5・5 おまけ1(謁見その1『トランプの絵か!』)
王女の護衛任務を終えたヒロシは、むだに広い謁見の間に来ている。
ベルティーナが頭突き開けた床の大穴は、すでに塞がれていた。
二日と経っていないのに、なんだか懐かしい気分だ。
ヒロシが城に呼び立てられた理由は分かっている。
護衛任務が終了したことは、ハミデール国王の耳に入っているはずだが……。
別件で俺になんか用があるのか?
人魚がベルティーナに成りすましていた件で、国王が“激おこ”とか?
なんにせよ、はやく家に帰りたい……。
「よく来てくれた。遠路はるばるご苦労であった」
考えごとをしているヒロシに、ハミデール国王が労いの言葉をかけた。
国王は機動力の高そうな玉座に鎮座する。
赤いカボチャっぽいボリューミーな王冠が残念さを醸し出す。
グリンと上にカールしたヒゲを蓄えた面長の顔。
トランプの絵か!
ハミデール国王を見た感想が、ヒロシの口からこぼれ出る。
国王との謁見とあって、ヒロシは思い切り着飾っていた。
実用性と美しさを備えた玉座と比べても、ヒロシの風姿は引けをとらない。
小粒の宝石を大量にデコレーションした、和風のヨロイを身にまとっている。
端正な顔立ちなのに格好が微妙なことから、歩く宝石箱と呼ばれることがある。
「ヒロシさま。王のご前で、その格好は……」
「は?」
ヒロシは、付き添っているメイド長を横目で見やる。
いや、メイド長の格好もアウトだろ……。
メイド長の服装は、ヒロシに負けてはいなかった。
V字サスペンダー型変態水着に、目出し帽という装い。
帽子の上からメガネを装着するという徹底ぶり。人呼んで、変態メガネイドだ。
そんなことはどうでもいい。はやく家に帰りてぇ……。
というか、国王の隣に居るのって……。
「勇者ピロシ。娘が世話になった」
ハミデール国王が破顔する。ヒロシの名前を覚える気がないらしい。
きわめて失礼な二人の格好は、まったく気にしていない様子だ。
娘じゃないぞ、その人。
国王……隣にいるのって人魚だよ……。
ヒロシは眉間にシワを寄せながら、蚊の鳴くような声でつぶやいた。
全ての部品がピンクで統一された王女専用の玉座に、偽ベルティーナが腰掛けている。
王女っぽく見えるが、ピンクのドレスを纏った人魚だ。
「ヒロシさま。国王陛下は、王女の替え玉に気づいてないようです……」
「面白そうだから様子見ってことにしよう」
不敵な笑みを浮かべた変態メガネイド(メイド長)が、大きくうなずいた。
裏返した左手を口元にあて、おほほ笑いのフリをするベルティーナ__のニセモノ(人魚)。
くるぶしが隠れるほどに長いスカートをたくし上げ、人魚の“魚の部分”を露出させる。
細く長い尾ひれを小刻みに動かし、玉座ごと移動しはじめた。
俯き加減で、ゆっくりとヒロシたちのもとへと向かう。
偽ベルティーナが動くたび、金髪縦ロールが元気に揺れる。
金色の髪は、間違いなくウィッグ(カツラ)だ。
ハミデール国王が動き出した。
赤い絨毯の張りついた十段ある階段を、ガッタンゴットンと玉座ごと下りてくる。
地面に到達した国王は、巨大な宝石がくっついた杖で床をコンと突く。
「来てもらったのは、ほかでもない――」
「お断りします!」
「……勇者“カワグツ・フロス”。いや、報告を聞きたいのだが……」
「ヒロシさま。そうじゃねぇっての!」
変態メガネイドが、ヒロシの後頭部をド突く。
「ヘンタイ王女の護衛の件ですね?」
「ヒロシさま。ヘンタイは失礼ですよ?」
メイド長が、ヒロシにそっと耳打ちする。
「ドヘンタイ王女の護衛の報告ですね?」
「なぜ言い直した?」
愛娘をヘンタイ呼ばわりされた国王の表情は、どこか悲しそうだ。
「報酬は これでいいかな? ユルドルで」
鳴かぬなら、そんな感じのホトトギスっぽいリズムだった。
顔に喜色を浮かべた国王が、五本の指を立ててみせる。
「ゴホンといえば……」
「リュウカクサンですか?」
ヒロシが渾身の一撃を繰り出す。
違うらしい。
国王は胸のあたりで大きなバツを作ってみせた。
「キャラメルに持っていかれた歯が五本ってことですか?」
「フロス、おぬしは何を言っておる。五百万ユルドルという意味だ」
「はい、よろこんで!」
光速で承諾したヒロシの表情に迷いはない。なんとか棒という、国民的な駄菓子が五億本ほど買える額だからだ。
メカと魔法が混在するハミデール王国は、日本や欧米の文化を多く取り入れている。
通貨単位は『ユルドル』。ユルいと米ドルがあわさったものだ。
こうした文化をハミデール王国に持ち込んだのは、別世界からの転移者などである。
ハミデール王に日本の文化をゴリ推したのは、ヒロシだ。
声を出すと身バレしてしまうからか、偽ベルティーナは、さきほどから一言も発しない。
偽ベルティーナに代わり、ハミデール国王が口を開いた。
不安そうな面持ちの国王は、偽ベルティーナの肩にそっと手を添える。
軽く咳払いをすると、ハミデール国王が続ける。
「引き続き、護衛を頼みたい。ベルティーナから“モンスターを護って”ほしいのだ」
「いやですわ、お父様ったら。モンスターから私を護るでしょ?」
ぼちぼち、声をださないとマズイと思ったらしい。
人魚が口を開いてしまった。
ハミデール国王は、愛娘(偽ベルティーナ)の顔を二度見する。
「って、人魚やないかいっ!」
ハミデール国王は、やっと気付くのだった。
ヒロシと変態メガネイドは、光の速さで帰宅したのは言うまでもない。




