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<R15>15歳未満の方は移動してください。

私と政略結婚をさせられそうな伯爵家長男が純粋な恋愛をしたがっているので美しくて上品な公爵家令嬢をおすすめしているのですが、なぜか毎晩私の部屋に来てしまいます

小さな島で育った令嬢である私、ルーナは海辺で過ごした。


と言っても島は砂浜で本国と陸続きになっていて、私は13歳になった時に、本国の宮殿で暮らすように定められていた。


しかし、13年間貴族としてのたしなみを身に着けている人と、のんびり海で貝やカニと戯れていた私では、行動の要領の良さが違うのである。


だから、私はいっつも、オルドに呆れられていた。


オルドは伯爵家長男の由緒ある育ちで、なんと私と同い年。ちなみに私たちは政略結婚させられる予定だと、大人びた事情に詳しいオルドから、14歳の時に聞いた。


そんなオルドは、私と結婚するのを嫌がっている気がする。


18歳になった今でも。


私とオルドは職務の合間に顔を合わせ、仲がいい雰囲気を宮殿中に発信している。


オルドが


「とりあえず周囲が政略結婚を望んでいる以上、そうしとくのが大人ってものだ。ただ俺は純粋な恋愛がしたい」


そう言っているので私もそれに従っているのだ。


今日はお昼から、ぽかぽかとした宮殿の中庭で、オルドと紅茶を味わおうとしていた。


ん?


味わおうとしていたって言い方が変?


だよねえ。


でも、今日は私はほんとにおっちょこちょいだった。


「オルドお待たせー! わっ」


ばしゃっ。


「紅茶、全部こぼれちゃったな…」


「オルドごめんっ」


「…大丈夫。怪我はない?」


「私は大丈夫よ。それより…」


こんな私がドジでも穏やかでいてくれるオルドはやっぱり大人びている。


けれど、私はそれだからこそ、自分がみじめになっちゃった。


「ごめん。オルドの服に紅茶がついちゃってるわ」


「あ、ほんとだ。まあこれくらい…」


「あの、よかったらこれで隠して」


「えーと、これって…」


「ちっちゃいぬいぐるみ」


「可愛いな。けど、服に着けたら違和感すごくないか。どこかの世界の女子高生の鞄みたいになるぞ」


「確かに…」


「でもありがとう。これはこれでもらっておくよ」


「うん…」


ああ。相変わらず全然役に立たない。私の特技。


私の特技って、一応色々な動物のぬいぐるみを作ることなんだけど、でもそれが全然役に立たない。


他がダメすぎるから自分の特技でカバーしていけたらいいのにさ!


全然そんな風にうまくはいかないよねーっていう。



「あのっ」


「どうした?」


「オルドってさ、純粋な恋愛がしたいんだよね?」


「そうだな」


「あのー。それなら私協力できるかも」


「おお」


「っていうのも、オルドってさ、ちょっとユーレンのことが気になってるでしょ」


「気になっている? 僕はね、いろんな人に興味を持つようにしているよ。それが大人ってものさ」


「はいはい。それで…ユーレンのことは可愛いと思うかしら?」


「まあ、結構。二番めとかくらいには…」


「二番目? え、一番は?」


「えーと、まあ、僕に近い人かな…」


「なるほど、要はお母さんね」


というのもオルドのお母さんってすっごく美人なの。けど、それ言うとマザコンみたいになっちゃうから、言わないよねー。


「いや、それは違く…」


「とにかく、ユーレンの好きなもの私知ってるの」


「ユーレンは何が好きなんだ?」


「ユーレンって、動物好きなのよ」


「動物」


「そう。でもオルドってあんまり動物に詳しくないでしょ」


「少しずつ詳しくなってるけどな、君のおかげで」


「それよそれ。私も田舎の海辺育ちで自然とは戯れてきたわ。その話をいっぱいしてあげるから、ユーレンとの会話のネタにしてね」


「確認したいんだけど」


「うん」


「どうして僕が純粋な恋愛をするときに、ユーレンが相手になるって決まっているんだ?」


「この前見てしまったの」


「何を?」


「二人で抱き合っていたでしょう? 宮殿の裏の、海が見える階段で」


「あ、あれはユーレンが転びそうになっただけで…」


「いいのよ。私だって協力したいと思ってるから。ま、今日から色々話のネタを提供してあげるわ。私、イルカと泳いだことだってあるのよ」



その日の夜、私の部屋をオルドは訪れた。まさかオルドから話を聞きに来てくれるなんて。相当やる気がありそうね。



「じゃあ、今日は私がアザラシと交流を深めた話をしてあげるわ」


「アザラシ…ってなんだ?」


「可愛くて丸いのよ。そうだ。ちょうど私が作ったぬいぐるみがあるから、見せてあげる。こんな感じよ」


「なるほど。この動物は人気なのか?」


「人気よ。どこかの世界では、このアザラシの様子をみんなで鑑賞している人々もいるらしいわ」


「物好きだな」


「ううん。気持ちは分かるわ。本当にかわいいの。ユーレンも好きだしね」


「ユーレンの話はいいんだ。今僕は君と話しに来ている」


「あ、うん……意外と照れてるのね。とにかく、アザラシって、魚を食べるのよ」


「魚しか食べないのか?」


「魚しかってことはないかもしれないけど、主には魚ね。あと、小さいころはもっとふわふわなのよ」


「これ以上にふわふわ……」


「そうっ」


「面白い生き物だな」


こうして、私とオルドは夜遅くまでお話をした。


いい時間だった。


私も、いつか、本気で愛してくれる人とお話に明け暮れたいものだ。



オルドはそれからも、毎日私の所に話にやってきた。


だんだんオルドは私の部屋でリラックスしてきて、二人で、ベッドに座って話をするようになった。



そして、いっつも私と話をしてから満足そうに夜帰っていく。


で、結局私と話して蓄えたネタは、ユーレンに使っているのだろうか?


