。
逃げ遅れた人魚とバッチリ目が合ったベルティーナは、いつものように雄叫びをあげた。
「って、半漁人はおったんかぁーーーい!」




