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1 王族に地面など必要ない(プロローグ)

 キャスターつきの玉座に座ったまま、王女が敵国の城下町を駆け抜ける。

 ピンクのドレスは翻り、金髪縦ロールが風に舞う。


 逃げてきた敵城から、背中をおしてくれそうな音楽が聞こえてきた。

 運動会でお馴染みの『天国と地獄』だ。


「ザッポロ一番 電話は二番 三時のおやつは 文明開化の音がしなぁーい!」


 ニコニコ顔で歌いだしたピンクの王女は、玉座の上で立ち上がる。

 ひじ掛けに足をのせ、両手をひろげる。いまにも落ちそうな勢いだ。

 というか、すでに玉座から投げ出されていた。


「王女いねぇし……」


 力なく呟いたのは、玉座の動力源となるべく、日本から召喚された『ヒロシ』だ。


 背もたれにしがみつくヒロシは、後方でダッシュを決め込む王女を視認した。


「すげぇ顔……。元が良いだけにもったいない」


 時速百二十一キロで追いかけてくる王女は、パンチのきいたプードル(パプードル)のようだった。


「顔で思い出した。保湿しとこう」


 ヒロシは、液体の入った瓶をひじ掛けから取り出す。

 ピタピタとお肌に水分を与えつつ、パプードル王女の様子をうかがう。

 

「やっと追いついたわ! “追突注意の看板”にぶつかって、くるのが遅くなりましたっ!」


 王女は走る。

 パンチ・かかと落とし・ドロップキックを使い分け、行く手を阻む障害物をぶち壊す。

 たまに舌を噛んでいるせいか、ちょびっと涙目だ。


「いいから玉座に戻れって!」

「ガッテンです!」


 ちょっこす飛んでみるでね! と発すると、王女は天高く舞い上がる。高度二百メートル。

 急降下したかと思えば、スッポリと玉座に収まった。


「ただいまっ! なんの話だったかしらね……恋バナナ?」

「修学旅行一日目の夜かな? それはいいとして、敵の兵隊さんが……」


 前方には、先回りしていた敵兵たちの姿。

 高そうな事務イスに座るのは隊長だろう。

 イスごと移動しながら、魔導ミサイルで王女を狙い撃つ。


 飛んできたミサイルを、王女は白刃取りの要領でキャッチした。

 王女の額にブチ当たる、ミサイルの先っちょ。爆発しないで済んだらしい。


「敵国の民でも傷つけたくないわね」


 半額シールを貼り、王女は被害が少なそうな場所に放り投げる。


「なんで半額?」

「店長おすすめシールを切らしているの!」


 王族割引ってことで、ヒロシは納得した。


「王族に地面など必要ないわ。飛んでこそ玉座! 飛ばないイスなんて、具の入ってないお好み焼き同然ね。ビンボー飯の代表選手。“エコノミー焼き”なのよさぁ! おもちの入ってないうどん。非力うどんもあったわね! そうそう、喉におもちが詰まったら、頭をトォーンって__」

「決めの台詞、なげぇよ! はやく飛べ!」


 二人をのせた玉座は、火花を散らしながら石畳の街道を滑空。

 立ちふさがる敵兵たちを跳び越えた。


 空中で回転する玉座は、まさに戦闘機。

 敵が放った数発のミサイルを、王女は額のホクロから噴射したカレー汁で撃ち落とす。


 爆ぜるミサイル。

 ほとばしるカレー臭。


「なんで玉座のひじ掛けにテレビのリモコンが入ってんの? おじいちゃんの座椅子なの?」

「ピロシに訊きたいのだけれど、こどもは何人ほしい?」

「俺のはなし聞いてる?」


 ヒロシは、自作の光る泥ダンゴ(ソフトタイプ)を敵兵に投げつける。

 敵がケガをしないよう、やんわりと。


「玉座の出力が足りないの。もっと鼓動を高めなさい! 私のヒザに座りなさい。座るって英語で言うと、シャットダウン!」

「俺の人生、十七年で幕を閉じるのかな?」


 便器を搭載する玉座のポテンシャルを引き出すには、恋愛感情が必要だ。

 人呼んで『エモーション・ドライブシステム』。

 ヒロシが王女に恋愛感情を抱かないと、玉座はタダの便器自動車に成り下がってしまう。


「ヒザ枕をしてあげる。ピロシ、頭をのせなさい。私の頭にピザをのっけてもオッケーだぞっ!」

「いや、ムリだ。こんな状況でトキメクわけねーからッ!! で、なぜにピザ?」

「ダメかしら? じゃあ、ピッッツォォォー!」

「本場イタリアを超えたな!」


 ヒロシには本物のお姫様抱っこ(お姫様に抱っこされている)を堪能する余裕がない。


「エモーション・ドゥラァァァイ、ブ?」


 ターボ王女が叫ぶ。疑問形で。


 加速を続ける玉座。

 やがて、時速三百キロを超えた。


 吹き飛ぶ風景。

 ついでに、“人っぽい何か”が、どえらい勢いで飛んでいった。


 お姫様に抱っこされていたはずのヒロシの姿は、ない……。


 かくして、大国の王女とフツーの高校生だったヒロシの逃避行がはじまる。


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