そこのところが気になった私は、社交場でのオルドの動きに注目してみたりしたけれど、ユーレンとオルドは、ちょっとしか話している様子がない。


そんなあ。ま、まだまだここからでしょ。


と思ってたら、ユーレンとオルドの関係に変化があったようだ。


ユーレンは宝石の交易の仕事をしているんだけど、どうやら、オルドがそれを手伝うことにしたようだ。


「オルド、ユーレンと仕事をすることにしたんですって?」


私はその夜早速その話をオルドに振った。


「まあな。色々あって、そっちの仕事に興味が出たんだ」


「いいことじゃない。オルドのいう、純粋な恋愛ってのに、近づいてるんじゃないの?」


「確かに、近づいてはいる気がするな」


「でしょー」


「ちゃんと待っててくれよ」


「ん? うん…待つ待つ。それで、これからはどうする? 毎晩ここで話のネタをためるってよりも、そろそろ開放する時じゃない?」


「いや、開放はすでにしている」


「あ、そうなんだ。それはよかった。それにしても、いきなり仕事を手伝うっていのはすごいね。宝石に興味あるんだっけオルドって」


「いや、普通くらい。ただ、最近は興味がある」


「なるほどー」


「多分、ルーナは色々と勘違いしているから」


「え?」


「もうしばらくたったら、ルーナは驚くことになるだろうね」



意味ありげなこと言ってるけどオルド、もしかして結構すでに関係が進んでいるのかしら??




けれど、なぜかオルドは毎晩私の部屋に欠かさず来ていた。


「いいの? ユーレンと夜を過ごしたりはしなくて」


「いい。それは僕に必要なことではないからね」


「どういうこと……?」


「そろそろ準備ができたから、明日の晩、僕の部屋に来て欲しい」


「わ、私が?」


「僕の部屋、長らく来ていないだろう。本当に幼少期以来じゃないか?」


「そ、そうね。でもオルドがそう言うなら、お邪魔させてもらうわ」



と返しつつ私は動揺していた。


だってうちの宮殿で男性が女性を部屋に誘うっていうのは、婚約したい人にするものだって決まっているのだから。




そして私は次の日の晩、オルドの部屋の扉をノックした。


オルドはすぐに出てきてくれて、中に入ったら……。


「すごいぬいぐるみの数じゃない!」


「そりゃあそうだよ。今まで君がプレゼントしてくれたの、全部飾っているんだ」


「そ、そんな……ありがとうオルド」



「僕はずっと考えていたんだ。君が自分に自信がないのはどうしてかなってね」


「自信……? そりゃあ全くないわよ。だって私っておっちょこちょいだし、振る舞いも優雅じゃないし」


「僕は、君と過ごして楽しかった。だからこそ、ずっと考えていた。どうしたら純粋な恋愛だと、『君に思ってもらえるだろうか』って」


「えっと……」


「だってそうだろう。僕たちは婚約することを周りから、宮殿中から期待されている。けれど、それとは関係なく、僕が君と結婚したいと思っているとしたら。その気持ちは中々君に伝わらないんじゃないかって」


「オルド……」


「だから準備を入念にすることにしたんだ。ユーレンに色々と教えてもらってね」


「ユーレン? 一体何を……?」


「ユーレンは宝石の取引をしているだろう。それで彼女は宝石に詳しいんだ」


「うん」


「だから僕は、ユーレンの知り合いの宝石職人に弟子入りして、ここのところ宝石の加工をしていたんだ」


「またすごそうなことを」


「初心者だからかなり大変だったけど、頑張った甲斐があったよ。ほら」


オルドが自然に取り出した箱には、輝かしい宝石が。


緑色の、深さを感じる光沢だ。


その緑の宝石は、私の指と同じくらいのサイズのリングと一緒になっていた。


「これ、私に……?」


「もちろん。君はすぐに自分をダメだと思っちゃうからね。これくらいしないと、僕が本当に君を愛してるってわかってくれないだろう?」


そうしてオルドは私の指に指輪をはめてくれた。

とてもピッタリで、私のことをとっても知っているオルドが作った指輪だった。


「オルド……私、変なことばっかりしてたのね。ごめんね」


「謝ることはない。もっと僕が君に素敵だときちんと言えていたら良かったんだ。これからは……」


「うん。私、純粋にオルドを愛していいのね?」


「そうしてくれたら、僕は本当に嬉しいよ。なぜって僕はずっと、純粋に君に惚れていたんだから」


オルドは私を抱きしめてくれた。


「ありがとう、オルド」


「いつもルーナはぬいぐるみを作ってるからかな。君の近くにいると柔らかい雰囲気になるよ」


「私こそいつも以上にそうだわ」


「今度、そうだな、アザラシを見にいきたいな」


「ええ、行きましょう。きっとそれは素敵な旅よ」


そう言えば、自分の故郷にオルドを招待したことがなかった。


私の大好きな海辺でオルドとのどかに過ごす時間を想像し、きっと向こうもおんなじ想像をしたもんだから、私たちは思わずロマンチックになってキスをした。


お読みいただきありがとうございます。

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